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Battle Freak's  作者: 雅美琉
2章~始まりの街セイレム~
12/41

11話

新しいイケメンの登場。しかも騎士。

お気に入り登録ありがとうございます。

見慣れた巨大な門に並ぶ荷馬車の長い列。

実に三日ぶりの街だ。


凶暴な魔物は土地の開発と定期的な狩りのおかげもあって街の近くにはほとんど出ないから一つの依頼をこなすのにも時間が掛かる。

ランクを早く上げたい俺としてはその辺りの移動の問題を何とかしたいのだが、こればかりはどうにもできないことだ。

地道にやっていくしかないか、などと考えつつ人知れず門を潜り抜ける。

時刻はすでに太陽が西へ大きく傾いたころ。

真っ先にギルドで依頼完了済ませようかとも思ったのだが、まずは騎士団の詰所に向かうことにした。

例の盗賊たちの件をせっかく思い出したのだから忘れないうちに指を処分しないといけない。

腐らないとはいえ、いつまでも鞄にに無数の人の指を入れて持ち歩いているのは趣味が悪いだろう。


さて、騎士団の詰所は大通りをギルドよりも先に真っ直ぐいった先、町の中心にある噴水広場に面した立派な白い建物だ。

大理石でできたギリシャの神殿のような外観はどこか気高さや神聖さを感じさせる。


俺はいくつもの太い柱が立ち並ぶ正面の階段を上り、大きな扉を押しあけて中へと入った。

玄関、という言葉が正しいかはわからないが、建物に入ってすぐのところはかなり広く吹き抜けの天井も相まってホールのようになっていた。

どこにになにがあるのかわからない俺はとりあえず荘厳な雰囲気のなかを歩いてみる。

しばらく進んでいくと横からいきなり声を掛けられ、一人の騎士がこちらに近づいてきた。


「君は?騎士団に何か用かな?」


やってきたのは銀色の長い髪を後ろで結んだクールな印象のいかにもなイケメンだった。


「ああ。この前ある村で盗賊を倒したから指を持ってきたんだが」


銀髪の騎士はさりげなくこちらを値踏みするような目でみてから、


「身分を証明するものは持ってるかな?」


と言ってきた。


俺は外套の下からギルドカードを取り出して見せる。

騎士はカードを見て、次いで俺を見て目を細める。


「へぇ。Eランクで盗賊をね。君は運が良かったな。じゃあこっちに来てくれ」


言われた通り騎士についていく。

建物の奥の部屋に入るとカウンターがあり、騎士が二人向かい側に腰掛けていた。


「おお、マルス。ん?その後ろの怪しい男は誰だ?」


二人のうち金髪を刈り上げた、がたいのいいほうの騎士が声をかける。


(怪しい男か。やはりこの姿だとそうなるんだな)


