18話
毎日着実に評価が増えていて、中にはアドバイス等をくださる方もいて非常に嬉しい今日この頃です。
ドゴンッ!!
爆発音にも似たすさまじい音が辺り一帯に轟いた。
......。
(...??)
ものすごい音がしたにもかかわらず、俺の体を穿つはずの衝撃が一向に来ない。
俺はゆっくりと目を開いた。
そして、次の瞬間うっすらと視界に映った光景に俺はより一層目を見開くこととなった。
(何故だ...?)
まさかこんなことになろうとは。
膝をつく俺の目の前には、あたかも俺を庇うかのように三人の若き冒険者が立ち塞がっていた。
――見紛うこともない、この後ろ姿は“若き風”の三人だ。
「ぬぉおおおああああああああー!」
大きな盾を真上に構えた一際大きな男が吠える。
このがっしりとした背中は間違いない、オックスだ。
口数が少なくあまり話したことはないが、後ろからでも見える雄々しい角は見間違いようもない。
そして、その両脇で共に盾を支える二人の男女はウィルとパルだ。
だが、感動的な再会の余韻に浸っている暇はなさそうだった。
徐々にオックスの逞しい両脚が折れ曲がってきている。
「っぐう!これ以上は無理だッ、早く下れッ!!!」
怪力を誇る獣人のオックスでも一人ではオーガの攻撃は受けきれない。今は仲間の2人の支えがあってようやく受け止めることができているのだ。したがってこのままではあと数秒も持たないだろう。
ここで、オックスの叫び声を聞いて反射的に俺がとった行動は下がることではなかった。
(三人で押し返せないなら四人でやればいいッ!!)
俺は三人の元へと高速で駆け寄り、盾を支える手のないど真ん中の部分を内側から渾身の力を込めて蹴りあげた。
一気に加えられた強い衝撃を受け、オーガの腕が一瞬押し返される。
それと同時に俺は叫んだ。
「今だ!全員下がれっ!!」
予め示し合わせていたかのように、全員が阿吽の呼吸で一斉に後ろに飛び退いた。
攻撃が空振りに終わったオーガは獲物に逃げられたことに怒り狂って吼えている。
「...お前らッ。何故戻ってきたッ?!」
「はぁ、はぁ。...レイさんを一人残して...逃げ出せるわけないじゃないですか。誰かを見殺しにして生き残るくらいだったら...自分が死んだ方がマシだッ!」
そう言って俺を見るウィルの目はどこまでも真っ直ぐなものだった。
俺は今まで味わったことのない感覚に包まれ、自然とある言葉を口にしていた。
「馬鹿か、お前...ありがとうな」
到底素直とは言えない俺の礼を聞いた三人はそれでも構わず笑みを零した。
そして未だ早鐘のごとく脈打つ心臓の鼓動をなんとか抑えつつ口々に呟く。
「まさか盾越しに一撃受けただけで腕がこんなになるとはな。しばらく使い物にならん」
「僕もですよ。あとで治癒魔法を掛けましょう」
「私も。死ぬかと思ったわ!」
こんな状況でも調子のずれないこいつらは将来本当に大物になるだろう、俺は一人そう思った。
とはいえいつまでも気を抜いてはいられない。今も4体のオーガが迫って来ているのだ。
俺は短刀を握り直し、意識を前方へ向け直す。
「おい、ウィル。助けてもらって早々すまないがお前の治癒魔法で俺の足は回復できるか?」
「はい!外傷というわけではないですよね?程度にもよりますが疲労の除去は可能です!」
「そうか。ならできるだけ早く頼む」
するとウィルが即座に詠唱を始める。
『我、求めるは安らぎの光、レカーヴ!』
ウィルの詠唱と同時にかざす手が光りだし、俺の脚があたたかな感覚に包まれる。じわりじわりと蓄積した疲労が抜けていくのがわかった。
この間、オックスとパルの二人はオーガの目を俺たちから背ける為に、持ち前の身体能力を生かして大声で叫んだり拾った石を投擲したりしてオーガを挑発しながら別の方向へと走り出していた。
万が一にもオーガの攻撃が命中したりすれば目も当てられない結果になるというのに二人は必死にオーガの注意を引き付けている。
彼らが命を懸けている理由はひとえに俺を助ける為なのだろう。
(...わからない。何故俺なんかの為にそこまでするのか)
俺はここにきてもこんなことしか思えなかった。
