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お姫様のガーディアン  作者: 河野 る宇
◆第1章
4/19

*馬鹿げた存在

「やあ。まだ起きていてくれたか」

 そう言ってランカーが入ってくる。投げ捨てられている服を見て、クスッと笑った。

「その年でも、そういう服を着るのは初めてかい?」

 男の言葉に青年は眉をひそめる。

「そんな怖い顔するなって。別に君をどうこうしようって気は無いから」

 上半身だけ起き上がった青年の前に立つ。

「今、いくつだい?」

「62だ」

 返ってきた答えに口笛を鳴らした。

「俺の親父と同じくらいか」

 そんな男を厳しい眼差しで見上げる。

「俺はなんでも屋だ、君のことを知っていたとしても不思議じゃないだろ」

「傭兵についてもなんでも屋だとは思わなかったよ」

 溜息混じりに発して足を組む。ランカーがその隣に腰掛けた。

「国を動かすには、きれい事だけじゃ済まないってことさ」

 肩をすくめたあと、青年の横顔を見つめる。

「君の名前が出たとき正直、后には『止めた方が良い』と言いかけたよ」

「何故、言わなかった」

「理由を訊かれたら応えられないからさ」

 ベリルは「それもそうか……」と、目を細めた。

「君の事は我々の世界では『公然の秘密』扱いだが、実際会ってみるまで本当に実在しているとは思えなかったよ」

「私だとて自身がそうでなければ信じないだろうね」

 不老不死など馬鹿げた存在だ……ベリルは言ってのけた。

「はは……」

 自分の事を「馬鹿げた存在」と言い放つ彼にランカーは苦笑いを返す。

 そう、ベリルは不老不死である──25歳の時に不死になり、彼は今もこうしてフリーの傭兵として存在し続けている。

「君のような存在のことを『ミッシング・ジェム』と、云うそうだが……今までにそういう存在には?」

「会ったことはある。何度かね」

「!」

 驚く男に彼は笑いながら付け加える。

「生憎、私と同じ人間には会った事は無いがね」

「じゃあ、不死はやはり君だけなのか」

「会った事が無いだけだ。いないとは言いきれない」

 考え込む男を一瞥し、口の端を吊り上げた。

「私を試したのか」

「え? ああ……」

 不死など素知らぬふりで応対していた時の事だと気付き、応える。

「一応ね。どういった態度をとるのか気になったんだ」

「むやみやたらに言いふらすと思うかね」

 肩をすくめる彼に笑みを返した。

「あそこでそんなことを言えば君は警戒するだろうし、話が長くなるのも面倒だ」

「賢明な判断だ」

 そのあと、しばらく沈黙が続いたがランカーは決心したように口を開く。

「実は、問題がまったくないという訳でもないんだ」

「ほう?」

「隣に皇国がある」

 発して、膝の上に肘を立て両手を組んで苦い顔をした。

「うむ、過去には争い合った歴史がある」

「うん。それでね、そこの皇子がノエル王女を気に入ってるらしいんだ」

 どちらもヨーロッパの中の小国だが、さして気にも留められない規模のいさかいは数百年前から繰り返されていた。

 双方の国には稀少な資源も経済効果もなく、観光好きの人間がレア感覚で来るような国で『細々と存続している国』という認識をされても不思議ではないほどの小国だ。

「で、その皇国の皇子は割と乱暴者でさ。強硬手段を取らないとも限らないんだ」

「レオン皇子といったか」

「そう」

 頷いて青年にすっと写真を手渡す。

「年齢は19歳」

 聞きながら渡された写真を見つめる。

 肩までの黒髪に漆黒の瞳は切れ長で、なかなかの男前だ。しかし、ベリルはその笑顔に眉をひそめる。

 好戦的な一面が、その顔から見て取れたからだ。

「事あるごとにノエル様にアプローチしてくる。むやみに拒否することも国交上、出来ないし」

「ノエル王女は17歳になるのだったな。婚約者は?」

 それに、ランカーは言葉を詰まらせた。

「婚約者はいない……だが」

「付き合っている相手は存在するのだな」

「その部分には触れないでくれ、王も王妃も知らないんだ」

「解った」

「出発は3日後だ。それまでゆっくりしてくれ」

 言って、部屋から出て行った。

「そう言われてもな」

 この状況で、どうゆっくりすれば良いのか……困ったように扉を見つめる。

「とりあえず寝るか」

 小さく溜息を漏らしベッドに潜り込んだ。

「……」

 静かすぎて返って眠れない。傭兵であるベリルは戦場でも眠れる自信があったが、何の音も無い場所ではむしろ眠れない事を知った。

 虫の音でもあればまだマシなのだが……それでも精神的に疲れていたのか、いつの間にか意識は遠ざかっていた。

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