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頭おかしい?狂ってる?いいえこれが私の恋愛です

作者: 花松きのこ


今日も私は体をぬらす。

決して乾かないようにと体をぬらす。



始まり。それはまだ私が小さい頃の話。


うちの庭はけっこう広くて、隅っこの方に木材とかを置く場所があった。

物置小屋の横。不揃いの木材がごっちゃりと積まれ、じめじめした日陰の場所。キノコが大好きだった私にとって、そこはお気に入りの場所だった。


夏のある日。確か、長く続いた雨がやっと止んでくれた日。久しぶりにキノコ探しができると喜んだ私は、木材置き場へと走っていった。

雨の次の日にはペソポソとかピルルクポッコルとか、珍しいキノコがよく生える。私はびちょびちょになった木材を、次々とどかしていった。


ワクワクしながらキノコを摘んでいると、そこで変なものを見つけた。

人の…頭?みたいなもの。それが奥の角材からニョッキリと生えていた。


「あなたはだあれ?」


私はそれに話しかけた。だって返事をしてくれると思ったから。

さらりと流れる金色の髪。お母さんよりもきれいなお肌。そして王国の王子様よりも整った素敵なお顔。

物語の貴公子様みたいなその物体は、私の呼びかけで目を開いた。


「…やあ、かわいい少女くん。僕かい?僕は…何なんだろうね」


透き通るような声。見透かすような青い瞳。

腐った角材から生えた、生首みたいなその何かは、私に向かって言葉を返してくれた。

私は、一瞬で恋に落ちた。


「あなた、自分が何なのかわからないの?」


「うん。僕は何なんだろう」


「キノコじゃないの?じめじめしたところによく生えるのよ」


「キノコ。キノコかあ。じゃあ僕はキノコなんだろうね」


そう言ってその人。キノコの人は深く頷いた。


「キノコのあなた、お名前はあるの?私の名前はピノコっていうの」


「ピノコ、ピノコか。よろしくピノコ。僕には名前なんてないよ」


「あらかわいそう。それならあなたは今日からマシュー。どう?マシュー。素敵な名前でしょう?」


「マシュー。マシューか。うん、うんうん。ピノコありがとう、僕は今日からマシューだ」


キノコの人、マシューはそう言って嬉しそうに目を細めた。ずっと無表情で変わらないのかと思ったけど、そうでもないみたい。



それから私とマシューは毎日遊んだ。

マシューに水をかけたり、マシューが生えてる角材を逆さまにしてみたり、ブンブン振り回してみたり、太陽の下にさらしてみたり。

その度にマシューは死にそうな顔をしていたけれど、私はすごく楽しかった。


マシューは不思議だ。

木材置き場に行く度に生えてる場所が変わっている。

角材、端材。地面から生えてることもあれば、物置小屋の壁から垂直に生えてることもあった。

でも共通してる点は、必ず湿ったところから生えている、というところ。やっぱりマシューはキノコなんだと思った。


そしてマシューは絶対に抜けない。

首から下がしっかり土台にくっついていて、いくら引っ張っても取れない。マシューが痛がって終わりだった。きっとマシューが抜ける日は世界が終わる日なんだろう。


ある時こんな話をした。


「ねえ、マシューは何歳まで生きれるの?」


「それは僕には分からないよ。ピノコはどうなんだい?」


「私はそうね、70歳くらいかしら。年をとっておばあちゃんになるわ」


「そうか、ピノコは年をとるとおばあちゃんになるんだね」


「誰でも年をとるわ。その前にお姉さんになって結婚するの」


「結婚?結婚って何だい?」


「結婚は素敵なことよ。好きな人とずっと一緒にいることなの」


「へえ。それじゃ僕はピノコと結婚しよう、僕はピノコが好きだから」


「あら、嬉しい。でもそういう事は軽々しく言うものじゃないわ。勘違いする女の子もいるのよ」


「でも僕が一緒にいたいのはピノコだ。それともやっぱりピノコは僕じゃ嫌かい?」


「…そんな事ないわ。私もマシューが好きよ」


「それなら僕と結婚しよう」


「…そうね。うん、分かったわ。それじゃあ私が16歳になったら結婚しましょう」


私はキノコに夢中の変り者。

そんな私とキノコっぽい生首のマシュー。

変な組み合わせの私達は、結婚の約束をした。

子供の頃の口約束。

でも大事な約束。


そして次の日から、なぜかマシューは全く生えなくなった。





 10年が経った頃。私は街の商会で働いていた。

昼は忙しく働いて、夜は趣味のキノコの研究。そんな忙しくも充実した毎日。

でも私の旦那様、マシューとまだ再開できていないのが心残り。


どうしてマシューが消えたのかは分からない。それでもマシューに会いたい私は、自己流でキノコの研究を続けた。

その結果、新種は作れたけれど、結局マシューにたどり着く事はできなかった。


そんなある日、私に縁談が舞い込んだ。相手は領主様の六男。どうやら店で私のことを見て一目惚れしたらしい。


私は困った。

そして丁重にお断りした。


「ふざけるな!この僕がめとってやると言ってるんだ。お前は首を縦に振ればいいんだよ」


六男は激昂した。

私はそれでも求婚を断り続け、そしてついには捕縛されてしまった。