「この人は冒険者だよ。盗賊の指を持ってきたらしい。鑑定を頼む」


「へぇ。若そうなのにやるねぇ~」


大きな騎士の隣にいた赤茶のツンツン髪の小柄な騎士は、頭の後ろで腕を組みながら口笛を鳴らし気障っぽく言う。

それから二人で、このあたりの冒険者は口先だけで大した奴がいないだのなんだのとあーだこーだ言い始めた。


...騎士にもいろんな奴がいるようだ。

俺がそんな風に思っているとマルスと呼ばれた騎士が一言、無駄口を叩いてないで早く仕事をしろよ、と二人の騎士を叱責した。

慌てて二人が仕事に取り掛かる。


俺は近づいてきた小柄な方に指の入った巾着を渡し、でかい方がしてくる質問に次々と答えていく。

いつどこで盗賊に遭遇したとか、その際の状況などについてだ。

嘘をついても意味がないか、と俺がありのままを話すとでかい方は信じられないといった顔をする。

マルスはその間じっと俺のことを見ていた。


「お、おい!こいつは半端じゃないぜ!こいつら紅蓮のジェイドの一味だ!本人の指もある!」


そこへ小さい方が慌てふためいて飛び込んできた。

報告をを聞くとでかい方はなんだってぇ、と勢いよく椅子から転げ落ち、あのクールなマルスでさえ目を大きく見開いている。

恐る恐るといった様子ででかい方が尋ねてきた。


「お前、本当に一人でその盗賊を倒したのか?正面切って?」


「ああ。すごい爆発で死ぬかと思ったな。実際身内を焼かれて死にかけたんだが、最終的にはなんとかなったから今ここにいる」


淡々と言ってのける俺をみて三人は唖然としている。


「...君は本当にEランクなのか?ジェイドはここらでは名の知れた元Aランク冒険者だよ。ここの騎士団で奴の一味を討つとしても少なくとも30人は必要だ。ジェイドは魔法使いのクラスだったから確かに近接戦闘ではそれほど脅威じゃないが...、それでも正面から一人で向かっていけば普通は黒こげになるよ。...君はいったい?」


「師匠が特別なんだよ。それに力には自信があるんだ。だからこの街にきて冒険者になったわけだし」


三人はなにも言わずにじっとこちらを窺っていたが、大きい方が手元からふと一枚の羊皮紙を取り出した。


「確かにこいつの言うことは子細までポロック村の者の報告と一致している...こいつがジェイドの一味を討伐したことは間違いないだろう。」


続けて小さい方が持っていた巾着を持ち上げ、カウンターの上にぽん、と置いた。


「ジェイドの賞金は小金貨6枚だ。手下どもはまとめて小金貨1枚と大銀貨5枚になるぜぃ。事実なんだったら懸賞金はお前さんのもんさ。」


中を確かめると確かに小金貨が7枚、大銀貨が5枚入っていた。

これだけで750万か。

元々持っていた分と合わせると900万近くになる。

そんな大金をあっさりと渡され、あまり実感もないまま巾着を道具袋にしまった。


金をしまい終わると、マルスが話しかけたきた。


「最初はどんな奴かと思ったけど、君はなかなか見どころがありそうだね。また何かあったらここを訪ねてくれ。そうだ、まだ名を聞いていなかったな。私はマルス。君は?」


「レイだ。レイ・キリタニ」


「レイか。覚えておくよ」


マルスがいい感じにまとめてこの場の空気は何とかおさまった。

そこで俺はすぐに騎士団の詰所を後にした。

今日はまだやることが残っている。

次に行くのは冒険者ギルドだ。



***



足早にギルドに向かい、扉を開けるといきなり男の怒鳴り声が聞こえてきた。


(......騒々しい日だな、今日は。)


「おいおい、俺たちが罰則金をはらわなきゃいけないだとぉ?!ふざけてんじゃねーぞ!受付の女風情がエラそうなこと抜かしやがって!」


「いえ、今回はあなた方が事前に下調べを怠ったのが明らかに依頼失敗の原因でしょう!依頼を受ける際にはより慎重に準備をする。そんなことはCランクであるあなた方なら当たり前に行わなくてはならない責務ですッ!」


そこには強面のごつい男たち5人組に囲まれ、涙目になりながらも必死に叫ぶ受付嬢の姿があった。

あの明るい茶髪には見覚えがある。

俺が依頼の際にいつも頼む受付嬢だ。


ギルド内には他の職員、冒険者どちらも何人かいるが皆遠巻きに眺めるだけで誰も助けには入らない。

かくいう俺もくだらない面倒事に首を突っ込むのはごめんだ。


とりあえず入り口近くにいた冒険者に話しかけて事情を聴く。


「なぁ、なんで誰も助けないんだ?」


「うおっ!いつからそこに?ってお前知らないのか?!あいつら“暴れ牛(トゥレクオ・ブル)”は今はCランクだけどもうじきBランクに上がるかもって噂されてるパーティーなんだよ!今この街にいる冒険者であいつらを抑えられる奴なんていねーさ!」


(うーん、とてもそんな風にはみえないけど)


