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第30話 コンカフェの特別サービス

 入店すると、ナース服を着た女子大生くらいのスタッフさんがやってきた。

 西洋風の酒場みたいな店内は、落ち着いた雰囲気でいかがわしさはないんだけど、スタッフさんの格好に不安を覚える。

 胸元が強調されるやたらとピタッとした服で、スカートが短い気がするんだけど……。薄ピンクのカラーリングも、いかがわしいといえばいかがわしい。


「いらっしゃいませ~。何名様ですか~?」


 のんびりした雰囲気で訊ねてくる。

 オレたちは学校帰りだから制服姿なんだけど、特に不審そうに見るわけでも、追い返そうとするわけでもないから、ちゃんと健全な店なのかも。

 必要なことを告げると、窓際のボックス席へと座るように促された。

 オレも、先行する二人の背中を追いかけるようにして一緒に行こうとするのだが……。

 そっとスタッフさんに肩を掴まれてしまう。


「実は、本日特別なキャンペーンをしておりまして。お客様には別のお席を用意します」

「え? 葉山だけっすか?」


 不思議そうに雉田きじたくんが言う。


「はい。女性専用のキャンペーンですので~!」

「あの、オレ、男子です……」

「ええっ、そうだったんですかぁ!?」


 制服姿で、男子の制服なのだからわかりそうなものだけど……まあ、うちは違うけど、女子でもズボンを選択できる学校もあるし、ズボン派の女子と思われたのかも。


「まあでも、せっかくなのでどうぞ~。さあ、さあ!」


 ずいぶんと強引な店員さんだった。おっとりした雰囲気は相変わらずなんだけど、こちらの意見を聞いてくれなさそうな感じがする。


「なんか面白そうだし、行ってきたらどうよ?」

「待て。葉山の意思はどうなる?」


 へらへらする雉田くんに、鈴木くんは腕組みをして難しそうな顔をする。


「絶対いいことが待ってますよ~。さあ、さあ~」


 とうとうオレの腕に抱きついて、そのまま引っ張っていこうとするスタッフさん。


「お願いします! ここでミスっちゃうと、クビの危機が迫ってきちゃうんですよ~。今だけ女の子として振る舞ってもらえますと、私としてはとっても助かるんです~!」


 とうとうその場に崩れ落ち、オレにすがりついて訴えてきた。

 あとからやってきた大学生くらいのお客が、困惑した表情でこちらを見てくる。

 このままじゃ、オレが泣かせたみたいになっちゃう……。


「わ、わかりましたよ……行きます」

「いいのか? 無理することないぞ」


 鈴木くんが心配そうにする。


「葉山が無理なら、代わりに俺が断るが?」

「ううん、いいよ。なんか困ってるみたいだし、しょうがないよ」

「おー、そっか。じゃあ、楽しんでこいよ! あとでどんなだったか聞かせてくれよな~。じゃ、鈴木、行こうぜ~」


 雉田くんは鈴木くんの背中を押してさっさと行ってしまう。

 コンカフェに入る目的は達したから、もうオレと一緒にいることもないっていう判断なんだろうか……。


「それではお客様~。特別席にご案内しますね~」


 さっきまで涙目だったのがウソみたいな明るい表情のスタッフさんに引っ張られて、オレは店の奥地へ足を踏み入れるのだった。


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