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「あの子は変わった子でねぇ」
結局あの後、俺を追って捜しにきたじいちゃんに連れられ、俺は祖父母の家へと戻ることになった。もうすっかり、自分の家へ戻ろうという気持ちは消え失せていたから。
夕飯を共に食べながら、ばあちゃんは困ったようにため息をつきながら箸を置く。
「たしか、亘ちゃんと同い歳か、いっこ上だったかねぇ。和也くんといってね、いっつも一人で遊んでいるのを見かけるよ」
「あの子は、育った環境が他の子と違うからなぁ」
じいちゃんも箸を置いて、ばあちゃんの言葉を紡いだ。
俺も急いで残りのご飯を口へ放り込むと、麦茶で喉奥へと流し込んでから、たずねた。
「なにが違うの?」
「うん。あの子のご両親はな、あの子が生まれた後すぐに他界しとってな」
「たか……い?」
しかめっ面をしながら、うんと背の高い男女を思い浮かべる。自然と天井を見つめていると、ばあちゃんが気づいたようだった。
「天国に行ってしまったのよ。あの子を残してね。だから、あの子は今おばあちゃんと二人で暮らしているの」
天国。
ばあちゃんと二人で。
「変わった子だけど、亘ちゃん、こっちにいる間は友達になってあげてね。あの子は素直でいい子なのよ」
そう言い終えると、ばあちゃんは空いた食器を片し始めた。じいちゃんはブラウン管の小さなテレビをつけ、小難しい落語の番組に合わせる。完全に食後モード。俺も「ごちそうさまでした」と手を合わせてから、席を立った。することがなくなって、ふすまの向こう側にある縁側へと足を向ける。
夜はセミも眠るんだろう。代わりにぷーんと嫌な音が耳の傍を通り過ぎた。小さな吸血鬼が俺の新鮮な血を狙ってきているのだ。
床に置かれた蚊取り線香に火をつけると、風に小さく揺れる夜の木々を座って眺めた。
東京のマンションでは、ベランダからこんな風景を見ることは出来ない。
同じ夏でも、夜は昼間と同じくらいじっとりと暑さが漂っているし、星なんて一つ二つ見えたらいい方だ。ここからはまるで、理科の教科書に載ってある写真をそのまま貼り付けたのかと思えるほどに、月も星もはっきりと見えた。私たちはいつだってここにいるんですよ。そう教えてくれているかのように。
天国。それは誰もが上に、空に向かって指をさす。
あの星たちが天国への入り口なんだろうか。それとも月がそれなのか。それとも……あれらのもっともっと向こう側にあるんだろうか。
せめて、ここから見えるところにあるといいな。
傷だらけの身体を片腕で抱き、はにかんで笑う彼――和也の顔を、俺は思い出していた。