これほどまでに俺という人間は壊れているのか、と思わず自嘲の笑みがこぼれる。
ウィルのかざす手の光が治まった。俺は頭を切り替えて立ち上がり、足の具合を確かめる。
さすがに全快とは言えないが、残りのオーガを相手にするくらいは問題なさそうだった。
難しいことを考える必要はない。今やらねばならないことをやる、それだけだ。
「――さてと、最後の仕上げといこうかァ、おい!」
猛然とオーガの元へ駆けていく。
背後で若き三人の勇者が見守る中、俺は完璧な円舞を踊りきった。
***
最後のオーガの首を掻き切った瞬間、全身にどっと疲れが押し寄せ、俺は重力に押し潰されるようにバタリとその場に倒れ込んだ。
慌てて駆け寄ってきた三人が心配そうに俺の顔を覗き込んできたが、俺の瞼は最早鉛よりも重く、後のことは任せると一言だけ告げて俺は深い眠りの世界へと旅立った。
俺が目覚めたのは明くる日の昼過ぎのことだった。
ふと目を開けるとちょうど村長が俺の眠る部屋に顔を出しており、いろいろと詳しい話を聞くことができた。
「...村の家は三棟ほど壊されてしまったが、死傷者はなしだ。君が倒れてからすぐにウィル君たちと村の狩人数人が森を巡回して他に異変がないか調べたがとくに脅威になりそうなものは何も見つからなかったよ。まぁ、もし君が意識を失っているところにあと一匹でもオーガが残っていたら、私たちは今頃すべてを失っていただろうからな。改めて礼を言わせてもらおう、本当にありがとう」
村長が立ち去り、部屋には俺一人。
耳を澄ませばここからでも鳥の鳴き声が聞こえてくる。森が元の姿に戻ったのだ。
そこへ再び尋ね人が。
この村で俺を尋ねる者など決まっている、“若き風”の三人だ。
俺が寝ているベッドの脇まで来ると、おもむろにウィルが口を開いた。
「よかった。目が覚めたんですね!体の具合はどうですか?」
実は今俺の体はすこぶる調子が悪かった。俺の全身を猛烈に襲う激しい痛み。
――俗にいう筋肉痛だ。
「それがな、筋肉痛がすさまじくて。お前の治癒魔法でどうにか...」
そこへ隣に立っていた二人が割り込んでくる。
「そんなことはどうでもいいわ!それより、オーガをあんなにサクサク倒しちゃうなんて聞いたことないわよ!しかもあんなにたくさん!レイはいったい何者なわけ?」
「うむ、そのとおりだ。あんな大群のオーガを一人で撃退するなんて馬鹿げてるぞ。お前は本当にDランクか?実はSランクなんじゃないのか?」
(何者、か...異世界人だ、とは言えるわけがない)
せめて師匠がとんでもなく強く、その人に鍛えらたと言えれば良いのだが、あいつは自分の存在が外に漏れるのを嫌っていた。ならば一応は恩がある以上、俺の口から話すわけにもいかない。
俺が答えあぐねているとウィルが助け船を出してきた。
「二人とも!冒険者のプライベートには必要以上に詮索しない、このルールを忘れたの?」
珍しく鋭い剣幕を見せるウィルに二人は若干狼狽えた。
「あ、あぁそれもそうだな。悪い、今のはなかったことにしてくれ」
さすがはリーダーといったところか。
伊達や酔狂でやってるわけではないようだ。
「で、ウィル。体のことだが、これ何とかならないか?」
「あ、はい。治せますよ!今治癒魔法かけますね」
ウィルの詠唱と共に全身が光に包まれる。数秒後、俺の体を苛んでいた痛みは完全に無くなりはしないものの、だいぶ収まった。これなら普通に動くことぐらいはできる。
「でも身体強化を使っているのにそこまでの筋肉痛になるなんて珍しいですよね。ふつう後遺症なんてほとんどないのに」
「は?俺は魔法なんて使えねーよ。今練習中だ」
俺が言うと三人が同時にきょとん、としたと思いきやこれまた同時にため息をついた。
「...もうレイさんにいちいち驚くのにも疲れました」
それほど人外の動きをしていたのだろうか。自分では見ることができないからどうにもわかりかねる。
その後いくらか言葉を交わしてから三人とも部屋を出て行った。
三人を見送った俺は再び眠りにつきそして、俺たちは次の日の朝に街へと帰路についた
キリがいいところできったので少し短めです。