彼との再会
「子供が出来たの……」
付き合って半年ほど経ったある日、彼女からの報告があった。
……大切な話があって俺の部屋へ来ると言うので、予感はしていた。
ここしばらく、具合があまり良くなさそうな感じだったからな。
もちろん、最初からそのつもりで彼女を抱いていたのだから、当たり前と言えば当たり前だ。
彼女を初めて見た時からの、俺の一番の目的でもあった。
彼と俺の血が混じり合う……
ああ、こんなに嬉しい事はない。
「結婚しよう、美由。愛してる」
迷う事なく、彼女に告げた。
「嬉しい……雅也さん!」
彼女は大粒の涙を流しながら、俺の胸の中で泣き崩れた。
俺が何の躊躇いもなく結婚を口にした事で、感極まったみたいだ。
「俺も嬉しいよ……」
しかし、俺の喜びと彼女の喜びとは違う種類のモノだが。
……ああ、これで彼に会える!
彼女の身体を抱きしめながら、彼に会える喜びで胸が震えた。
早速、彼女からの報告を受けたその週の週末に、彼の家へ挨拶に行く事になった。
美由に恋人がいると言う事は、彼も知っていると言っていた。
だが、それが誰だとは話していないというので、俺は彼女にまだ俺の名は明かさないように頼んだ。
大学の恩師である彼を驚かせたいと、もっともらしく彼女には説明する。
……彼に逃げられては、困るからな。
彼に会える日が、一日一日と近付いて来る。
喜びと興奮でその日が近付くにつれ、その嬉しさが身体中から溢れだしてしまいそうだった。
彼女と結婚する……
これで彼と俺は、切り離したくても離れられない特別な存在になれるのだ。
彼の娘、美由を通して。
彼女の腹の、子供を通して。
ああ、そう思うだけで心が震える!
日々、俺は興奮が高まっていった。
そして、ついに、その日がやって来たのだ。
彼との再会の日だ。
その日、一番上等なブランドのスーツに身を包み、念入りに身だしなみを整えて、俺は彼の家へと訪れた。
彼の家のインターフォンを押す指が、情けない程に震える。
それはもちろん緊張などではなく、喜びにうち震えての事だ。
「いらっしゃい! 雅也さん」
彼女が満面の笑みを湛えて、俺を招き入れてくれる。
俺の望む、彼の待つ家へと。
明るいリビングへと通されると、彼がソファに緊張した様子で俯き加減に座っていた。
まあ、当然と言えば当然だ。
自分の愛する娘の、結婚相手をよく思う男親はいないだろう。
「……お久しぶりです。紫村先生」
彼が俯いていた顔を上げて、俺の顔を見つめる。
彼の瞳が、今まで見た事のない程に見開かれた。
その瞳の色は以前見た事がある……
大きく開かれた瞳のまま、身体を硬直させて彼は俺をジッと見つめて来た。
「武藤君……」
少し歳をとって、眼尻に見慣れない皺が刻み込まれていた以外に、彼はまったく変わっていなかった。