15話
だんだんお気に入り件数と評価が増えてきて素直にうれしいです。
ありがとうございます!これからもがんばります!
数多の依頼書の中から一枚の依頼書を剥がして受付にもっていく。
今日はフィオナは休みみたいだ。
あまり他の人間と関わり合いになるのも面倒なのだが致し方ない。
代わりにいつもフィオナの隣にいる受付嬢のところへと並んだ。
「あら?君は確かフィオナのお気に入りの子じゃない?ごめんねー、今日はあの子非番だからいないのよー。ってもうDランクにあがったの!?...えーと、オークの討伐ね、Cランクの任務だけどだいじょぶ?って平気よね。...はい、受付完了!気をつけていってらっしゃい。あ、そうそう、この依頼は複数人受付可だから他の人たちが一緒になっても揉めないようにね!」
手続きは俺が一言も発することのないまま会話が進み終わった。
恐ろしい女だ。
できればもう話したくないと思う。
――閑話休題。
そんなことよりも俺はつい先日、ようやくのことDランクになることができた。
この街に来てから2か月弱くらいか。
一応昼度ではDランク以上が一人前の冒険者と言われてるらしい。
そのためこのランクの冒険者から危険度の高い魔物が街に現れた際などに生じる緊急クエストに強制参加させられる。
とはいえ実際はまだまだ実力は発展途上のため、裏方での参加となることが多いらしい。
俗にいう“一流”と言われるようになるのはCランク以降だ。
このペースでいけばそれもすぐだろう。
しかし俺の目標であるBランクより上のランクになるには別途審査が行われる。
ここまでは奇跡的に特に問題は起こしてこなかった、このまま順調に行きたいものだ。
さて、そのための一歩としてこれからオークを狩りに行くわけなんだが、依頼をだした村はこの街からはある程度距離があるらしく乗合馬車で目的の村まで向かうことにした。
北門付近の停留所で目的の馬車を探す。
「これ、セダ村まで行くのであってる?」
「あってるよ。あと半刻ほどで出発だ。席は余ってるから乗って待ってな」
一つ一つ御者に尋ねて確かめて回ったところ、俺が捜していたのはそれなりに大きな馬車だった。
(言われた通り馬車に乗り込んで待つことにするか。)
乗り込んでみると、馬車の中は客台の両サイドにベンチがついていて、客がお互いに向かい合って座るようになっていた。
脇に荷物を載せたとしても十人は乗れそうだ。
片側の席はすでに埋まっていたので、俺はもう片方の席に座る。
すると俺が席に着くや否や、
「あ!もしかしてあなたもオークの討伐ですかっ?」
とふいに声を掛けられた。
向かい側に目をやるとそこにあったのは見覚えのある顔だった。
(こいつは確か...ああ、スライム狩りのときも話しかけてきたやつか。その両隣りを見ればそいつらもあの時見た顔な気がする)
「ああ、俺もだ。お前はスライムんときにいた奴だよな?」
「うわぁ。覚えていてくれたんですね!僕は“若き風”のウィルっていいます。こっちはパーティメンバーのオックスとパルです。話題の人と仕事ができるなんてうれしいなー。期待してますよ!お名前教えてもらってもいいですか?」
この前もそうだったが、こいつはずいぶんとぐいぐい来る。
...少し苦手なタイプだ。
相変わらずキラキラしながら詰め寄られても正直めんどくさい。
だが、外套が効かないってことはこいつ自身そこそこできるのか、それとも才能があるのか。
いずれにせよ優秀なのだろう。
そのあと半ば無理矢理に、ではあるがいくつかこいつらのを聞いた。
右側に座ってるオックスといった男は頭に牛っぽい曲がった角が二本、筋骨隆々な体はいかにも力が売りって感じだ。見たまんま大盾とランスを使う前衛らしい。
左側の女の方はパルだったか、豹柄の耳に猫目が印象的なそこそこの美人だが弱々しさはなく、むしろしなやかさの中にも凛とした強さを感じる。こっちは遊撃で状況に応じて様々に動くらしい。
