罠
軽い男女の性描写あり。15禁でお願いします。
女を自ら口説こうと考えたのは、生まれて初めてかもしれない。
今まで、女など放って置いても寄って来ていた。
だが、彼女は特別だ。
これは運命だったのだ。
天が俺に味方をしてくれたのだ。
彼女は、彼に続く一本の道。
彼女のいる先には、彼がいるのだから――
新入社員の挨拶を終え、一人一人簡単な自己紹介になった。
俺は彼女に向けて、飛びきりの笑顔を作り挨拶する。
「武藤 雅也です。よろしくね、紫村さん」
彼女は俺の営業部の一般事務として配属された。
これから、毎日彼女に会える……
ともすれば先走りそうになる気持ちを抑えながら、毎朝の挨拶も彼女に好感が持てるように笑顔で挨拶を繰り返した。
それからは毎日さりげなく、彼女に視線を向ける。
彼女と視線が合った時は、熱く見つめる。
まだまだ慣れない仕事も、何気なくサポートする。
女は押し過ぎても引き過ぎてもダメだ。
飲み会の席では、偶然の振りをして隣をキープする。
色々な話題を振って、彼女を退屈させないように気を使った。
「武藤さんって優しいですよね」
「そんな事無いよ、紫村さんは可愛いから特別だよ」
わざと視線を逸らして、はにかんでみせる。
そして、彼女だけにしか見せない優しげな瞳を向けて微笑んだ。
今のところ、恋人はいない事も確認する。
警戒心が緩んで来たところで、まずは団体で食事に誘う。
連絡先を交換し合う。
次は、一人で食事に誘った。
でも、焦りは禁物だ。
彼女に大人の余裕を見せながら、気のある素振りを繰り返した。
慎重に……
慎重に……
彼の娘は一人しかいない。
失敗は許されないのだ。
しばらく経つと、彼女が俺を見る瞳が徐々に熱くなって、見るからに変わって来た事がわかった。
罠に掛かった……
……逃がしはしない!
「付き合ってくれないか? 初めて見た時から、君が好きだった……」
「嬉しい、武藤さん!」
彼女と知り合って三ヶ月後、俺は彼女に交際を申し込んだ。
彼女は彼とよく似た瞳に涙を溜めながら、喜んで俺に抱き着いて来た。
「私も、武藤さんが好き……」
「嬉しいよ、美由……。美由も、雅也って呼んで?」
「雅也さん……」
ついに彼へと続く道を手に入れた!
もちろん彼女、美由の事はそれなりに好きではある。
彼の育てた子供だ。
とても素直で正直で、扱いやすくて好きだ。
彼女の容姿についても問題はない。
彼にそっくりな表情を見ていると、それだけで嬉しさを感じる。
だって、彼女には彼と同じ血が流れているのだから――
付き合ってから暫くして、俺は彼女を旅行に誘った。
もちろん、女が喜びそうなシュチエーションを選択する。
海辺のお洒落なプチホテルに予約を取った。
今夜は特別な夜だ……
初めて彼女を、彼女のすべてを、俺のモノにするのだから。
「美由……好きだ」
「雅也さん……」
頬を染めて恥ずかしがる彼女の服を、一枚一枚剥いでゆく。
すべての服を脱がして、生まれたままの姿になった彼女をベッドに横たえ、唇にそっと重ねた。
初めは啄ばむように軽いキスを繰り返した後、舌を滑り込ませて口内を侵すようなキスに変えてゆく。
「はぁ……雅也さん……」
興奮してきた彼女の唇から甘い吐息が漏れ出した。
徐々に唇を首筋に移動をさせて、舌を這わせて何度も強く吸いついた。
そして時折、耳元に唇を寄せては、彼女の耳に愛の言葉を囁いた。
「愛してる……」
君の血を。
「好きだ……」
君の、遺伝子を。
「……あ……雅也……」
彼へと続く、君は一本の道なのだから。
ああ、愛している……
彼女の身体に、俺の印を強く刻み込んでゆく。
紅い花が、身体中に咲いた。
その紅い血の花に、愛しさを込めて何度も何度も舌を這わす。
……彼の血は、甘い。
俺にとって、世界中で一番の甘い誘惑――