第10話 更新
死亡回数が二桁を超えた瞬間を、俺は覚えていない。
誰かが宣言したわけでも、アラームが鳴ったわけでもない。
ただ、表示が変わっただけだった。
『対象番号:A-17
死亡回数:10 → 11』
それだけ。
◆
「おめでとう」
準備室で装備を確認していると、同じ部署の職員が軽い調子で言った。
「二桁だな」
俺は、何と返していいか分からず、曖昧に頷いた。
「記録、早い方らしいぞ」
誇らしげですらある口調。
まるで、作業効率の話でもしているみたいだ。
「……そうなんですか」
「まあな。向いてるってことだ」
向いている。
その言葉を、俺はもう何度も聞いている。
◆
その日の任務は、工業地帯だった。
大型施設。
夜勤の作業員が数十名。
異能反応は一つ。
だが、出力は高い。
『今回は、爆発までの猶予が短いです』
黒瀬の声が、いつもより早口だった。
『判断を、急いでください』
判断。
俺は、施設の奥へ走る。
息が上がる。
胸が痛む。
それでも、足を止めなかった。
ここで立ち止まれば、確実に誰かが死ぬ。
それだけは、もう分かっている。
◆
爆発は、予測よりも早かった。
視界が白くなる。
衝撃。
今回は、意識が途切れるのが早かった。
痛みを感じる前に、終わった。
◆
目を覚ます。
天井。
白。
医療区画。
「……何回目、ですか」
自分でも驚くほど、淡々と聞いていた。
「十一回目です」
黒瀬が答える。
「今回で」
「……そうですか」
十一。
二桁を、越えた。
それだけのことなのに、胸の奥で何かが静かに崩れた。
◆
午後、簡単な報告があった。
「今回も、被害は最小限だ」
鷹宮は、満足そうだった。
「朝倉の対応は迅速だった」
迅速。
確かに、そうだろう。
死ぬのに、慣れてきている。
「このペースなら、今後も問題ない」
その言葉を聞いた瞬間、俺ははっきり理解した。
俺の限界は、考慮されていない。
◆
夜。
居室に戻った俺は、端末を開いた。
個人データ。
名前は、もう表示されない。
番号だけだ。
『死亡回数:11
平均対応時間:短縮
成功率:98%』
成功率。
何が、成功なのか。
俺が死んで、誰かが生きた。
それだけだ。
その数字の裏に、俺自身は含まれていない。
◆
ベッドに腰を下ろし、俺は手を見つめた。
震えは、まだある。
息も、深く吸えない。
それでも、数字は優秀だ。
使える。
まだ。
その評価が、何よりも重かった。
「……更新、か」
誰に聞かせるでもなく、呟く。
俺の命は、消費されるたびに更新される。
古いデータを上書きするみたいに。
そのうち。
上書きできなくなったら、どうなるのだろう。
答えは、もう分かっている。
それでも、明日の予定は、すでに入っていた。
『次回稼働予定:明朝』
俺は端末を閉じ、目を閉じた。
眠れば、また目が覚める。
目が覚めれば、また死ぬ。
それが、二桁になった俺の日常だった。




