第21話 断絶
処分は、即日ではなかった。
◆
朝になっても、呼び出しはない。
拘束もない。
装備も、没収されていない。
それが、逆に不気味だった。
◆
訓練区画で、朝倉は一人、壁にもたれていた。
呼吸は、昨日より重い。
だが、身体の問題じゃない。
昨日、死ななかった。
その事実が、まだ身体に馴染んでいない。
◆
『朝倉さん』
黒瀬の声が、イヤーピースに入る。
『本日以降、あなたの行動は“監査対象”になります』
淡々とした報告。
「……監視、ですか」
『そうなります』
否定はない。
『出動時は、常時ログ取得』
『判断遅延は、すべて記録されます』
考えるな。
考えたら、分かるようにする。
◆
「俺は」
朝倉は、静かに言った。
「もう、昨日みたいなことは――」
『分かっています』
黒瀬が、遮った。
『だからです』
その声が、少しだけ震えていた。
◆
次の任務は、軽度だった。
出力の低い異能反応。
即死級ではない。
朝倉は、死ななかった。
それでも。
彼の背後には、常に視線があった。
◆
出動車両の中。
久世の声が、通信に割り込む。
『朝倉君』
「……はい」
『君は、有用だ』
前置きのような言葉。
『だから、我々は君を失いたくない』
失いたくない。
それは、守るという意味じゃない。
『だが』
声が、わずかに低くなる。
『有用である限り、だ』
◆
「……俺が、また死ななかったら」
朝倉は、問いかけた。
『評価は下がる』
即答だった。
『それだけだ』
◆
通信が切れる。
朝倉は、窓の外を見た。
街は、何も知らずに動いている。
昨日死んだ男のことも。
今日、生き残った自分のことも。
◆
夜。
黒瀬が、朝倉の居室を訪ねてきた。
規定では、許されていない時間だ。
「……すみません」
それが、彼女の第一声だった。
「謝られるようなこと、しましたか」
朝倉は、そう返した。
黒瀬は、一瞬、言葉に詰まる。
「私は……」
拳を、強く握る。
「あなたを、止めませんでした」
「……止められなかった」
訂正する。
「止める権限が、なかった」
◆
「でも」
黒瀬は、顔を上げた。
「これからは、止めます」
はっきりとした声。
それは、決意だった。
「上の命令でも」
「合理性でもなく」
「あなたが、人である限り」
◆
朝倉は、しばらく黙っていた。
そして、静かに言った。
「……それは」
一拍。
「あなたも、切られますよ」
黒瀬は、少しだけ笑った。
「もう、覚悟しています」
◆
その夜、端末に通達が入る。
『朝倉恒一
任務権限:制限付き』
文字は短い。
だが、意味は重い。
彼は、もう自由に動けない。
だが、完全に止められたわけでもない。
宙吊り。
◆
朝倉は、ベッドに腰を下ろした。
公安との関係は、もう戻らない。
信頼は、数字で管理される。
一度割れたら、元には戻らない。
それでも。
昨日の選択を、後悔していない自分がいる。
それが、何よりの断絶だった。
朝倉恒一は、静かに理解した。
自分はもう――
この組織と、同じ場所には立っていない。
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