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お姫様のガーディアン  作者: 河野 る宇
◆第6章
19/19

*悶絶

「何の話をしているのです?」

 少女が首をかしげてベリルたちの会話を見つめた。

「彼はベリルの馴染みの医者なんですよ」

 ダグラスが丁寧な口調で答える。

 マヒトとベリルは日本語で会話しているため、王女とアライアには何を話しているのか解らないのだ。

「モンブランを治療費として持って帰るようです」

 ダグラスは口の端を吊り上げた。

「まあ……」

 少女はそれを聞いて少し曇った表情を浮かべる。

「何か問題でも?」

「もう1つ食べようと思っていましたの」

 ダグラスの問いかけに、王女は自分の食べかけのモンブランを見つめた。

「仕方ありません。彼は甘いものが好きで、特にベリルが作った菓子類には目がないんです」

 そして付け加える。

「頼めばまた作ってくれますよ」

「それなら作って欲しいお菓子が」

「何かリクエストでも」

 王女の言葉にベリルが目を向けた。

「はい……あの、クッキーを」

 モジモジと答える。

「クッキー?」とアキト。

「ジンジャークッキーです」

「!」

 その言葉にランカーがぴくりと反応した。以前、侍女が持っていた雑誌に目を通していた記憶が脳裏によみがえる。

 捨てようとしていた処を見つけて、少女はそれをもらい受けたのだ。丁度、クリスマスが近い時期でその特集をしていた。

 違う世界に憧れる年なのかもしれない……ランカーは目を細めて照れている少女を見つめる。

「私、ジンジャークッキーを食べてみたいのです」

「クリスマスに作るやつだね」

「はい、食べた事が無いのです」

「いいだろう。あとで作っておく」

「ありがとうございます」

「ノエル!」

「なんですか?」

 何故か怒ったような表情を浮かべているアライアに少女はキョトンとした。

「まさか本気で彼のことが好きになったんじゃないだろうね」

 アライアが不安げに見つめる。

「クスクス」

 少女は小さく笑うとアライアに目を合わせた。

「私が好きなのはあなただけよ。私のガーディアン」

「よかった……愛してるノエル」

 手と手を取り合う2人に、そこにいた全員が目を丸くして沈黙した。

「バカップルみたい」

「こらこら」

 解らないように日本語で発したダグラスに、アキトが軽くツッコむ。

「いつ帰国するのだったかな」

「3日後だ」

 ベリルの問いかけにランカーが答える。

「じゃ、障害も無くなったコトだし」

「観光三昧だな」

 ダグラスとアキトはウインクした。


 そうして、ノエル王女は観光の先々で心強いガードと恋人と案内で、今までにない笑顔を見せた。

「ノエル王女は可愛いねぇ~」

「だね」

 ニコニコと発したアキトに賛同するように、ダグラスも相づちを打つ。

「いい思い出になる」

 ランカーが微笑んでノエルを眺めた。

「俺はベリルさんに会えたから万々歳だけどね」

 頭の後ろで腕を組んでベリルを一瞥いちべつした。そんなアキトにダグラスは薄笑いを浮かべる。

「その本人が一番、損したかもね」

「へ?」

 言われて考える──

「あ!」

 レオン皇子の事を思い出した。

「だから浮かない顔してるだろ」

 ケケケ……ダグラスは嬉しそうにケタケタと笑った。

「お前、ベリルさんのこと嫌いなの?」

「まさか!」

 そんな訳無いだろ、というように肩をすくめる。

「ああいう人間らしいトコ、見てるのが嬉しいんだよ」

「え?」

「別に機械的とかそんな意味じゃないよ」

 微笑みを見せて続けた。

「なんていうかさ。人間を越えちゃってるような、そんな感じがするときがあるワケ」

 それに、アキトはベリルを見つめる。

 なんとなく、言われて納得してしまう……寛容というか寛大というか、おおよそ見た目とは異なる落ち着いた雰囲気。

 今まで、どんな経験をしてきたのだろう? その重みを計り知る事は、到底出来そうもない。

「……」

 嬉しそうに笑うノエルをベリルは見やる。

 そして、彼女を守るようにして寄り添うアライアに視線を移した。個人を愛する感情は無くとも、目の前の命を愛しく思える。

『あなたは全ての人を愛しているのよ』

 ベリルを愛した女性たちの中に、そう語った者が幾人か存在する。

 そんな事は私には解らない……だが、確かにある目の前の命を守りたいと思う。死ぬ事の許されない身になった以前も今も、それは変わらない。

 彼らの笑顔を絶やさぬように、ベリルは全力で走り続けるだろう。

「……」

 彼はふと、嫌なことを思い出す。その刹那──ガチャリ!

「捕まえた」

 ニッコリと笑うレオン皇子の手には手錠。

「お前か」

 左手に手錠をかけられたベリルは、眉間にしわを寄せてレオンと目を合わせる。

「うげっ!? あいつまだ帰ってなかったのかよ!」

「あちゃ、予想外の展開」

「まずいな」

 ランカーは、ノエルとアライアを別の場所に促した。

「俺たちはどうする? 助けるか?」

「こんな所で騒ぎになったら大変だよ」

 周りにいる人々は、まだ2人に気付いていない。

 手錠でつながれた人間がいる事に気付いた人々がどう動くのか……ダグラスたちは警戒した。ベリル本人に任せるしかない。

 殴り倒さなきゃいいけど……とダグラスがつぶやいた。

「なんのつもりだ」

「大事な皇妃候補だから確保しに来た」

「誰が皇妃だ」

「もう逃げられないよ」

 勝ち誇ったように青年は鼻を鳴らす。

 ベリルはこれでもかと眉間に縦じわを刻んだあと深い溜息を漏らし、呆れたように2~3度、頭を振るとレオン皇子に向き直った。

「これは返そう」

「へ?」

 ニッコリと笑んで青年の両手を握る。

その笑顔にポ~……っとなったが──

「えっ!?」

 気がつくと自分の両手に手錠がかけられていた。

「うおっ!? 早ワザ」

「ベリルはピッキング得意だから」

「……」

 手錠を見つめて呆然としている青年に彼は続ける。

「ついでにこれも持っていくと良い」

「はい……?」

 発してすっとしゃがみ込んだベリルが立ち上がり、しれっと歩き出す。

「あっ! ちょっ、ちょっと待っ……」

 足を動かそうとしたが、ガチャリ! という金属音に阻まれた。

「えぇ!?」

 なんで足に手錠が!?

 青年の両足にしっかりと手錠がかけられていた。

「ちょっ……え、ええぇ~?」

 さっさと歩いていくベリルと足を交互に見つめて右往左往する。

「いやはや……あの“お姫様”には、ガードなんて必要ないね~」

「当然でしょ~。お姫様“が”ガーディアンさ」

 あわてふためくレオン皇子を呆れて眺めながら、ぼそりと冗談交じりにつぶやくアキトにダグラスが笑って応えた。



END

*長らくのお付き合い、ありがとうございます。

 少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

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