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お姫様のガーディアン  作者: 河野 る宇
◆第5章
17/19

*勘弁してくれ

「!」

 ベリルがレオンをギロリと睨み付けると、途端に体が動けなくなる。

「あまり己の力を過信するのはいただけんな」

「うっ!?」

 ニヤリと笑ったベリルにぞくりとして後ずさりした。

 彼はそのチャンスを逃さなかった──フッと体勢を低くしたかと思うと、目の前にいた男にナイフを突き立てる。

「ぐあっ!?」

 突き刺したナイフをそのままねじり、痛みで力の緩んだ手からマシンガンを奪って弾倉マガジンを抜いて遠くに投げつけた。

「!?」

 慌てた他の男たちをダグラスとアキトは指示された人数叩き伏せ、そのまま背後にいる男たちに足を向ける。

「……なっ!?」

 レオン皇子は、それを呆然と眺めているしかなかった。

 3人はまるで連携作業のように、ことごとくマシンガンを奪ってマガジンを抜き軽く分解していく。

 小銃を奪われ、男たちは慌ててナイフを取り出す。その時には、ランカーもアライアもようやく3人の動きに慣れて戦いに加わった。

「きゃあぁ!」

「! ノエルッ」

「ぐおっ!?」

 少女に手を伸ばした男の背中にナイフが深々と突き刺さり、ゆっくりと倒れていく。

「……」

 レオンは、ベリルがナイフを投げた様子を目の前で見ていた。無表情の瞳に流れるような動きは皇子の目を釘付けにした。

「!」

 ハッ!? こうしてはいられない。逃げなくては! レオンは我に返って非常階段に向かう。しかし──

「うわっ!?」

 目の前の壁にナイフが勢いよく、ダン! と突き刺さった。

「う……」

 ナイフが投げられた先に目を向けると、ベリルが無表情で見つめていた。

「どこに行く」

 無表情というのが恐怖をかき立てる。

「!」

 ゆっくりと近づいてくるベリルに体が震え、その目に腰が砕けた。体を支えきれず、へなへなと力なくへたり込んだ。

 ベリルは、そんなレオンに目線を合わせるように片膝を付くと口の端をつり上げた。

「傭兵をあまり馬鹿にしない事だ」

「そうだよ~」

「これでも戦闘は得意なんだ」

 ダグラスとアキトは、他の男たちを縛り上げながらベリルの言葉に続く。

「ノエル、怪我はない?」

 少女の頬に手を添えてじっと見つめた。

「アライア、怖かったわ……」

 少女も青年を見つめ返す。

「大丈夫、俺が命を賭けてノエルを守るから」

「アライア、嬉しい」

 2人は強く抱き合った。

「……」

 一同は2人のやりとりに目を丸くする。

「勝手にやってくれ」

 ベリルは左手で顔を覆って溜息を吐き出した。

 そろりそろりと逃げようとしたレオンに、バン! とすぐ側の壁に勢いよく手をつく。

「ひっ」

「もう少しゆっくりしていけ」

 その目に射すくめられて、レオンはガタガタと震える。

「……」

 少々、怖がらせ過ぎたか……ベリルはやりすぎた感に少し反省した。

「そうビクつくな」

「う……」

 先ほどまで威張っていたレオンとは思えないほどの怖がりようだ。

「すげー怖がってるな」

「そりゃあ、ベリルに睨まれたもん」

「そんなに怖いのか?」

 しれっと応えるダグラスにアキトは目を丸くした。

「怖いなんてもんじゃないよ。まさに身が凍る思いがするね。ベリルは悪人を絶対に許さないから。試しに悪いコトしてベリルと闘ってみなよ」

「試しに出来るかよそんなこと」

 ベリルは気を取り直して静かにレオンに語り始めた。

「あの2人を見たろう。お前が入る余地は無い」

 それにレオンは震えながらも口を開いた。

「ほ、欲しいものは奪えばいい」

「奪ったあと、それで満足か」

「え……?」

 問いかけに思わず聞き返した青年に、ベリルはエメラルドを湛えた瞳を向ける。

「人から奪い、お前は本当にそれが得られたと感じたか」

 真正面からの問いかけに、レオンは視線を外そうとしたがベリルの視線に絡め取られた。

「奪ったものにあるのは虚しさだけだ。違うか」

「そ、そんなこと……あるものか」

 ベリルは小さく溜息を吐き出し、それまでの視線から柔らかな瞳を向けた。

「己の手で得たものには、例えそれが失敗だったとしても大きな成長があるだろう。お前にはそれがまるで無い。ガキだ」

「な、なんだと!?」

 声を上げたレオンに顔を近づける。

「!」

 整った顔立ちは中性的でもあり、エメラルドのような瞳に吸い込まれそうになった。

「……っ」

 その瞳は全てを見透かしているようで、無意識に目を逸らす。

「奪う事には限界がある。だが、己で得たものに限界は無い」

 それを知れ……ベリルはささやくように発し、立ち上がる。

「ん?」

 ベリルが壁から離した右手を、レオンは強く両手で握りしめていた。

 その目は、なんだか潤んでいるようにも……

「……?」

 怪訝な表情を浮かべる彼にレオンは声を大にして言い放つ。

「ベリル! 俺の正室にならないか!?」

「……は?」

 その言葉に一瞬、頭が真っ白になった。もちろん、そこにいた全員も同様に呆然とする。

 眉をひそめて見やると、レオンの瞳はキラキラと輝き冗談ではない事が見て取れた。

「勘弁してくれ……」

 ベリルは左手で顔を覆って、深い溜息を吐き出した。

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