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「セイレイってさ、どんな形してンの?」
二日目にようやっと気になることを聞いてみた。正直、信じてはいかなったけど。
初めて会った日も、昨日も、そして今日だって時々誰かに向かって楽しそうに微笑んでいる和也を見ていると、ちょっとした好奇心がむくむくと沸いてきたのだ。
「うん……形って言われると、ちょっと説明が難しいんだけど……」
昨日和也が言っていた『木の精霊が住んでいる場所』へやってきた俺たちは、大木の落とす大きな影の下で並んで腰を下ろしていた。
足元ではえっちらおっちら、アリの行列が気の早い冬支度のために食糧を運んでいた。
俺よりひとつ年上だった和也は、ほんの少し大人びた表情を見せて笑った。
「綺麗だよ。色は淡くて、光ってる。すっと現れて、気づいた時には消えちゃってて。その儚さがまた、いいんだ」
とくに、と傍らにそびえ立つ大木を見上げた。
「木の精霊は恥ずかしがり屋みたいでね、めったに人の前には現れないんだ。初めて見た時、その美しさに息が止まったよ。やっぱり、大地から栄養を吸って、太陽の光を浴びて、水をたたえてる木は、生命力がとっても強いんだろうね」
国語の教科書の音読でも聞いているようだった。よく、そんな言葉が何も見ずにすらすら口から出てくること。一歳差って、見た目じゃ全然わからないけど頭は随分違ってくるんだろうか。
ココロの中ではぽかんとしていた俺だったけれど、表の顔ではうんうんとわかった風にうなずいていた。今この場所に、家族や友達がいなくて良かったと胸を撫で下ろしたりして。
「実は、初めて亘に会った時から気づいていたんだけどね」
足がしびれてきた俺は、立ち上がってうーんと背伸びをしていた。帽子を取って額の汗を拭う。和也の言葉に視線を落とすと、年相応のいたずらっぽい笑みを浮かべて続けた。
「亘って、風の精霊に気に入られてるよ。こっち来てからずっと、亘の周りで見かけるから」
「えっ!?」
俺は思わず辺りを見回した。当然ながら、俺にはセイレイというものを見る目を持ち合わせていない。
「うっそだぁー! それだったら、俺にだって見えてもいいじゃん。捕まえれるじゃん」
ふわと風が吹き、前髪が後ろへ流れた。夏の汗にまみれた額がほんのり冷える。
「ほら! 今、精霊が亘のおでこを撫でてったでしょ?」
「……え?」
「こっちに来てから、亘はさ。よく風を感じてるんじゃない? 田舎だからといっても、風がやむこともあるんだよ。いっつも吹いてるわけじゃない」
言われて俺は思わず空を仰いだ。もこもこの雲は、あんなに空高く漂っているというのに微動だにしない。お尻に根っこでも生えているかのように、もうちょっとここで休んでいきますねと言っている。
でも確かに、俺はこっちに来てからというもの「田舎の夏って案外涼しいんもんだなぁ」なんて感心していた。それがトクベツだったなんて。
「精霊に好かれるって、すごいことだよ。悪い人じゃないことは明らかだし。だから、僕は亘と仲良くなりたかったんだ。友達に、なりたかった」
改めて「友達になりたい」なんて言われることは初めてだった。友達って、そうやって作るもんじゃない。気づいたら、一緒に遊んで笑ってる。もう友達なんだ。
「和也は俺の友達だよ。あたりまえじゃん。今さらそんなこと言わせるなよな、気持ち悪いな」
ぷいと顔をそむけて俺は歩き出す。「なぁ、かき氷食いにいこーぜ」
振り返ると、和也は俺よりも幼い顔で嬉しそうに笑っていた。




