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翌日、俺は朝食を食べ終えるとすぐに、昨日和也と出会った場所まで走って出かけた。
いつも同じ場所で遊んでいるとは限らないけれど、まだ一度しか、しかも数十分しか話したことのない彼の居場所を知るすべがなかったからだ。
相変わらず、目が痛くなるほどの緑が視界のほとんどをしめる景色。むっとするような夏の匂いが鼻で居座るし、木陰のない道路は白い砂敷きなため、太陽の照り返しがひどかった。
それでも、耳に届くうるさいほどのセミの合唱は不思議と不快ではなかったし、すでに汗まみれな身体は時おり吹く風に心地よさを感じていた。
とろとろと走り去る軽トラックが一台。それ以外、俺は未だ誰とも出会っていない。そんな状況がだんだん面白くなってきていた。
もしかしていま、ここには俺しかいないんじゃないか?
そんなおいしい状況に気がついてしまうと、俺は次第と口元が緩んできた。にやにや、にやにや。走る速度をゆるめて、とつとつと歩くようになると、辺りに誰もいないことを確かめてから足を止めた。
大きく息を吸い込んで、口を開く。
「ねえちゃんのケツには、ホクロがみっつーーー!!」
バサバサッと驚いたように、近くの枝で羽休めをしていた鳥が羽ばたいた。聴聞者一名。
俺はゲラゲラと笑った。王様の耳はロバの耳。それを穴に向かって叫んだ床屋の気持ちが今、よくわかった。なんてすがすがしいんだろう!
「そういうのは、外で叫んじゃいけないよ」
心臓が冷たい音を立ててどきりとした。まさかもう一人聴聞者がいたとは。しかも今度は話すことができる人間だ。
「お、おおお、おまえ勝手に盗み聞きしてンじゃねえよ!」
「君が勝手に叫んだんじゃないか」
銀杏の木々の向こうから、昨日出会ったばかりのあいつがひょろりと姿を現した。呆れているようで、しかし口元には笑みを浮かべていた。
「僕が君のお姉ちゃんに言っちゃったら、大変なことになるね」
「おまえっ! ぜったいチクんなよ!」
駆け寄って、どん、と和也の胸を押す。和也は声を上げて笑った。笑い声は初めて聞いたけれど、心から可笑しそうに笑うものだからこっちまでつられてしまう。
「そこで何やってたんだよ?」
「うん、この先にね、木の精霊が住んでる場所があるんだ。まだ一度しか見かけたことがないから、また見られないかなと思って」
また、ヘンなこと言ってるなぁ。
ふーんと、気のない返事をした俺をよそに、和也は微笑んで手を伸ばしてくる。
「あっちに川があるよ。浅いし、魚が泳いでる。一緒に見に行かない?」
その提案には賛成だ。
俺と和也はそれこそ競争するかのように走り出した。もちろん、行き先を知らない俺はてんで違う方向へ向かって和也に注意されるのだけど。




