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お姫様のガーディアン  作者: 河野 る宇
◆第2章
7/19

*旋風

 次の日──

「おはようございます」

「おはよう」

 1人侍女が満面の笑顔で部屋に入ると嬉しそうに掃除を始めた。

 この顔には見覚えがある……昨日、邪魔な赤いバラを渡した通りすがりの侍女だ。

「……」

 どうしたものかと掃除風景をしばらく眺め、散歩でもするかと歩き出そうとした。

「あのっ」

「なんだね」

 呼び止められて振り向く。

「あの、昨日。お花、ありがとうございます」

 はにかみながら応えた。

「ああ、そんな事か」

 今更、邪魔だったから押しつけたとも言えない。

「少し出る」

「お気を付けて」

 気遣いの言葉を背に受けて部屋をあとにした。

「……参ったな」

 壁に手を突いてうなだれる。

 この展開はまずいような気がする。誤解され続けるのはどうか……いっそ、侍女全員に花を配れば誤解も無くなるかもしれない。

「軽薄な男」と思われた方が、いくらか楽だ。

「は~」

 深い溜息を吐き出した。無表情ながらもその心中は割と当惑しているらしい。

「ベリル」

 呼ばれて振り返ると、ランカーが軽く手を挙げて挨拶した。

「出発の準備を手伝ってくれないか」

「構わんよ」

 そうして、並んで歩く青年の横顔を一瞥してクスッと笑う。

「誘って正解だったかい?」

「暇でかなわん」

 げんなりした様子に再び笑みをこぼす。

「君を野放しにしてたら、さらに騒動が起きそうで怖いしね」

「言ってくれる」

 王宮の離れにある、小さめの建物に入る。ガードの宿舎にもなっているようだ。

「!」

 中央のテーブルに乗せられている機器に目を留め、青年は表情を明るくした。

「嬉しそうだな」

「久しぶりに見た感覚だ」

 ベリルはそこにいるガードたちと握手を交わすと、さっそく機器の説明を聞く。

「さすが傭兵か」

 先ほどとはまるで違い、活き活きと見える青年に小さく溜息を漏らした。そんな男の肩を誰かがチョイチョイと指で叩く。

「ん?」

 さらに袖を軽く引っ張られて振り向いた。

「どうした? こんな処に」

「あのね」

 どことなくランカーに似ているその女性は彼の妹、レイナである。王宮の侍女をしていた。真っ直ぐに伸びた彼の髪とは違い、緩やかなウェーブを描いている。

 彼女が、すいと何かを差し出した。

「? ……」

 その写真に眉をひそめる。

「もうここまでキテるのか」

「そうみたい」

「ベリル」

「! なんだ」

 歩み寄った青年に写真を手渡した。

「……」

 その写真に眉をひそめる。

「なんだこれは」

「君の写真だ」

 それは、先日の宴の時のものだった。

「結構、出回っているらしい」

「ほう」

「1枚5ドルよ」

 女性が右手を広げて応えると、さらに深いしわを刻む。

「他にも何種類か見かけたわ」

「処でお前は誰だ」

「俺の妹だ。侍女をしている」

 ベリルはそれに、ああ……と声を上げ再び写真に目を移した。

「で、どんなものがあるのだね?」

 聞き返すと彼女は少しためらいがちに目を伏せる。

「あるなら出せ」

「返してくれる?」

 兄に言われてエプロンのポケットから1枚、取り出して見せた。

「……」

 2人は、その写真に顔を見合わせた。

「いつ……」

「それは俺も知りたい」

 どうやら風呂上がりの画像らしい、上半身裸の姿が映し出されている。

「っていうかお前、返してほしいってな」

「いいじゃない。格好いいんだから」

 しれっと応えた妹に頭を抱え、ベリルを一瞥した。

「君は出発の日まで部屋から出るな」

「そうさせてもらう」

 ある意味、娯楽の一つとして騒がれている部分もある事をランカーもベリルも理解している。しかし、これ以上は付き合っていられない。この騒ぎを無理矢理終わらせる事にした。


 そうして出発当日──空港は国を挙げての盛大な見送りだ。

「……」

 平和な国なのだな。ベリルは小さく笑ってサングラスをかけた。いくら小国とは言っても、テレビカメラが一つも無い訳じゃない。

 王族専用ジェットに乗り込み、ノエル王女の2つ後ろのシートに腰掛ける。

「ベリル、隣に座って。お話がしたいわ」

「解りました」

 素直に従い、アライアの横を通り過ぎるときに軽く睨まれた。

「傭兵ってどんなコトをするの?」

 隣に腰掛けると、さっそく少女は嬉しそうに問いかける。

「大した事はしない。要請を受けて戦うだけです」

「でも、命がかかっているのでしょう?」

「そうだな、レベルはピンキリだ」

 傭兵に興味のある少女は日本に着くまで彼を質問攻めにした。

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