8
それからというもの、俺は朝から夜まで和也と共に夏を過ごした。時にはじいちゃんも一緒に混ざって魚釣りをしたりもした。
その時は随分と多く釣れたものだから、俺は初めて和也の家まで行くことになった。バケツに川の水を汲み、魚を離してやる。一人ひとつずつ持って、わっせわっせと汗を流しながら歩いていると、バケツの中では居心地悪そうに魚が泳いでいた。
和也の家は、祖父母の家よりだいぶこじんまりとした平屋だった。門扉は壊れたのだろう、外して近くの壁に立てかけていた。玄関の扉は開いていて、うすっぺらい布が垂れ下がっている。目隠しの役割にしては、なんとも頼りない印象を受けた。
「おばあちゃんは今、畑に出てるから誰も居ないんだ。気にせず上がってよ」
言いながらさっさと玄関をくぐっていく和也の背を見送ると、俺はバケツを両手に持ち替えた。ゆっくりと足を運ぶ。
家の中はひんやりとした空気に包まれていた。しんとしていて、寂しい。どこかから線香の匂いが漂ってくる。風がそろりと吹き通った。
こっちだよ。廊下の奥から和也が顔を出す。俺は靴を脱ぎ捨てると、揃えることもせずにぎしぎしと泣く廊下を歩いた。ちゃぷちゃぷ。足取りに合わせてバケツから水がこぼれる。魚が抗議のまなざしを俺に向けた。
「麦茶飲む?」
「うん」
通された台所にバケツを置くと、俺は隣りの部屋を覗いた。じいちゃん家と同じような畳敷きの居間。小さなちゃぶ台の上に、プリントやノートが乱雑に置かれている。和也の夏休みの宿題だろうか。
そこまで考えて、しまったと思った。あんなに母さんから「ちゃんと宿題持っていくのよ」と言われていたのに、あとで鞄に入れようと思っていたものだから忘れてきたのだ。
しかも、今の今まで宿題のことすら忘れてしまっていた。のんきなもんだった。
ま、いっか。東京に帰ってからすれば。
「宿題すすんでンの?」
俺がめんどくせーよなと笑いながら聞くと、和也はうんうんと同意するようにうなずいた。
「全然だよ。でも、自由研究だけは進んでるかな。ちょっと見てみる?」
居間を通り過ぎる時、ひときわ強く線香の匂いが鼻についた。見渡すと、居間の隣りの部屋(おそらくそこが寝室になるんだろう)の隅に仏壇が置かれていた。そこに小さな写真立てが二つと、短くなった線香が立てられていた。
和也の父さんと母さんかな。
遠目で見てもそれとわかるほどに、二人は優しい顔をしていた。
はじめまして。お邪魔しています。俺、和也の友達の亘です。そう心の中で二人に声をかけた。
「亘、ほら見てよ」
声をかけられ、俺はそっと二人に頭を下げると、和也が座っている縁側へと足を向けた。




