愛するあなたと
「美由には黙っていて貰ったんです。あなたを直接驚かせたくて」
「き、君って奴はっ!」
「許してくれますよね、お義父さん。ああ、あと美由が、あなたを一人には出来ないって言ってたので、もちろん俺はあなたと同居させて貰いますよ。養子に入っても構いませんから。
……ダメじゃないですか、一人では家事も料理も何も出来ないそうですね」
……ダメだ。
彼に触れている手から、熱が広がる。
彼女、美由に触れるのとは、比べものにならないほど。
「ねぇ、先生。何をそんなに怯えているんです? 俺達は、家族になるんですよ」
彼の手をそっと握りしめる。
その途端に、ピクリと彼の身体が大きく揺れた。
彼の顔を覗き込むと、顔色は真っ青に変化して、瞳は不安げに揺れていた。
そんな顔をした彼に、自分の顔を寄せてそっと唇を重ねる。
途端に彼の身体が硬直し、両手で必死に俺の胸を押し返してくる。
……でも、逃がさない。
逃がすものか!
彼の舌を追いかけて捕らえ、激しく口内を犯してゆく。
身体をこれ以上ない程強く抱きしめ、彼の身体の震えさえ止まるほどに押さえ付けた。
じっくりと時間を掛けてキスを繰り返してゆくと、彼の身体の力が徐々に抜けてくる。
激しいキスで酸欠になったのか、いつのまにか彼は俺の身体にぐったりと身体を預けてきた。
そんな彼を愛しく思いながら、彼の甘い唇を思う存分に味わった。
じっくりと時間を掛けて味わいつくした後、名残り惜しいが彼とのキスを自分から解き、彼の身体をソファにそっと持たれ掛けさせた。
……もう、決めている。
彼には、キス以上の行為をしないと言う事を。
本当は、これ以上の行為に及びたいところだが……
これから、彼との甘い生活が始まるのだ。
一時の感情に流されて、二度と彼を失いたくない。
「……はぁ」
ソファに背を預けて、目を瞑ったままの彼の長い睫毛が、わずかに揺れている。
揺れているのは、涙のせいか?
それとも……
「……この行為は、美由に対する裏切りではないのか?」
息が整った彼は、目を瞑ったまま苦しげに震える声で俺に話しかけてきた。
「裏切り?……キスなんて欧米じゃ、家族同士でも挨拶じゃないですか、お義父さん」
外国でも、挨拶でここまでの深いキスはしないだろうけどな。
六年間のあなたに対する飢えが、一気に噴き出してしまった。
だが、これからは、ずっとあなたと一緒だ。
この六年間、一度も会えなかった。
会ってはいなかった。
でもこの六年、今、目の前にいる彼の事しか愛せなかった。
他の人間を愛する事は出来なかった。
娘の美由に偶然出会ったのは、運命なのだ。
彼を愛し抜けという、運命の啓示だったのだ。
彼とは混じり合う事は、きっと決まっていた事なのだ。
もうすでに彼の娘を通して、俺達は混ざり合っている。
彼の身体と混じり合いたい気持ちはもちろん強くあるが、今はこれ以上の関係は必要ないのだ。
これ以上の行為は、彼を壊してしまうだろうから。
それは、俺が一番望まない事だ。
それほどに、あなたを愛している。
あなたこそが俺の生きていく源だ。
「君は……娘だけを愛していけるのか?」
「勿論ですよ」
「それなら、しょうがない……」
肉体的にはね。
だから、裏切る事にはならないだろう?
表面上は。
「……あなたの子供が、娘で良かった」
「……何か言ったか?」
「いえ、何も」
傍にいる彼にも聞こえないほどの声で、本当の気持ちを呟く。
この六年間、俺は無為に生きて来た。
でも、これからは違う。
ずっと、あなたの傍にいる事が出来るのだ。
愛するあなたの傍に――
end。
完結しました。歪んだ愛の果てに、彼らの物語は続いていきます。
この先はどうしても15禁以上の内容になるため、しばらくしたらこちらの小説はムーンライトに移転したいと思ってます。このような駄文を読んで下さった方々には本当に感謝を捧げます。ありがとうございました。
余談ですが、タイトルの「CROSSING-OVER」は、CROSSINGは「混ざる」と言う名詞で「交差」、-OVERが付くと、「染色体の交差」という意味になります。
遺伝子レベルで混じり合う歪んだ想いと愛。
ここまでの執着は狂気ですね。でも、こういう人の歪んだ黒い部分を書くのが好きです。人は、心に誰しも白と黒の部分がありますから。
それがあるからこその人間です!
それでは、いつかまた☆