ヤンデレ彼氏、その手には包丁
「雪華、雪華。ちょっとお願いが」
放課後ひょっこりと私のクラスに顔を出した私の彼氏。
なんだか嫌な予感が。
「何。ていうか諒、部活は」
「ちょっと休むって彼方に言って来た」
「ユルいわね……」
「それでさぁ、コレなんだけど」
言いながら取り出したのは何故か包丁で。……いやいやここ学校でしょ。見間違いだ見間違い。
「何コレ」
「包丁」
ああ、うん!見間違いと思い込もうとしたけどやっぱり包丁でしたか!どっから持って来たし!
「どっから持って来たの?」
「家庭科室」
「鍵かかってるよね?家庭科室も、包丁しまってある所も」
「まぁ、そこはごにょっと」
ごにょっと!?ごにょっと何した!?
「それは置いておいて」
置いておかれた。
「これで右腕切り落として欲しいんだけど」
ガタッと近くに居た男子が物音を立てた。
ああ、そんな引いた目でこっち見ないで頂戴。そういうプレイとかじゃないから。この人の頭がちょっとかなりおかしいだけだから。
「あのね、ここ、学校」
「うん」
「不穏な発言は謹んで」
「ごめん」
「で、何?腕切り落としてどうするの?ていうか誰の切り落とすの?」
「俺の。さっき後輩?にまとわりつかれて、腕抱きつかれたから。気持ち悪くって。雪華だって他の女が抱きついたような腕、要らないよね?だから切り落として」
語尾にハートマークが飛ぶような様子でそう言われてしまった。
いや、私別にアンタが誰に抱きつかれようが気にしないんだけど……。
そう言ったら今直ぐこの教室の窓からI can fly!とばかりに飛び出しそうだから黙っておく。
「あー……私グロいの駄目だからさ。あと、そんなことしたら、私、犯罪者になっちゃうし」
「えー」
「えー、じゃない。私が逮捕されても良いと?」
「良く無い……」
「でしょう。だから包丁片付けて来なさい」
「でも、じゃあコレどうすればいい?」
左の人差し指でだらんと力を抜いている右腕を指差しながら、そう問いかけてくる彼にため息一つ。
「おねーさんが上書きしてあげましょう。帰ったら抱きつきなおしてあげるからその前によーく洗えば?」
私の提案に顔を輝かせる彼。
本当に面倒な人だなぁ。
「じゃあ帰ろうか」
カバンを手にとって立ち上がると嬉しそうに左手で私の右手を繋ぐ。
そんなに嬉しそうにしてる所を見られるとあとで霧川君に怒られるんじゃない?
そう尋ねてみたら聞こえないフリすればいいよ、等と返って来た。
全くこいつは。
やっぱり私じゃなきゃ相手になんて出来ないよなぁ。なんて思いながら繋がれた右手に力を込めて離さないようにして私たちは家路に着いた。