彼との出会い(2)
俺が初めて彼を見たのは、今から約三年前。
大学に入学してしばらく経った時の事だった。
特に希望した訳ではないが、センター試験で受かった一番偏差値の高い大学。
まだ社会に出る気力も無かった。
まだまだ遊びたい……そんな軽い気持ちで大学に入った。
必修授業の社会学原論。
その教鞭を執っていた、紫村 貴文准教授。
少し大きめな二重の眼は優しげな光を宿し、筋の通った高くて形のいい鼻、薄めの唇。
小柄なせいか童顔に見えたが、全体的に整っていて知的な雰囲気の容姿。
落ち着きのある話し方、低めのよく通る声。
薄い眼鏡を掛けた奥にある瞳はとても澄んでいた。
俺は一目見て、彼の姿から目が離せなくなった。
息を飲みながら彼の姿と声だけを追う。
心臓はあり得ない程の早さで鼓動を打ち、頬は自分でも解る位に上気していた。
はじめは、どうしてこんな状態になってしまったのか、この感情が何なのか訳が解らなかった。
それまで俺は、男女どちらにも恋愛感情を抱いたこともなかったのだ。
その時は、すぐにこれが恋だとは気が付かなかった。
俺は人より優れた容姿で生まれついたと、自分でも思う。
中高生時代は凄くモテた。
まあ、大学に入った今でも寄ってくる女は多い方だ。
中学生時代は共学に通っていた。
当然のように、俺は女の子と付き合っていた。
男にはまったく興味がなかった。
しかし、高校は私立の男子校。
男が男を好きになる……
そんな世界があるとは解っていたつもりだが、目の前に現実を突き付けられると驚いたものだ。
最初は興味本意だったが、そのうち俺は男とも平気で付き合うようになっていた。
男と付き合ってみて解った事は、男でも女でもセックスで得られる快感は大して違わない、という事だ。
しかし、そんな関係を平気で結んでいても、相手を好きで付き合っていた訳ではない。
俺は情に薄いタイプなんだろう。
男でも女でも、本気で好きになった事は中高生時代は一回もなかった。
しかし、男女どちらと付き合っても、もつれる痴情沙汰は変わらない。
何股も掛けていたから、当然と言えば当然なのだが。
女も男も、いちいち嫉妬という感情で俺を縛り付けてくる。
俺はまったくの遊びだったというのに……
そんな乱れた関係を清算するためにも、俺はわざと遠方の大学へと進学したのだ。
しかし、そんな俺が彼の姿を初めて見た時から、一瞬にして変わってしまった。
毎日、思い浮かぶのは彼の姿ばかりで。
会いたくて、ひとめでも姿を見たくて。
姿を見れば、幸せな気持ちになって。
声を聞けばドキドキと胸が高鳴って。
近付けば、触れたくなってたまらなくて。
これが恋なのだと気が付くのに、その後は大した時間は掛からなかった。
男と付き合っていた事もあるせいか、男を好きになってしまったという自分の気持ちを受け入れる事に、抵抗を感じる事はまったく無かった。