すると俺と男が話しているところにバタン、と勢いよく入口のドアが開かれた。

ずかずかとギルドへと入ってきたのは白髪を短く刈り上げた初老の男だ。

年に似合わずその大柄な体は逞しく引き締まっている。


「...あーん?こりゃいったい何の騒ぎだ?」


じじいは鋭い眼光を騒ぎの中心に向け近づいていく。

咄嗟に俺はとなりの男に尋ねた。


「なぁ、あれ誰?」


「おまっ、あの人はここセイレム冒険者ギルドのギルドマスターだよ。それくらい知っとけ!」


じじいをみると暴れ牛の奴らは受付嬢からぱっと手を離した。

どうやらあのじじいは相当偉いみたいだな。

それからなにやら受付嬢と暴れ牛の奴らがギルドマスターに説明をし、ギルドマスターが“暴れ牛”トゥクレオ・ブルに一言、二言告げると奴らは悪態をつきながらギルドから出て行った。

じじいもそれを見届けギルドの階段を上って行く。

今回のごたごたはじじいの鶴の一声で解決したようだ。


さてと、俺もさっさとと自分の用を済ませよう。

先ほどまで涙目になっていた受付嬢に近づく。


「よう、大変だったな」


「あ、キリタニさん、生きてたんですか。相変わらずいきなり現れますね。...たまにあるんですよ、あーゆーの」


「ずいぶん偉そうな奴らだったな」


「まぁ、彼らに向かっていける人なんて今のギルドにはギルドマスターくらいしかいないですし仕方ないですね。で、討伐証明は?」


「ちょっと待てよ...よっと」


カウンターの上にゴブリンの耳でパンパンに膨れ上がった巾着を乗せる。


「え...」


受付嬢はカウンターに置かれたそれを見て固まってしまった。さっきまで見せていた威勢はどこにいったんだ。


「こ、これ全部ですか?」


「そうだぜ。久しぶりの戦闘だったからはりきっちゃって。やっぱ動物の狩りとは楽しさが違うよな」


「...まだ三日しか経ってないですよね?どうやってこれだけの量を?まさか巣に突っ込んだわけじゃないですよね?」


「....そうだけど」


「あ、あなたバカなんじゃないですか?!あんなに言ったじゃないですか!気をつけないと死ぬって!ゴブリンの巣の駆除の依頼はCランク相当ですよ?!てゆうかなんで無事なんですか?!」


「そりゃあいつらの攻撃なんて当たらないし。まぁ細かいことは気にすんなよ。俺は早く宿に帰りたいんだから」


「ボソ...(もう知りません)」


「ん?なんか言った?」


「何でもないですっ!!」


受付嬢はプンプンしながら奥へといってしまった。

なにを怒っているのだろうか。

しばらくして戻ってきた受付嬢は淡々と報酬の説明だけすると、では、と言ってそっぽを向いてしまう。


この不機嫌さはなんなんだ。

よくわかんない奴だな...まぁどーでもいいけど。

俺は礼を言って金を受け取るとギルドを後にした。



ゴブリンの討伐依頼の成功報酬が500コル。加えてノルマ以上の撃破数による追加分が一匹につき80コル。俺が持ってきた耳は全部で188個だったから188×80コルで約15000コル。つまり小金貨一枚と大銀貨5枚だ。約150万円。


