◆ どうして、貴女なの? ◆
空から白い雪がチラホラ舞う頃になると、人々の帰宅への足取りも早くなる。
クリスマスソングやイルミネーションに人々の気持ちも浮き足立つ。
午後6時…
退社時刻になり、そのビルからは一斉に人の流れがあった。
その流れの中から涼子は人を探していた。
ブルーのコートを身にまとい、凛とした雰囲気の女性が流れに乗って現れた。
ナオだった。
涼子は思いきって声をかける。
「イチミヤ ナオさんですね?」
「はい?」
何故、涼子はナオの職場を知ることができたのか?
度々、カケルはこの場所に車を停めてナオを待ち伏せしている。
大通りに面したこの場所で、よく知る車を見つけるのは容易であった。
その車に乗り込むナオを見ていたのである。
「ああ…あの時の林檎の…」
彼女が誰なのか…理解するまでに然程時間はかからなかった。
ナオは軽く会釈した。
涼子は、真っ直ぐにナオを見つめ…そして言った。
「話があるんです」
◆
二人の姿はナオの職場から差ほど遠くないカフェにあった。窓際の席に座ると、それぞれ飲み物をオーダーした。
黙っている涼子。
二人の間に緊張が走る。
そんな、空気を払拭したのはナオだった。
いつまでも、お互い黙ったままでは話が先に進まない。
涼子は何かを決して自分に会いに来たのは解っている。
そして、話の内容も想像出来たからだ。
「涼子さん…でしたね?話ってカケルくんのことですか?」
その言葉が合図のように、涼子はナオを見た。一文字に結んだ唇が動いた。
「どうして、カケルは貴女とお付き合いしているんですか?」
悔しさを隠すようにその唇を噛み締めている…
予想はしていたとはいえ、ナオは即答出来ない…
間もなくして、ウエイトレスがオーダーした紅茶とカフェオレを運んできた。
「失礼します。ごゆっくりどうぞ」
ゆっくりと一礼してウェイトレスが立ち去る。
残された紅茶とカフェオレからは、暖かい湯気が立ち上がっている。
この合間が、気持ちを落ち着ける少しの時間となった。
小さく深呼吸したナオはティーカップに手を添えた。
「カケルくんが、好きなのね?」
涼子の頬は見る見る赤くなり、それはイエスと答えているように見える。
「失礼ですけど、カケルよりずっと年上ですよね?私のほうがずっと前からカケルが好きだったのに酷くないですか!!」
涼子の直向きさが伝わる。
何を言いたいのか、ナオには解っていた。
ナオは涼子の話に一心に耳を傾けた。
娘と歳の変わらない涼子に娘の面影が重なる。
その時、二人のいるカフェの前を人影が過る。
准だった。
それは、本当に偶然だった。
その横には、恋人らしき女性が准の腕に手を回している。
准の目に二人が映った。
「え!?どうして…」
ミスマッチの二人を見て、ただならぬ雰囲気を感じた准は、少し離れた場所の窓ガラスを叩く。
付近の客はその行動と音に驚き、怪訝な面持ちで准を見つめるがナオと涼子の耳には届かない。
その余裕が無いというのが正しいのかもしれない。
「ちょっと、何?准!」
一緒にいた女性は唐突な准の様子に慌てる。腕を引く女性の手を振りほどくと…
「ちょっと、待ってて」
そう言い残すと女性をその場に残して准は慌てて店内に飛び込み二人の元に駆け寄った。