そして真ん中に座るウィル、この男は見た目こそごく普通の人間だが治癒魔法が使えるとか。弓と魔法を用いて後衛を務める。
なんでも三人は全員同い年で14のときから村を出て冒険者パーティとしてやってきたらしい。
三人ともDランクのパーティーで、まだ16だそうだが冒険者歴は俺よりずっと長い。
この若さでDランクってことはかなりセンスのいい奴らなんだろう。
一目見て互いに信頼し合っていることがわかる。そのうえ個々の実力もそこいらの奴らより高い。
(いいパーティーだな)
他人の芝はなんとやら。
パーティーなんてのは俺には関係のないことだが、だからこそどんなものか想像してしまう。
――他人と協力し合う俺の姿。
しばしこいつらと話をしていて、俺の中でのウィルの印象は少し変わっていた。
最初は単に英雄に憧れる有象無象の一人かとも思ったが、ウィルはしっかりと冷静に現実を見据えた真面目で善良なやつだと思う。
それでいて英雄たることに焦がれているのだ。
堅実に功を積むという点で、案外俺よりも早くランクアップしてしまうかもしれない。
「で、Dランクのお前らが今回なんでまたオークの討伐を?」
「あー、それはですね。僕らもう2年冒険者やってるんですけど、そろそろCランクに上がれそうなんで。ちょっと腕試しをしようかと思ってですね。...だめならまた出直せばいいですし。そんなことより!レイさん、フードとってみてくださいよ!誰も知らない素顔、このままじゃ気になって仕事にならないです!」
へぇ。Cランク目前かやはりそこそこやるみたいだな。
と、それはさておきフードか...人目を避けるためにいつもしているわけだが、街中じゃなければ問題はない、か。確かに馬車の中で目元までずっとフードをかぶっているのも暑苦しい。
俺はウィルのリクエストに応え、さっとフードを外した。
にょきり、と現れる虎耳。
久々にフードの重みから解放され、俺は自然と虎耳をぴこぴこと動かしてしまう。
三人の視線はある一点で釘付けになってしまっているが、当然耳を見ているわけではない。
その視線の先にあるのはそう、俺の顔だ。
この前のフィオナといいこの世界の連中は初対面の人間の顔をじっと見るのが趣味なのだろうか。
「俺の顔になんかついてんのか?」
堪らず声をかける。
「い、いえなんでもないです!い、意外と若いんですね!」
「ああ。まだ18だからな。あ?まだなんかあるのか?」
ふと視線横にずらすとパルと呼ばれた女はまだ俺の顔をがん見していた。
だが俺が面と向かってなんだ、と問いかけると途端に目を逸らしなんでもない、とひとこと言ったまま元のツンとした表情に戻る。
すこし先行きが不安になってきた。
そんなやりとりをしてるうちに俺たちと、後から来た二人の商人を乗せて馬車は出発した。
***
馬車で揺られること一日。
北の門から町をでてスライムの沸いたあの平原をぬけ、さらに北進する。
その途中で現れる1本の脇道を半日ほど進んだところにあるのがセダ村だ。
村の奥の反対側には森がひっそりと佇んでいるのが遠くからでもよくわかる。
村に到着して馬車を降りたところで、俺は村の第一印象を独りごちた。
「...やけに静かだな」
誰にとも言ったわけではないが、ウィルも俺の感想に同意してくる。
「ええ。そうですね。まだ日は出ているのに村人が一人もいないなんて思っていたより事態は深刻、ということですかね?」
村に一歩足を踏み入れてみても相変わらず、白昼の一番活気がある時間帯にもかかわらずセダ村には静寂が広がっていた。
人の気配はあるのだが皆家の中に閉じこもってるみたいだ。
村の奥の方まで進み一際大きな屋敷にたどり着く。
ウィルが門の呼び鈴を鳴らし、しばらく待つと中から一人の男が出てきた。
「冒険者のウィルです。こちらは同業の者たちになります。」
