◆ 気があるよね? ◆
「もう一軒いきましょう!一宮さん」
そこには、一次会を終えた男女の姿があった。15人位の賑やかな輩はナオの会社の面々である。
「ごめんなさい。私は今日はこれでね…みんなで楽しんできてね!!」
黒のセーターにダークグレーのスーツ。
スラリとしたフォルムは、遠くからでも目につく。
賑やかな仲間から一人外れたのはナオだった。
「はーい!またね~ナオちゃん」
同僚らしき女性が手をふる。
今日は一次会だけの約束で参加したナオを皆は素直に笑顔で見送る。
いや、一人を除いては…
「そんなこと、言わないで行きましょう!一宮さんっ!!」
先程から、ナオを引き留めている男性だ。
後輩である進藤はナオより8つ年下でバツイチである。
にも関わらず女子社員に人気だ。
進藤は、何かにつけナオに相談事を持ちかけたり、食事に誘ったりアプローチをしているのだがナオにとっては後輩以外の何者でもなかった。
普通、進藤を狙う女子社員にとっては、ナオは疎ましい存在であろうが、誰もが羨むナオの容姿とサバサバした気持ちのよい性格にその様な感情を持つ者は誰一人としていなかった。
8つも年上であることが、恋愛対象から除外される意識も手伝っているのかもしれない。
進藤はナオに好意を抱いている。
ナオはその気持ちに気づいてはいない。
進藤の想いは何年もの間、報われないのであった。
「一宮さんっ!イチミヤサーンてばー!」
歩き始めたナオに、叫び続ける。
いつもの冷静な進藤はそこにはいない。
お酒の力は凄いものだ…
「ごめんね~進藤クン!」
そう言うと申し訳なさそうに会釈し、女子社員に進藤を連れていくよう身振りで伝えた。
女子社員は大きく頷いて…
「ほら、行きますよ。進藤さん。置いて行っちゃいますよ~」と、背中を押した。
女子社員の声かけで諦めかけた時、一台の白い車がナオの前に停まった。
「ねぇ、あいつ誰?」
一気に酔いが覚めたように落ち着いた口調で進藤は女子社員に確認する。
「あ~ナオちゃんの彼氏でしょ?」
「え?彼氏って…え?彼氏なの?どこいくの?」
「何処って…迎えに来たんでしょ?そりゃあ、あれだけの美人なんだから彼氏の一人や二人はいるに決まっているじゃない!はいはい、進藤さんは二次会行きますよ!」
「進藤、早く行くぞ!」
ダラダラしている進藤を呼ぶ上司の声が響く。
女子社員はモタモタする様子の進藤を促し、先を歩く仲間を追いかけた。
女子社員に手を引かれながら、進藤は不満そうに何度も何度も振り返り、
ナオを助手席に乗せた白い車を見送った。
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