表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

嫉妬の果てに



新田の言葉に焦りは募っても、彼に俺の想いを伝えるなんて出来る筈もなく、イライラとしながらあっという間に何ヶ月かが過ぎ去った。


相変わらず俺は、彼の研究室に通う日々が続いている。


季節はすっかりと春を迎えて暖かくなり、俺は大学四年に進級していた。


そして、今日も講義が終わった後、俺は彼の研究室にやって来ていた。


「ああ、武藤君」


「先生」


ドアを開けると変わらぬ彼の笑顔がある。


その顔を見て、思わず俺も笑顔になった。


ああ、やっぱり俺は、彼が好きだ……


彼だけが、好きだ。


今日の彼は、いつもよりニコニコとしていて、とても機嫌が良さそうだ。


何故だろう?


何かあったのだろうか?


「すまないが、武藤君。今日はもう帰らなければならないんだ。今日は、君の研究論文に付き合えない」


「え?」


「今日は結婚記念日でね。妻と約束があるんだ。また明日、君の研究は見るので今日は帰ってくれないか?」


そう言った彼は、照れ隠しなのか頭を軽く掻きながら俺から視線を逸らした。


そんな彼の顔を覗き込むと、頬を少し赤く染めている。


彼の左手の薬指には、シンプルなプラチナの結婚指輪が輝いている。


彼が指を動かす度に、窓から入って来る陽の光でプラチナの指輪は(キラ)めいて見えた。


指輪が光を反射する度に、ズキリと心に痛みが走る。


彼の隣を堂々と歩けるのは、俺じゃない。


彼が好きなのは、俺じゃないのだ。


ギリッと奥歯を噛みしめながら、見た事もない彼の妻に羨望と嫉妬を覚えた。




次の日。


俺は昨日の出来事ですっかり落ち込んで、自分のマンションのベッドでゴロゴロとしていた。


昨日、彼と別れた後、まだ見ぬ彼の妻への嫉妬で荒れ狂った俺は、浴びる様に滅茶苦茶に酒を飲んだのだ。


それこそ、意識が飛んでしまうまで。


今、俺の隣には、昨日連れ込んだらしい女が裸のまま寝ている。


この女とセックスした事すらも、よく覚えていない……


今日は、本当なら彼の研究室に行かなければならないのに。


そんな気になれずに、二日酔いで痛む頭を抱えて、俺はベッドから動けずにいた。


……最低な気分だ。


どうしたら、この苦しみから抜けられるのだろう。


目の前に浮かぶのは、彼の笑顔だけだ。


「……貴文……」



聞き取るのは難しい程の小さな声で、彼の名を呟いた。


……彼の事を思うだけで、涙が出そうだ。


彼の事だけを考えながらベッドでごろ寝をしていると、枕元に置いてあった俺の携帯電話が、急に着信を告げる派手な音を立て始めた。


ディスプレイを見ると、俺の一番嫌いな男の名前が映し出されている。


「……新田か」


その着信に出る気にもならなくて、そのまま放って置いた。


だが、一回切れてもその後、何度も何度も携帯は鳴り響いた。


「……うるせえな」


あまりのしつこさに、仕方なく通話のボタンを押す。


『早く出ろ! バカ野郎!』


電話に出た途端に、耳元で大きく響く聞きたくもない新田の声。


「何だと、この野郎!」


『喧嘩してる場合じゃない! 今日は、お前大学にまだ来てないだろ?』


「それがどうした? そんな事はお前に関係ない」


『バカ! 雅也、よく聞け!……紫村先生の奥さんが、昨日交通事故で亡くなったんだ』


「何?」


何だと?


彼の奥さんが?


死んだ?


嘘だろう?


「な……新田、何言ってるんだよ」


声が震える。


『死んだんだよ、お前の愛しのセンセイの奥さんが!』


目の前が、一瞬にして暗くなった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