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翌朝、俺はまだ祖父母しか起きていない静かな部屋の中、こっそりと布団から抜け出した。
寝間着のまま外へと身体を滑り出すと、まだ涼しさを残した朝の中を走った。向かうは、和也の家だ。
走って、走って、走った。
風が俺の背を押し、脇をすり抜け、手招くように吹き去ってゆく。
和也の家に向かう途中、俺は頭の中でただ一つのことだけを考えていた。
昨日の姉貴の態度ことも、急に決まった、「家に帰る」ということも。全て悪いのは――
謝りたかった。会って、和也にとにかく謝りたかったんだ。
和也の家を訪ねると、先ほど俺を追い抜いていった風が彼に告げたのだろうか。朝もやの中でちょこんと身体を丸め、和也が縁側に座り込んでいた。
肩を上下させ、騒ぐ心臓を抑えつつ。俺は門をくぐって和也の座る縁側まで足を運んだ。
俺に気がついた和也の顔に、いつもの笑顔がなかった。そのことに気づいたのは、俺の呼吸が落ち着いてからだ。
「……昨日、俺のねえちゃんが、ごめんな」
和也はその言葉を受け入れるように、俯いてしまった。
「……今日、昼前にはもう帰ることになったんだ」
膝を抱えたまま微動だにしない和也の頭を見下ろしながら、俺は続けた。
「なんか、ごめん。色々と、ごめんな」
ぽた、と小さな音が聞こえた。
和也の手の甲に、光の粒が落ちているのに気づいた。
「……楽しかったよ、いろいろ、また……俺……」
声が震えて、何を言っているのか、何が言いたいのか自分でもわからなくなってきた。何故自分が泣いているのかもわからなかった。
二人の足元を、小さな風が通り過ぎる。
「……これ」
ようやっと口を開いた和也が、こちらを見上げて手を差し出してきた。
頬に流れる涙を拭うことなく、握り締めた左手を俺の前まで突き出して――
そうして、いつものように開いて見せた。
「何か、見える?」
出会った頃と、言い方が違っていたことにその時は気づかなかった。
俺は首を横に振った。
和也は小さく微笑んだ。




