第14話 予定された死
出動準備は、いつも通りだった。
装備の確認。
通信チェック。
簡易医療キット。
流れ作業のように身体が動く。
考えなくても、手順は頭に入っている。
――考えなくても。
◆
準備室を出る直前、端末が振動した。
任務詳細の更新通知。
何気なく画面を開き、そこで指が止まった。
『任務ID:E-4012
想定事象:異能暴走(爆発系)
対応要員:A-17
想定死亡時刻:15:42
想定死因:内臓破裂』
「……は?」
声が、自然と漏れた。
一行一行、読み返す。
見間違いじゃない。
死亡“想定”。
時刻まで、具体的に。
◆
胸の奥が、じわりと冷えていく。
俺は、廊下を引き返した。
足取りは、意外なほど落ち着いていた。
会議室のドアを開ける。
「課長」
鷹宮が顔を上げる。
「どうした」
「これ……」
端末を差し出す。
「俺、死ぬ前提なんですね」
部屋の空気が、一瞬だけ止まった。
◆
鷹宮は、端末を一瞥しただけだった。
「前提、という言い方は正確じゃない」
静かな声。
「死なないと、困る」
その一言で、全てが終わった。
「……困る?」
「他の要員では、被害が拡大する」
合理的な説明。
何の感情もない。
「お前が引き受けるのが、最も効率がいい」
効率。
その言葉を、もう何度聞いただろう。
◆
「もし」
俺は、ゆっくりと聞いた。
「もし俺が、生き残ったら」
一拍。
「今回の任務で、死ななかったら」
鷹宮は、少しだけ考える素振りを見せた。
「再評価する」
「評価……」
「使い方を、だ」
評価対象は、命じゃない。
使い道だ。
◆
会議室を出た時、足が少しだけ震えていた。
怒りでも、恐怖でもない。
理解してしまったことへの、反射だ。
俺はもう、結果じゃない。
工程だ。
“死ぬ工程”。
◆
出動車両の中。
窓の外を流れる景色が、やけに遠く感じた。
『朝倉さん』
イヤーピースから、黒瀬の声。
『……その、通知、見ましたか』
「見た」
短く答える。
『……すみません』
「何で謝るんですか」
自分でも驚くほど、穏やかな声だった。
『止められませんでした』
「……止められる話じゃないですよ」
沈黙。
黒瀬が、何か言おうとして、やめたのが分かった。
◆
現場に到着する。
封鎖された一帯。
緊張した空気。
時間を見る。
15:39。
あと、三分。
俺は、深く息を吸った。
不思議と、怖くなかった。
死ぬことには、慣れている。
だが今回は、違う。
これは、事故じゃない。
偶然でもない。
予定だ。
◆
爆発は、想定通りに起きた。
熱。
衝撃。
身体が、内側から壊れる感覚。
意識が薄れていく中で、俺は考えていた。
――もし、これが俺の役割なら。
この世界は、どこかで間違っている。
◆
目を覚ました時、時計は15:45を指していた。
医療区画。
「……予定通り、ですか」
誰に向けた言葉でもない。
黒瀬が、そばに立っていた。
「……はい」
視線を合わせられない。
俺は、天井を見つめた。
俺の死は、管理されている。
計画されている。
その事実が、何よりも重かった。
◆
端末が、再び振動した。
『任務完了
結果:想定通り』
想定通り。
俺は、静かに目を閉じた。
怒りは、まだない。
ただ。
このままではいけない。
それだけが、はっきりしていた。




