表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死亡フラグ回収係は今日も使い捨て ~他人の死を引き受ける異能者、公安で最も危険な部署に配属されました~  作者: 桐生カイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/16

第4話 報告書

 朝倉恒一、死亡。


 黒瀬玲奈は、その文字列を画面に打ち込んでから、ほんの一瞬だけ指を止めた。


 日時、場所、死因。

 すべて定型文だ。

 異能犯罪対応中の爆発に巻き込まれ、死亡。


 慣れているはずだった。

 ここに配属されてから、何度も書いてきた。


 だが――。


 黒瀬は視線を上げた。


 簡易ベッドの上で、朝倉恒一は生きている。

 白いシーツを胸までかけられ、浅い呼吸を繰り返している。


 数時間前に、確かに死んだ男が。


「……」


 報告書の続きを入力する。


『なお、対象は二十四時間前の状態で再出現を確認』


 再出現。

 その言葉が、ひどく軽く感じられた。


 黒瀬は端末を閉じ、深く息を吐いた。


     ◆


 医療区画の空気は、いつも冷たい。


 ここでは、人は「治す対象」ではない。

 「動作確認の対象」だ。


 医師がモニターを見ながら言った。


「今回も、身体的欠損は修復されています。ただし……」


「ただし?」


「神経反応が、わずかに遅れています」


 黒瀬は、眉を寄せた。


「誤差の範囲では?」


「そうとも言えます。ただ、積み重なれば無視できなくなる可能性はあります」


 医師は、それ以上踏み込まなかった。

 踏み込む必要がないからだ。


 使えるか、使えないか。

 それだけが重要。


     ◆


 目を覚ました朝倉は、最初、天井を見つめたまま動かなかった。


「……あれ」


 遅れて、声が出る。


「ここ……」


「医療区画です」


 黒瀬は、事務的に答えた。


 彼はゆっくりと首を動かし、周囲を確認する。

 その動作が、ほんの少しだけ、ぎこちなかった。


「……成功、したんですよね」


 彼は、そう聞いた。


 確認するような口調。

 自分の死に、意味があったかどうかを。


「はい」


 黒瀬は頷いた。


「死者は出ていません」


 朝倉の肩から、力が抜けた。


「……よかった」


 その一言が、黒瀬の胸を刺した。


 よかった。

 彼は、自分が死んだことを、そう評価した。


     ◆


 その日の午後。


 会議室では、簡単な事後報告が行われていた。


「今回の作戦は成功です」


 鷹宮課長が、淡々と結論を述べる。


「民間人被害ゼロ。異能者一名確保」


 スライドには、朝倉が爆心地に向かう映像が映っていた。

 何度見ても、目を背けたくなる。


「朝倉の行動判断も適切でした」


 評価。

 それは、人に向けられる言葉のはずだ。


「自主的に死因転嫁を行った点は、高く評価できます」


 黒瀬の指が、机の下で強く握られた。


「以上です」


 会議は、それで終わった。


 誰も、「彼は何回死んだのか」とは聞かない。

 聞く必要がないからだ。


     ◆


 夜。


 黒瀬は、再び端末を開いていた。


 死亡記録一覧。


 朝倉恒一。

 回数:三。


 まだ、三回。


 それでも、数字は確実に増えていく。


 黒瀬は、ふと画面を閉じ、天井を仰いだ。


 自分は、何をしているのだろう。


 人を守るための組織で、

 一人の人間を、何度も殺している。


 その矛盾を、考えないようにしてきた。

 考え始めたら、きっと壊れてしまうから。


     ◆


 その時、端末が震えた。


 新規任務通知。


 黒瀬は、反射的に画面を開く。


 次の作戦予定。

 明朝。


 対象者の名前欄に、すでに入力されている文字。


『朝倉 恒一』


 黒瀬は、目を閉じた。


 そして、ゆっくりと息を吸い、吐いた。


 感情を殺す。

 それが、この仕事で生き残る唯一の方法だ。


 そう、自分に言い聞かせながら。


 彼女は、また新しい報告書のテンプレートを開いた。


 ――次に死ぬ準備をするために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