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第29話 クラスメイトに誘われて

 近所に面白いカフェがあるから行ってみよう、と言い出したのは、クラスメイトの雉田きじたくんだった。

 雉田くんは野球部の人で、クラスでも目立つ明るい人だ。例によって部活のマネージャー代わりとして手伝いに行ったときに話すようになった。この日はタイムセールもないし、海未のお迎えの時間に間に合うように帰れば大丈夫と思って、雉田くんの放課後のお誘いに乗ったのだ。

 でも、栄えた街の駅近くにあるそのカフェの前にたどり着いたとき、断るべきだったかなって思ったよ。


「……コンセプト、カフェ?」

「そうそう! コンカフェってやつな! 『ルアージュ』ってとこなんだけど!」


 雉田くんがはしゃぐ。


「未成年でも平気なのか?」


 同行者で同じくクラスメイトの鈴木くんが首を傾げる。寡黙な鈴木くんは大柄で筋肉質だから、成人しているように見えなくもないんだけど、そういう問題じゃないよね。


「大丈夫! 別にいかがわしくねーし! コスプレしてる店員が接客してくれるってだけ! ま、メイド喫茶みたいなもんかな」

「やっぱりいかがわしいんじゃない?」


 女性店員から嬉し恥ずかしいサービスを受ける店に足を踏み入れることは、岩渕さんに対する裏切り行為に思えてならない。いや、オレは別に付き合ってるわけでもなんでもないんだけど、心情的にね?


「葉山まで! そう睨むなよ~。確かに女性店員ばっかだけど、別に変なことはないから! ホームページにも口コミサイトにも、そう書いてあったんだから」

「お前、一人で来る勇気がないから俺たちを巻き込んだんじゃないか?」


 疑わしげな視線を向ける鈴木くん。オレも同感だよ……。


「葉山。雉田に構ってやることはない。こいつはクラスメイトを利用しようとしただけだ」

「そうだね……。雉田くんは置いて帰っちゃおう」


 オレは鈴木くんと一緒に、コンカフェに背を向けようとする。


「ま、待ってくれよ~」


 オレたちを一緒に抱え込むように飛びついてくる雉田くん。


「冷たいこと言うなよ~。ここまで来たんだから、一緒に行こうぜ?」

「でも……」

「と、友達だろ!?」


 こう言われると弱い。

 家庭の事情で、放課後の誘いを断りがちなオレだとわかっていても誘ってくれたのが雉田くんだ。

 友達と思ってくれてのことなら、オレだって無下にすることはできないよ。


「雉田。友達を盾にして葉山を騙そうというのなら、許さんからな?」

「違うって! そんな気ねぇよ~」


 とうとう涙目になってしまう雉田くんを前にしたら、オレのするべきことはもう決まってしまった。


「わかったよ、しょうがない……」


 結局オレは、雉田くんに絆され、入店することになってしまった。

 いかがわしいことなんて何もないといいんだけど。

 ていうか雉田くん、どれだけコンカフェに行きたかったんだろう?


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