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小学二年の夏休み、一度だけ父方の祖父母の家に一人で訪ねたことがある。両親は、突然体調を崩した俺の三つ上の姉貴を看病する為、家に残った。
本来俺も一緒にそこに居るべきだった。が、子供というのは時に我を通したくなるもので。祖父母の家にどうしても行くと強情を張って、両親をうんと困らせたのを覚えている。
今思えば、姉貴ばかりを構っていた両親が気に食わなかったのかもしれない。何か困らせるようなことを言えば、行動を起こせば、両親は俺のことも構ってくれるに違いないと……。幼いながらに、何とも可愛げのない単純な思考だった。
困り果てた父さんは、田舎の方が早く回復するかもしれないからみんなで行ってみるか? と折れかけていた矢先。母さんの方は全く異なった行動に出た。
「じゃあ亘、一人で行ってみる? もう二年生だし、春休みにみんなで一緒に電車で行ったから、わかるよね?」
その言葉を言ったが早いか、母さんはその場で祖父母へ連絡を取り、「おじいちゃん達もそうしたらって」と言ってにこりと微笑んでみせた。
もう二年生だし。
春休みに行ったからわかるよね。
今更「行きたくない」とは言えなかった。それを言えば、自分が「敗者」だと認めてしまうことになる。子供らしく、素直になればいいものを。
可愛げのなかった俺は、結局母さんの名案をしぶしぶ受け入れたのだった。
祖父母は駅まで迎えに来てくれていた。
無人駅のそこは他に人の姿が見えず、風だけが二人と共に出迎えてくれた。
焼けるように暑い日差しのもと、涼やかな風に乗って土と緑の匂いが身体をすり抜ける。見渡せば、まわりは山に囲まれた緑豊かな風景が広がり。セミが見慣れぬ客人を見つけ、我が家へようこそというように騒がしく鳴き始めた。
まさに『田舎』という名がふさわしくもあり、その名に恥じない景観だった。
「亘、一人でよく来たなぁ」
じいちゃんは日に焼けた肌に優しいしわを刻むと、俺の頭を帽子のうえからぐりぐりと撫でまわした。
帰りにかき氷でも食べて行こうか。そう言いながら俺の背を押すと、着替えや土産が入った俺のリュックをひょいと持ってくれた。傍らではばあちゃんが、自身の白い日傘を俺の方へと傾ける。
二人は、夏の太陽に負けないほどの眩しい笑顔をこぼしていた。




