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お姫様のガーディアン  作者: 河野 る宇
◆第3章
10/19

*あなたってそんな人

 某帝国ホテル──玄関前。

「ふえ~、初めて来たぜ」

 アキトはホテルを見上げた。

 入り口にいる王女の警護らしきスーツを着た男に、ダグラスが話しかける。しかし、男は首と手を振って取り合ってくれそうもない。

「もう」

 ダグラスは仕方なく電話をかけ始めた。

「あ、ベリル? いまホテルの前に……」

“プツ……”

「あ」

「切られたのか? まさか怒ってるんじゃ」

「違うよ。しばらく待ってよう」

「……?」

 いぶかしげに思いながらも、言われた通り黙って待つ事にした。

「処でさ」

「なに?」

ダグラスは友人が持っている荷物に眉間にしわを寄せた。

「なに持って来てるんだよ」

「だって折角、作ったんだぜ。新鮮な方が美味いんだ」

「そりゃそうだけど……あ」

 玄関の自動ドアから、栗毛で後ろ髪が少し長くゴムで簡単に束ねている長身の若い男が出てきた。

「ダグラス様とご友人の方ですね。こちらへ」

 2人を中へ促す。

「ね?」

「……」

 すぐに話をつけるから、わざわざ言わなくともいいから切ったって訳か。それをすぐに察する辺り、さすが弟子だっただけはある……アキトは唖然とした。

 エレベータに入り、最上階ペントハウスのボタンを押す。

 しばらくの沈黙のあと、男が口を開く。

「申し遅れました。私はランカーと申します。処でその荷物は」

「ああ、気にしないで。彼が作った料理だから」

「なるほど」

「毒なんて入ってないぜ」

 警戒されている事に気付き、慌てて発した。

「大丈夫だよ、ベリルが先に食べるから」

「え?」

「……?」

 怪訝な表情を浮かべる2人に説明する。

「いつもそうなんだ。先に食べて毒味するの」

「へえ……いやでも、死なないんだから毒味しても仕方ないんじゃ?」

「違う違う。死なないだけで、症状は出るの。だから、どんな毒が入れられてるかとか解るんだ」

「へ、へえ~」

 彼ならではの方法だな……と2人は感心した。

「もっとも、それが睡眠薬とかだと眠っちゃうからヤバイけどね~」

 あっけにとられている2人をよそに、ケタケタと笑う。

 そうして静かに止まったエレベータのドアが開き、エントランスが広がる。最上階にはこの部屋しかないため、通路は必要ないのだ。

 目の前に置かれているソファセットにベリルが腰掛けていた。

「やあ、久しぶり~」

「……」

 ダグラスが軽く手を挙げて挨拶すると、彼は無言でそちらに顔を向けているだけだ。

「どこに映っていた」

 ぶっきらぼうに尋ねる。

「ローカルテレビ。30秒もなかったんじゃないかな~。いや偶然チャンネル合わせたらびっくりだよ」

 その答えに、彼は足を組んで片肘をつき眉間にしわを寄せた。

「わ~……ホンモノだよ」

「!」

 ぼそりとつぶやいた青年に気付き視線を移す。

「ああ、紹介するよ。俺の友達、世良アキト」

「ダグが世話になっている」

「こっこちらこそ!」

 焦って声がうわずった。立ち上がり、差し出された右手に慌てて自分も右手を出す。

「!」

 あれ……?

「想像よりも小さいって思ったろ」

 友人の表情にすかさず応えた。

「!? い、いや別にっ」

 図星らしい、かなり動揺している。

「大半の者は私を大柄だと思う」

 ベリルは小さく溜息を漏らした。

「仕方ないよね。画像だと身長とかわかんないもん」

「そっそれはその……」

 ベリルは174cm、ダグラスは178cm。日本人であるアキトは180cmと、この中では一番高い。

「処でその荷物は」

 アキトの持っている荷物を見やる。

「あっ。これ俺が作った料理です」

 テーブルに乗せて料理を見せた。

「ほう……刺身か」

 綺麗に並べられた魚介類に声を上げた。

「あ、刺身とか大丈夫ですか?」

「私は好きな方だが、王女たちには難しいな」

「生魚を食べる習慣は無さそうだね」

「! そうだったか」

「少しもらっていいかね?」

 言いながら別の皿を用意した。

「え?」

「別の料理にアレンジするの?」

「うむ」

「料理出来るんすか?」

「多少はね。厨房を借りてくる」

 刺身を一通り取ってキッチンに向かった。こういう部屋にはキッチンが設置されている。

「ベリルさんて料理とかも出来るんだな」

「っていうか。美味いよ」

 ソファに腰掛けながら応えた。

「そうなのか?」

「俺が日本料理好きになったのも、ベリルの料理のせいだもん」

 出された紅茶に口を運ぶ。

「ベリルはアレだから何食べても太らないけど。俺はちゃんとトレーニングしないとまずいだろ。だから、料理して食べさせてくれてたの。元々、料理とか好きだし」

「へえぇ~」

「こちらがベリルのお友達?」

 突然、女性の声が聞こえて2人は振り向いた。

「初めまして。ノエルと申します」

 そこにいたのは、魅力的な瞳をした少女──ノエル王女は、小さく腰を下げて挨拶した。

「こ、こんにちは世良アキトです」

「ダグラスです」

 綺麗な栗毛と青い瞳を見てアキトは、なんだかお伽の国にでも足を踏み入れた感覚になった。

「お二人とも、とても魅力的ね」

 少女は楽しそうに両手を合わせ微笑んだ。

「そ、そんなこと……」

「有り難いお言葉です」

「でも、ベリルが一番ね」

 少女の言葉に、2人は王女の後方にいる青年に目を向けた。

 何故なら凄い目で睨まれたからだ。しかも、王女はその青年を一瞥して発したのを2人は確認している。

「……」

この2人はもしかして……事情を知らない2人でもピンときた。

「あ、あのですね」

 ランカーは慌てて2人を部屋の隅に呼びつけて説明した。

「なるほど~、まだ秘密の関係なんだ」

「へえ。ランカーさんも大変だね」

「お二人は察しが良い」

 それにダグラスはニヤリとした。

「ベリルは全然気付いてないでしょ」

「彼はいつもああなんですか?」

「そうだよ。恋愛に関してはまったく」

「え? ベリルさん2人に気付いてないの?」

 3人は互いに顔を見合わせる。

「まったく? 全然?」

「うん。もうからっきし」

「うそ……」

 目を丸くしている2人に肩をすくめる。

「完璧な人間なんていないってコトさ」

「いやしかしさ……モテない訳でもないだろうに」

「ま、ああいう人だから」

 薄く笑って言い放ったダグラスに呆然とした。

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