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Battle Freak's  作者: 雅美琉
2章~始まりの街セイレム~
18/41

17話

お気に入り登録がうんと増えました。

少しずつ読んでくれている人が増えているんだなーと思うとうれしいです。

森の入り口まで、村の中を走り抜ける間にも次から次へと必死の顔で逃げる多くの村人とすれ違った。


(こんなにたくさんの人が非難するほどやばい奴がでたのか?)


はじめに悲鳴が聞こえた場所へ、最後の角が近づいてくる。


俺は速度を落とすことなくほぼ垂直に勢いよく角を曲がった。

そして、そこで目に飛び込んできた光景に言葉を失った。


手前に立つ三人の若い冒険者と、その横で腰を抜かししゃがみこんでいる数人の村人。

そのさらに向こうには、倒れこんだまま動けずにいる村人たちに大声で逃げろ、と指示をだしつつ武器であろう斧を構える村長の姿。


だが俺が最も目を引かれたのは村長の先。


森の木々が乱暴になぎ倒され、森の最も近くにあった家は木端微塵に叩き潰されている。


そして今まさにこちらにゆっくりと向かってきている大きな魔物。


その赤色の体ははち切れんばかりの筋肉の鎧に包まれ、四メートルは裕にあろう巨躯を誇る。

おまけにその魔物は強靭な躰に加え、額から伸びる一本の角と口元から洩れる鋭い牙、見る者に等しく恐怖を与える凶悪な顔をしていた。


俺は呆然と魔物のほうを見たまま立ち尽くすウィルにそっと近づく。

俺が来たのを知ってか知らずか、ウィルは震える声でぼそりとなにかをつぶやいた。


「なん...で?こんな..ところに......オーガがっ...?!」


ウィルは目を見張ったまま動かない。


「おい、ウィル。しっかりしろ。あれはなんなんだ?」


俺が肩を揺らすたところでウィルがハッとこちらを振り向く。


「レ、レイさん!まずいです、オーガがこんなところに!――早く逃げないと殺されるっ!」


普段冷静なウィルからは想像もできない狼狽え方だった。


「...あれはそんなにやばいのか?」


「オーガはBランクの魔物ですよ!こんな人里に出るなんてありえませんっ、しかも一匹じゃないっ!オーガが群れで行動するなんて話は聞いたことがない!」


再び視線を森の方へと戻す、と先ほどのオーガ以外にも森の奥からぞろぞろと別のオーガがこちらに向かって歩いて来ているのがここからでも見えた。


なるほど。これで合点がいった。


今回の森の異変は間違いなくこいつらが原因だ。

オークが村の近辺に出てきてたのはおそらくこいつらがオークの住処に現れたからだろう。

数が少なかったのはオークの大半がこいつらに食われたとかそんなとこだろうか。森がやけに静かだったのも他の多くの生き物が本能的にオーガから逃げ出したと考えれば納得できる。


(...まぁ、今はそんなことはどーでもいいか)


オーガといったな。その姿はまさに日本に古くから伝わる怪物、


――鬼。


Bランクにもなればそれはかなり危険な魔物ということだ。

それこそ騎士団が出動するくらいに。


「――見るからに強者って感じするもんなぁ...あはっ!あははは!」


「レ、レイさん?!一体どうしたんですか?早く逃げ...」


オーガを目の当たりにしてこれ以上ないほど笑顔になる俺をウィルが心配そうに見つめる。


早く逃げようと俺の腕を引くが俺はそんなウィルの言葉を遮りそっと告げた。


「あいつらは俺が殺る。お前たちは村人の避難誘導でもしておけ」


それを聞いた三人は目を見開いた。

次いで俺たちのやり取りを見ていたパルから非難の声が上がる。



「そんなの無茶よ!オーガなんて一体でオークの群れを潰せるほどの力があるのよ!あの数のオーガの群れに近づいたらいくらレイでも死んじゃう!私たちと一緒に逃げましょう?」


