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戒 - 1 -

遠くで聴こえていたはずの雷鳴が、いつの間にか間近に迫っていた。

辺りは既に闇に覆われていて、分厚い雲の所為で月明りもない。

田舎町では街灯も乏しく、真暗闇に近い。

雨が降っていない事は幸いだったが、それもいつまでもつか分からない。

ゴロゴロと雲の合間を走る光は、その雲が今にも泣き出しそうな事を伝えていた。

今朝は急いでいた為に、天気予報を見なかった。当然、傘など持っていないのだ。

走るには至っていないが、競歩に近いペースで歩いて来た。

べったりと汗で張り付くワイシャツが、鬱陶しい。額からも汗が噴き出している。

ワイシャツを捲った腕で無造作に拭うが、全然意味を成していない。

「ちっ、厭な感じだ。」

思わず独白が漏れた。

人通りの殆どない、寂れた裏通り。雑木林が続くが、途中、ぽっかりと切れ間がある。

その切れ間から見えるのは、いつ建てられたのかも分からないような、廃墟と化した洋館。

こんな暗い中でも、皓い壁が異様に目立つ。昼間に見たのならば、皓とは云えない程薄汚れているに違いない。

しかし、真暗闇の中のそれは、不気味に浮かぶのであった。

「気味悪い洋館だよ・・、さっさと壊しちまえばいいのに。」

誰にでもなく発した言葉は、闇に吸い込まれていった。


夜中に雷雨が荒れ狂った翌朝、御門(みかど) (りょう)は濃いめに入れた珈琲をブラックで飲みながら、朝刊に目を通していた。

ピリリリ・・、ピリリリ・・

着信を報せる音に、ピクリと片眉を上げて不快感を顕にした。

しかし、着信を放置せずに、通話をすべく操作する。

「・・・はい。」

不機嫌さを隠そうともせずに、ぞんざいに応答した。

「・・・。」

通話相手の話を聞き、はぁと態とらしく溜め息を吐く。

「それで?」

御門は冷たく突き放す言い方をした。しかし、通話相手は慣れているのか、促されるままに説明しているようだ。

ピ。

通話終了のボタンを押し、携帯電話をテーブルに置いた。

冷めた珈琲を飲む気にはなれず、シンクに流してカップを洗ってしまった。

そして、ソファーに放置していたメッセンジャーバッグにスマートフォンを放り込むと、ジャケットを掴み家を出たのである。


カシャカシャ。

「ガイシャは、田倉雅樹、28歳。と見られます。」

若い刑事が黒い手帳を見ながら、無精髭を生やした中年の刑事に説明をしていた。

「・・・これが?」

「はい。恐らくは。着衣のポケットに入っていた財布に、運転免許証が有りました。現在、田倉の所在を確かめているので、それ次第ですが。」

「・・・曖昧だな。仕方ないか・・これじゃあな。」

その呟きは、若い刑事に向けられたものではないらしい。その証拠に、視線は被害者の遺体に向けられ、ぶつぶつとまだ何かを呟いている。

異常な屍体だった。血液を総て抜かれて、木乃伊の様にカラカラに枯れていたのだ。

「・・・胸糞悪い。」

ぼそりと吐き捨てるように云うと、停めてあった覆面へと足を向けて、歩いて行ってしまった。

「ちょっ・・、本谷さん!待って下さいよ。」

若い刑事、石上は、さっさと行ってしまう先輩刑事を慌てて追い掛けた。

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