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「もし、おばあちゃんが死んじゃったら、僕は遠い親戚のところへ行かなきゃならなくなるんだ」
森の探検をしていた俺たちは、休憩がてら木陰で休んでいた。柔らかい草を座布団がわりに尻の下に敷くと、和也が持ってきていた水筒のお茶に喉を鳴らした。時おり吹く風に目を細めながら、和也がぽつりとそうつぶやいたのだ。
「遠いところって、どこ?」
「わかんないけど、都会だって」
「え? じゃあさ」俺は思いがけない言葉に自然と声が弾んだ。「東京ってこと?」
それなら、あっちに帰っても和也と一緒に遊ぶことができるじゃないか。俺は嬉しくなってきた。
「ここから見れば、どこへ行っても都会だからね。東京とは限らないけど……」
「でも可能性はあるじゃん! またいつでも遊べるようになるな!」
俺は不謹慎ながらに笑った。おばあちゃんが死んじゃったら、という前置きをすっかり忘れてしまっている。
和也は特にそのことへは触れなかった。俺の言葉ににこりと微笑むと、でもね……と寂しそうに言葉を紡ぐ。
「都会じゃ、精霊が見えないんじゃないかな……」
そんなことないよ、とは言えなかった。
いつも煌々と明るい、都会の夜景。何かと騒がしく、空気は色んな臭いで濁っている。川にはゴミが散乱していて、魚の姿なんてほとんど見ない。風は飼いならされたペットのように弱弱しい。
精霊ってやっぱり、綺麗な場所じゃなきゃ住めないのかもしれない。こんな、自然たっぷりな田舎じゃなきゃ。
「でも」和也は一呼吸置いてから、笑った。
「亘といつでも遊べるのはいいな。友達って、素敵だよね」
またこちらが恥ずかしくなるような言葉をさらりと言ってのける。キモイし、と言って俺は立ち上がった。風が大きく、そして優しく二人の身体をすり抜けて行った。和也はずっと笑っていた。
そうして五日ほどばかりが過ぎた夕方。
家に戻ると、久しぶりに見る顔ぶれが居間でそろって出迎えてくれた。
「昨日やっと真奈の熱が下がってな。すっかり真奈も元気になったことだし、亘もそろそろ帰りたがっているだろうし……親父とお袋の元気な顔も見たかったからな」
手に持ったビールをちびちびと飲みながら、父さんはじいちゃんに向かって照れ臭そうに笑った。ばあちゃんは台所で忙しく動き回っている。
母さんと姉貴は、真っ黒に日焼けした俺を見て笑い転げた。
「寂しくなかった?」と、母さんが問いかけてきたから、俺は全然と答えた。
実際、一人で寂しく、家族を恋しく想ったのは二日目の朝だけで、あとの日々は本当に楽しかったのだから嘘ではない。強がりでもなかった。
だが、母さんはどういう風に受け取ったのか、含み笑いつつ「そう」とだけ言った。
それだけ日焼けしてるんだもんね、と姉貴が続いて言った。
縁側から風が吹き込み、軒下に吊るされた風鈴が涼やかな音を奏でていた。