「...こんな簡単に稼げちゃっていいのか?」


そんな言葉が木天蓼亭への帰り道にぽつりとこぼれる。




もちろん通常のDランク冒険者ならソロで10匹倒せば十分優秀と言われることを未だEランクのこの男は知らない。



***



長い一日を終え、ようやく宿に帰ってきた。

これでベッドで寝ることができる。

張り切ってドアをあけるといつも通り女将さんが出迎えてくれた。


「ああ、お帰り。依頼はうまくいったかい?」


「あたりまえだろー。」


依頼で部屋を三日ほど空けると言ってあったが俺の部屋はそのままにしておいてくれたらしい。

また金を払い、俺がそのまま部屋に戻ろうとしたところで女将さんに呼び止められた。


「レイ、ちょっと待ってちょうだい。客であるあんたに頼むのは申し訳ないんだけどちょっとお使い頼まれてくれないかい?」


正直俺は今すぐ横になりたい。

断ろうと俺があからさまに嫌そうな顔をすると女将さんがわけを説明してきた。


「いやね、火を起こすのに必要な魔石が切れちまってさ。ちょっと買い足してきてほしいんだよ。場所はこの宿の前の通りを南に真っ直ぐ行くとベイファス魔道具店ってとこさ。あたしは受付の番で動けないし、今日は手伝いの子が風邪で寝込んじまってて。このままじゃ晩飯が出せないんだ。」


(なに?晩飯がないだと?!)


「それはたしかに一大事だな...すぐに行ってくる」


「おお、行ってくれるかい!じゃあ頼んだよ。その代り宿代一泊分サービスするからさ。」


疲れた体に鞭を打ち、俺は走った。


...ここか。

魔道具店とかいうから怪しい建物を想像していたが、目的のベイファス魔道具店は周りの建物と大差ない石造りの建物だった。

中に入るがそこには誰もいない。

かなり不用心だ。


「おーい、木天蓼亭から魔石をもらいに来たんだけど」


「はぁ~い」


一応人はいたようだ。

俺の呼びかけに対し、ずいぶん間延びする返事が聞こえてからゆっくりと店主が現れた。


出てきたのは眼鏡をかけ、腰まである緑色の長い髪を先端でまとめた平人の女だ。

おとなしそうな綺麗な顔をしていて、ドロンゾに負けず劣らずスタイルがいい。

だがドロンゾは元冒険者だけあって引き締まっているのに対しこの人は完全にインドア派という感じだな。


(けどなんだろう...この雰囲気どこかで...)



「そろそろ来ると思ってましたよ~。ってあれ~?今日はいつもの人と違うんですね~?」


「俺は単なるお使い。はい、これ女将さんに渡された金ね」


「あ、はい~。ではこちらをどうぞ~」


ぽんと、両手で持たなきゃ抱えられないほどの大きさの箱を渡される。

俺の腕力でさえかなり力を籠めないと持てないくらい重い。

なぜこいつはあんなに簡単に持てたのか。


「重いねこれ。あんた見かけによらず力持ちなんだな」


「わたしですかぁ~?わたしには力なんてないですよぅ、魔法でアシストしてるだけですぅ。」


(つまり身体強化か...)


「へー。あんた魔法が使えるのか?」


「もちろんですよ~。ここ一応魔道具店ですし~。」


「うらやましいな、俺は使えないから」


「はぁ~。でもあなた魔力はそれなりにもってますよ~?」


「そうらしいんだけど使えないんだ」


「はぁ~、いくらかいただければお教えしますけど~?」


「本当か?!俺はレイ。あんた名前は?」


「ラビエルですよぉ~。ラビエル・ベイファスです~」


「そっか。じゃあ今日は急いでるからもう行くけど、今度また来る」


「はい、レイさん、お待ちしております~」


思わぬ収穫を得た。

街での目的の一つであった魔法の習得はこれで問題なくできそうだ。

アイツの実力は身体強化で明らかになっているわけだし。

ランクを上げてある程度時間ができたらさっそく魔法を教わりに来ることにしよう。


少し話しこんでしまった。

外に出てみればもう日が暮れかけてる。

女将さんに怒られなきゃいいんだけど。


帰り道もひた走る。

あっという間に帰り道の三分の二ほど進んで来た頃、またもや事件が発生した。


「――や、やめてくださいっ!」


突然、路地の裏の方から聞こえてきた若い女の悲鳴。

非常に残念なことに、今の声には聞き覚えがある。


(ったく、急いでんのに)


思わず背筋がゾクっとした。

こういうのには巻き込まれたくない。

このまま走り抜ければ大丈夫だろう...とは思いつつも嫌な予感がする。


悪寒が走ったのには理由がある。


――俺はこの手の騒動に巻き込まれなかった試がないのだ。




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