「おお、よく来てくれた。協力感謝する。」
到着した俺たちを出迎えた男はこの村の村長だった。
まだ若く30代後半といったところだが、元冒険者らしい。
坊主頭に日に焼けた肌を持つ巨躯の男だ。なかなか迫力がある。
俺たちはまず村長に家の客間へと通された。
全員が席に着くや否やウィルが真っ先に口を開く。
「さっそくですが現在の状況を教えてください。村の様子もおかしいみたいですし。」
やはり口火を切るのはこの男か。若いのにぐいぐいいくところはもはや感嘆に値する。
俺には到底できそうにないことだ。
ウィルの言葉を受けて、向かいに座った村長が物憂げに事情を説明しだした。
「そうだな。事の始まりは先週あたりからだ。この村では動物を狩ってその毛皮を売り生計を立てているんだが、ある日村の狩人たちが森の中でオークを見たと相次いで報告してきてな。だがオークは本来狩りを行うような浅いところではなく森の深淵にしか出ないはずなんだ。仮にはぐれ者が出たとしても同じ日に何人もがオークを見るなんてのは異常なんだよ。
そして三日前、ついに村にオークがでた。ただの村人ではオークに太刀打ちできないからな、とても危険なことだ。
その時は運よく近くにいた私が駆除したんだが...このまま数が増えると対処しきれないのでな、冒険者ギルドに依頼を出したのさ。」
なるほどな。それで村民たちのむやみな外出を禁止してるわけだ。
件の魔物オークだが、非常に力が強い魔物だという。
気性も荒く、目についた動物には手当たり次第に襲い掛かる。
そのうえオークは性欲が強すぎるために人型であれば多種属の雌でも攫って壊れるまで犯す。
その極めて凶悪な性質からCランクに位置づけられている。
そんな魔物が村の周りを徘徊しているなんて恐怖以外のなにものでもないだろう。
俺から言わせれば怪力自慢のオークと正面切って力比べをするのはなんとも面白そうだというくらいにしか思えないのだが。
実際に想像してみるとそれだけで笑みが零れる。
外套で見えないのをいいことに一人にやついている俺をよそにウィルと村長の話は続いていく。
「こんな人里にオークが...。それはたしかに恐ろしいですね。でも定期的に魔物狩りはしているんですよね?だったら多少知恵のある魔物なら人を避けるはずなのに...」
うーん、となにやら考え込むウィル。
方やそんなことはどうでもいいから早く闘りに行きたい、などと考える俺。
そこへおもむろに村長が口を開いた。
「そうだな。...これは憶測でしかないが森の奥で何か異変があったのかもしれん。オークが住処を追いやられるようななにかが...」
村長の言葉に一瞬部屋の空気が張り詰めたものになる。
もちろん俺を除いて、ではあるが。
ウィルも村長の意見に首肯する。
「ありえますね...そうすると依頼のランクも変わるかもしれません。オークが危機を感じる何か、となれば最低でもBランクの依頼になります。もし万が一のときにはギルドに応援を頼まなきゃいけなくなりますね。とりあえず明日はオークを狩りつつ森を調べてみましょう。」
「あぁ、よろしく頼む」
このような感じで打ち合わせは終了した。
俺たちは話の後、村長が用意してくれた空き家を借りてその日の残りを過ごした。
俺はさっそくオーク狩りに行きたかったのだが、オークは昼行性のため夜は巣穴で寝ているといわれてしまえばどうしようもない。
仮宿での様子はどうだったかというと、三人+一人で気まずくなるかと思ったがそんなことはなく“若き風”の3人の昔話や失敗談なんかを聞いてるうちにあっという間に一日目は過ぎていった。
思えばこんな風に誰かと泊まって話しながら夜を明かすのは初めてのことだった。
もちろん俺はその間もずっと早くオークと闘いたくて闘いたくて尻尾がわっさわっさしていたのはご愛嬌。
尻尾が揺れてたのはほんとに闘いたいからだったんですかね?