俺の肩に手を当て必死の形相で説得するも、当の俺に退く気はさらさらない。

その手を払いのけ、俺は勢いよく腰の短剣を引き抜く。


先頭を歩くオーガはすでに村長の目と鼻の先に迫っていた。


「あはははっ、楽しみだ!お前ら、あとは任せたぜ?」


未だ俺を止めようとする三人にそう言い残し、俺はオーガへと駆け出す。



「ゴォォオウォオオアアアアー!」


俺が走り出すのと同時にオーガが吼えた。


ゾクリ――、


雷の如きあまりの轟音に体の芯から震える。


叫ぶと同時にオーガが振り上げた腕の真下にいるのは1組の親子とそれを庇う様に立ち塞がる村長だ。


オーガが腕を振り下ろそうかという刹那――、


「ははっ!俺も混ぜてくれよッ!!」


妖しい光沢を放つオーガの横っ腹に俺の足がめり込んだ。


ドゴッ!!


っとすさまじい衝撃音が辺りに響く。


「ゴガァアァ!」


俺の一撃を受けたオーガは悲痛な呻き声を上げ体をくの字に折り曲げた。

態勢を崩したおかげで俺の目の前にオーガの太い首筋が差し出される。

俺はその首筋にザクリ、と短刀を突き刺し、両手で押さえながら全体重をかけて切り裂いた。

傷口からは大量の血が溢れ出す。返り血が俺に降りかかる。


オーガの血の雨の中俺は振り返る。


「ここにいられると邪魔だ。村長、そいつら連れてとっとと下がれ」


できる限りオーガの意識は俺に向けたい。


「――あ、あぁ。すまない」


振り返ったところ遠くの三人と目が合った。

案の定、驚きに目を見開き、開いた口が塞がらないといった様子。

すぐ傍で地面にへたり込んでいた親子は全身に真っ赤の血が滴る俺を見て、ひっ!っと悲鳴をあげ後ずさる。

そこを村長に引っ張られ村のほうへと下がって行った。


「さて。邪魔ものがいなくなったところで俺に集中してもらうか」


ゆっくりとオーガたちの方へと歩みながら頭を覆うフードをおろす。


そして、


「うぉおあああああーー!」


吼える。吼える。吼える。


闘志を滾らせ、敵意を剥き出し、殺意を漲らせる、相対する赤の巨人どもへと向けて。


オーガの視線が一斉に集まる、敵の殺気が俺に余すことなく注がれる。

俺の声に応じるかの如く、オーガ達も一斉に咆哮をあげた。

周囲の建物がガタガタと揺れる。


オーガ達は先頭を行くものから順にこちらへと向かってきた。

瞬く間に三体に取り囲まれる。そのうち二体は大木をそのまま武器にしたような棍棒を手にしている。


「さァ。始めようかッ!」


俺の掛け声を皮切りに三体のオーガが思い思いの攻撃を繰り出す。

その一発一発が致命傷につながるものだ。

まるで地雷が爆発したかのような衝撃が、オーガの腕を、こん棒を、掻い潜る度に体を突き抜けていく。


一振りの速度も、威力も、今まで闘ってきた魔物とは桁が違う。


――だが視える。


視えるならば躱せる。


俺はまるで曲芸師のようにオーガの猛攻を避けていく。


目まぐるしい攻防の中で一瞬の隙を突き正面にいるオーガの懐に飛び込むと、思い切り回転し遠心力を乗せた蹴りを見舞った。


しかし、オーガの山脈のように隆起した筋肉に渾身の一撃はあっさりと弾かれてしまう。

即座に追撃をしようにも左右のオーガからの横やりが入り、そちらの回避に移らざるを得ない。

掠っただけでも体が吹き飛ぶのだ。


「チッ!」


思わず舌打ちをしてしまう。

初っ端のオーガを鎮めた一撃は完全に意識の外から、しかも横っ腹にぶち込んだから通った。


だが、正面からだとほとんどダメージが無いように見える。


思う様にいかない状況にイライラが募り、そしてオーガも時間の経過と共にその数を増していく。


このままじゃジリ貧だ。こちらの体力だって無限にあるわけではない。


(仕方ない...か)