領主の息子としてのメンツがあるのだろう。私刑の権限を使って、私は処刑されることになってしまった。


領主邸の庭。

縄で捕縛された私は地面に座り、その時を待っている。


私は生を諦めた。愛するマシューとも会えず、好きでもない人と結婚させられる人生。そんなものはいらない。そう思っていたから。


「この僕をバカにした罪、その身を持って償うがいい」


私の横で処刑人が剣を振り上げる。

終わり、終わりか。

短い人生だった。

もう少しキノコの研究したかったな。

マシュー…マシューはどこにいるんだろう。


頭の中で昔の記憶が駆けめぐる。子供の頃。あのじめじめした木材置き場で過ごした、不思議なキノコとの大切な日々。


ああ…そうだよね。あれ絶対にキノコじゃないよね。結局マシューって何なんだろう…。



剣が振り下ろされる。

私の目から涙がこぼれる。一筋の、涙。

その涙が奇跡を呼んだ。


「ピノコ、久しぶりだね。元気にしてたぐご」


「えっ」


私が流した涙。私のほっぺを伝った涙のすじ。

何と、そこから。懐かしい、あの人。

マシューがニョキっと生えてきたのだ。

そして私のほっぺから生えたマシューは、私に振り下ろされた剣を頭で受け止めた。

私のピンチに、この放浪ほうろうしていた旦那様は、身を挺して私を守ってくれたのだ。


「…マシュー!マシュー!」


「はは、大丈夫さ。僕は平気だよ」


頭の半分まで剣が食い込んでいる。それでもピンピンしてるなんて。本当にマシューって何なんだろう。すごく解き明かしたい。だけど今はそんな事を言ってる場合じゃない。


「な、なんだこいつは!?」


「化け物!化け物だあぁーっ!」


場が騒然とする。

それはそうだ。私のほっぺから急に人の頭が生えてきて、しかもそれが剣が刺さっても喋れる謎の生物なんだから。


「マシュー、どうしましょう。どうしたらここから逃げれるのかしら」


「いやあ…それは分からないよ。だって僕は動けないし」


「そう。それならいいわ」


マシューは無計画にただ生えてきただけだった。

でも私は嬉しい。私のために助けに来てくれた、王子様なんですもの。


剣を持った警備兵たちが大勢駆け込んでくる。みな殺気立っている。私たちを殺すつもりだ。


「出ておいで。デルポソ、ロキルルペルコッポ」


私は上着に忍ばせていた二つの小瓶のフタを開けた。

ズモモモモモモモ

小さな塊だったものが、空気に触れて巨大化していく。


「な……な…!」


私の研究の成果。それがこの二体の対国家用戦闘菌糸体、デルポソとロキルルペルコッポ。昔庭で採取した、ペソポソとピルルクポッコルから作り上げた兵器だ。


10メートルくらいに巨大化した巨人型のキノコが警備兵たちを蹴散けちらす。

人が何人も宙を舞う。まるでアリとゾウの戦いだ。


「さっ、私達はこの間に逃げましょう」


領主邸を破壊し、ズシンズシンと街中にも進出していく二体を見ながら私たちは走る。

マシューはすでに私のほっぺにはいない。いつの間にかお腹のあたりに生えていた。移動したのかな?早技だ。どうやらお腹にも涙がついて湿っていたようだ。


「ピノコ、どこまで行くんだい?」


「あなたと一緒ならどこまででも」


「僕は国とか知らないよ」


「そうね。じゃあ二つ隣の村まで行きましょう。あそこは空き家が多いわ」


おんぶにだっこの旦那様。だけど愛おしい旦那様。

マシューがいれば私は生きていける。だって世界はこんなにも美しく、菌で満たされているんですから。



夜になり、私たちは村に着いた。中心から離れた空き家に入り、ようやく一息をつく。


「マシュー。あなた一体今までどこに…いえ、聞かないわ。それよりも助けにきてくれてありがとう」


「うん、僕もよく分からないから。でも出てこれた。君が無事で嬉しいよ」


「マシュー、あの時の約束、覚えているかしら?私、16歳になったのよ」


私はマシューを熱く見つめる。

腐ったカポチャから生えたマシューは、いつもの無表情を少しだけ崩して、口元を緩ませた。


「もちろん覚えているさ。…ピノコ、僕と結婚してくれるかい?」


「…ええ、お願いするわ」



私は目から涙が止まらなかった。

どうしよう、私、すごく嬉しい。私だけがこんなに幸せでいいのかしら。


「ピノコ、愛しているよ」


「マシュー、私もよ。ずっと一緒にいましょうね」



私はカポチャを持ち上げ、マシューと口づけをした。

熱くて冷たい。幸せという名の菌糸が私の中を伝ってくる。これが…これが悦び。幸せというものなのかしら。


その日、私たちは一つになった。




そして私の旦那様、マシューは根を張り、私の体から抜けなくなった。

今日も私は体に水をかける。乾燥しないようにと。


私、幸せです。

こんな狂った物語を最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

ジャンルが分からなかったので恋愛に設定しましたが、騙されて気分を害された方がいましたらごめんなさい。

でも需要があったらまたこういうの書きます。

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