俺は森を出てから初めて決心を固めた。




――今までの自分のやり方を捨てる決心を。




次の瞬間。



スッ――


俺の肩から力が抜ける。

右手を頭上に、左手を前に突き出す構え。


そこにオーガの振るった棍棒が風を切り裂きながら殺到する。



ゆらり――



軽やかに、しなやかに、振り下ろされる棍棒に沿って廻る。

まるで舞でも踊ったかのような一連の流れの中で、先程までにはなかったことが起こった。


ごとん、とオーガが握っていた棍棒を落としたのだ。

              ・・・・・・・

より正確には、オーガは棍棒を握れなくなった。


その理由は至極単純。


単に俺がオーガの力に逆らわず、すれ違いざまに腕の健を切り裂いたからオーガは腕に力を入れられなくなった、ただそれだけのこと。


俺の円舞はまだ終わらない。


初めての出来事に驚くオーガの懐に俺は滑らかに滑り込む。

そして廻っては斬る、廻っては斬る、大腿の付け根や強靭な腹筋の間などいずれも傷つけば大量の出血は免れぬ箇所を何度も何度も斬りつける。

躰の至る所を斬られたオーガはそのまま意識を失い倒れた。


――最小限の力で最大限の破壊を。


これが一年の間に俺がこの世界で生きるために叩きこまれた技の一つ“武闘円舞”。



「「グォオアアアー!」」


自分の目の前で仲間(?)を殺された二匹のオーガが怒りの雄たけびを上げた。


「あー。耳元で煩ぇ」


俺は二体同時の攻撃を側中で軽く避けると二体の膝に深々と短刀を刺し込む。

そのまま回転し短刀を横にずらせば、ぶちっと靭帯の切れる音。

急に自重を支えきれなくなった片膝の方へとオーガはの体は傾き、結果として手の届く範囲に来た首を俺は廻りながら一閃。

一切力の無駄なく、瞬く間に二体のオーガを亡骸へと変えた。



だが、視界の奥にはオーガがぞくぞくとこちらに向かっているのが見える。


まだまだ円舞は序曲に過ぎないのだ。



***



「みなさん、落ち着いて!魔物はまだ村の中までは侵入してきていません、慌てずに避難してください!」


冒険者パーティー“若き風”(ヴィンド・ユング)のリーダー、ウィルは声を張り上げる。


彼はまだ若いがすでにDランクの冒険者だ。

災害時などの緊急の際には一般人の安全を守るという義務がギルドの規則により課されている。

無論このような出先での非常事態、つまりギルドの監視のないところでまで規則を順守する冒険者はほとんどいない。

だが、少年は世の中の残酷な面を自分で体現するには些か若かったし、彼は真っ直ぐすぎた。

そしてこの少年のそうした気質は先ほどから彼の心をぎりぎりと締め付け続けている。


気が気でないのだ、一人戦場に残してきた自分とさほど年の変わらぬ冒険者は無事だろうか、と。


大方村人たちの避難が完了してきたかという頃、ウィルは残りの作業を村長に託し仲間の2人の下へと向かう。


「オックス!パル!」


「ウィル!もう村人の避難は大丈夫よね、私たちも逃げましょう」


「パル、そのことなんだけどね、僕はレイさんのところに行くよ。怪我してるかもしれないし、そしたら僕の治癒魔法が必要だからさ。だから、二人は先に逃げて」


その言葉を聞いた二人は一瞬言葉を失う。だが一際大柄な男、オックスがすぐに口を開く。


「ウィル、お前本気か?」


真っ直ぐにウィルを見つめる瞳にははっきりとした意志が込められている。

ウィルはオックスが何を考えているのかありありとわかってしまうがゆえに言葉早く捲し立てる。


「さ、さぁ、二人とも急がないと...」


「ウィル、私たちも一緒に行くわ」


その言葉を遮ったのはパルだ。

その目にはオックス同様強い意志が込められている。


「ウィルだけいい格好しようなんてずるいわよ。私だってレイに...それに、私たちは三人揃って“若き風”(ヴィンド・ユング)なの。一人でも欠けたらおしまいじゃない」


それを聞いたオックスも笑い、相槌をうつ。


「まったくその通りだ。お前一人だけなど絶対に行かせん」


ウィルは二人の言葉にゆっくりと頷く。


「そうだね、ごめん。じゃあ、行こうか!」


ウィルを先頭に、三人は元来た道を駆けていく。



つまるところこの三人は似た者同士なのだ。どうしようもなくお人好しで、その心はどうしようもなく真っ直ぐなのだ。




一人の冒険者が今まさに命を懸けて闘っている場所へと到着した三人は、目の前に広がる光景に絶句した。

その場が自分たちの命など造作もなく散ってしまう危険地帯であることすら忘れてしまった。


――あまりに美しかったからだ。


目にした光景のあまりの見事さ、美しさに魅せられ、ただただ見つめることしかできない。

それはまるで子供が初めて見る光景に呼吸を忘れてしまったときに似ている。


「すごく...綺麗」


三人の口からは思わずこの場に似つかわしくない感想が漏れる。


森と村の間に群がる巨体のオーガ達、それぞれが恐ろしい速さでその強靭な手足や武器を振るっている。

その絶対的な暴力と死の暴風雨の中を一人の美丈夫が舞う。


その姿は伝説の冒険者――武神――を彷彿とさせた。



オーガ達の一撃一撃をすべて紙一重で躱し、ゆらゆらと力の流れに従って跳ぶ、廻る、そして腕を振るう。

すると一匹、また一匹とオーガの腕が、足が、体が、糸の切れた操り人形のように力を失い、崩れ落ちる。


どれほどの間眺めていただろうか、気付けばあれほどいた残りのオーガは既に4匹しかいない。


今彼とオーガが立つ場所まではそこかしこにオーガの死体が転がり一つの道となっている。


オーガの群れを一人で殲滅する、そんなことは実際に目にした者しか到底信じられないだろう。

そんな奇跡が起こるまであと少し、あと少しだ。

その誰も見たことがないような光景を今にも目撃しようという三人は淡い期待と興奮に包まれる。



だがそんな三人の目の前で突如、渦中の男の膝が地をついた。


***


「ふっ、あははっ」


最初こそこんな闘り方には乗り気じゃなかった。


(けれど、これはこれで悪くないな)


確かに真っ向から“力で敵を叩き潰す”爽快感は何ものにも度し難い...が、この“技術を持って敵を制する”紙一重の攻防も充分ゾクっと来るものがあった。


しかし、高ぶる精神とは逆に、肉体は悲鳴を上げ始めていた。

さすがにこれだけの手数の攻撃をすんでのところで避け続けるのは肉体的ダメージが大きいのである。

かくも次から次へと急な方向転換を繰り返し続けた結果、特に機動力の中心である膝は熱を帯び、崩壊寸前だった。

自分でもとっくに息が上がっていることくらいはわかる。


(そろそろ身体が限界か...だが、オーガもあと少し..ここで押し切る!!)



けれども俺が次の一歩を踏み込んだとき、


ガクン――、と


意図せず膝が折れた。


オーガの数が減ったことで肉の弾幕が薄くなったことが奇しくもあだとなったのだ。


それまで極限の集中と緊張により無理やり体を動かしていたのだが、一瞬の余裕がその状況に罅を入れてしまった。

無論集中を切らしたわけでもない、緊張感がなくなったわけでもない。

             ・・

だが確かに今の一瞬でそれは極限ではなくなってしまった。

そしてそれはこの場では致命的な出来事である。


「グルゥアア」


俺の膝が折れた瞬間、一番近くにいたオーガが喜色の交じった声をあげた。

単純に吼えただけではない。

魔物とはいえ感情はある、オーガはその見た目に違わず嗜虐的に笑っているのだ。


オーガは気味の悪い笑みを顔に貼り付けたままゆっくりと腕を振り上げ...そして岩のような拳を俺の頭上へと振り落した。



(――くそがっ!!)



迫りくる棍棒を視界の端に捉える。


俺は反射的に目を閉じた。


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