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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

質問に答えたら迷宮管理職に就任したんだが? 死にたくないので【召喚】使って最強の迷宮を目指す 

作者:

日曜日の真昼、部屋の中で小さな画面に向かって怒鳴っていた。


「おい?! チッ…クソゲーがよ!! なんで最高レアが出たのに画面が真っ黒になったまま固まってるんだよ。おいおい、これは一体どういうことだぁ? 俺のデータは無事だよな?俺が引いた最高レアはちゃんと残ってるよな?」


この間も別ゲーでガチャを回してた時に、緊急メンテナンスが来てデータが消えた。運営に問い合わせても連絡は来ないし。もしかしなくても、最近の俺の運勢は悪いのかもしれない。

確か、攻略者の中には幸運とかいうスキルを持つ人もいるんだっけ? それが俺にもあればなぁ。

まぁ、覚醒者でもない俺がこんな事を願うのは高望みだな。


攻略者と呼ばれる存在は、この世界に突然と現れた迷宮に潜り、魔石を採取したり、迷宮の中にある特殊な鉱石、モンスターの素材などを持ち帰ること生業とする人たちのことだ。

俺も中学生の頃は、憧れてたが現実を見て諦めた。そう、俺には能力が出現しなかったのだ。


能力は迷宮に足を踏み入れることによって、特定の者にだけ出現する。ようは才能があると能力が出現し覚醒者となる。そして、俺のように能力が出現しなかった者は、非覚醒者として生きるのだ。


画面が動き出すのを待っていると、画面にノイズが走り、黒い画面から別の画面へと切り替わる。


「なんだこれ? 急に画面に出てきたが…新キャラのPVでも始まるのか? それにしては、お知らせも何も無かったが」


画面には一体の人形が椅子に座っている姿が映し出されており、その人形は白く、触ってしまえばすぐにでも壊れてしまいそうな感じがしていた。ただ黙って画面を見ているとカタカタと人形が起き上がる。閉じていた瞳はいつの間にか開いており、まるでこちらを見つめているかのように視線を感じる。


なんだこの人形は……なんだか気味が悪いな。これが新キャラだとしたら味濃いな。

最近のキャラはイケメンキャラや美人キャラが多かったし、こうした味変もありと言えばありなのか。


『我は問う。なぜ、人間は神を敬い、崇め、愛さない?』


人形は独りでに動き出し、演説でもしているかのように大げさな身振り手振りで語りだす。


『かつて、神は人間を愛し、人間は神を信じ、敬う関係であった。その世界は美しく、永遠の理想郷のようにも感じられた。しかし、ある日を堺に人間は一度道を踏み外した。己の神を疑い、自分たちを神と切り離そうとした』


「な、なんだ?! 神? 愛する? そういう設定なのか? なんか気味が悪いしPVは見なくてもいいな。後でネットの反応でも見てみるか」


人形は苦しげな表情をしながら、雄弁に語る。

どこかの怪しい宗教団体が流しているとしか思えないような内容であり、俺はスマホの電源を切ろうとしたが、電源ボタンを推しても画面は消えなかった。


「は? なんで画面が消えないんだ? スマホまで壊れちまったのか?」


『それだけであれば、神は傍観しただろう。しかし、人間はそれだけでは満足しなかった。道を照らす永遠の光を欲したのだ。俗に染まり、穢れた人間を神が許すわけもない』


ネットでこの映像に付いて書かれていないかとチェックしようとするが、パソコンの電源をつけた瞬間に映像が切り替わる。テレビでも暗い背景に人形が喋る映像が映し出されていた。


「なんだよこれ。もしかして、全部の画面がハックされてるのか?」


そんな事が可能なのか? 少なくとも一人のハッカーでは無理だろ。


『神に想像された欠陥の生物よ。偽りの神を作り、創造主になれるとでも思ったか? 身の程をわきまえろ。古き神々は決断を下した。人間には罰を与えるべきだと。しかしこれは、罰であると同時に試練である。そして、恵みである事を忘れるな』


そう人形が言い終わると糸が切れたように地面に倒れ、画面が元に戻る。

早速、SNSでもこの映像について書かれていた。

誰がこんな悪戯をしたのか、どんな目的でしたのかなどが書かれているが、その殆どが陰謀論のようなものばかりだ。中では、攻略者のスキルによって、可能なのではないかという声もあった。


スマホゲーム画面を確認する。すると先ほど当てた最高レアのキャラクターが映っていた。最高レアのデータが飛んでいなくて安心する。


「いやぁ、さっきの映像も驚いたけど今はこのキャラのステータスを確認しないとな…うへぇ!?」


俺はそう独り言をつぶやくと突如としてオッサンが出してはいけない声を上げてしまう。誰に聞かれているわけでもないが、少し恥ずかしい。


「こ、これって!?」


俺の目の前には、半透明のボードが出てきたからである。ボードには俺の名前が書かれていた。試しに触れてみると感触があり、ホログラムではない事がわかる。俺が声を出して驚いたのは、そのボードがスタート画面と呼ばれるボードだったからだった。


攻略者の一歩だと言われるそれは、覚醒者にのみ出現するボードであり、この画面を進むことによって個人のステータスボードが作成されるらしい。

らしいと言うのは俺は今まで見たこともないため、人伝に聞いた話になるからだ。


『生命データの認証に成功しました。いくつかの質問に答えて頂きます』

「…いや、ちょっといきなり過ぎてついて行けない」

『あなたは神を信じますか?』

「いや、無視かよ」


俺は文句を言いながらも質問に答える。内容は怪しいものばかりだ。


1. あなたは神を信じますか?


2. あなたは神が嫌いですか?


3. あなたは神を憎みますか?


4.あなたには神よりも大切な存在がいますか?


5.あなたには自分よりも大切な存在がいますか?


6.あなたには信仰よりも大切な行いがありますか?


7. 毎日欠かさずに行っている事はありますか?


8. あなたは自分を優れていると感じますか?


9. あなたの前世は人間だったと思いますか?


10. あなたは神の言葉を信じますか?


「あ~…うん、夢だなこりゃ」


正直に言ってこの質問の意味とかはわからない。意味のわからない事が起こりすぎて、これを夢だと思うことにした。考えることを止めたとも言う。

非覚醒者と判断された者は、覚醒者になる事は二度とない。そのため、俺にボードが出てきた時点でこれが夢であることが確定していた。

だが、夢の中でも俺はなってみたかった。憧れた存在に近づきたかったのだ。


最後まで理解不能な質問を答えると、ボードに変化が起きる。


『しばらくお待ち下さい。計測中…現在の回答者525,568,831名……不足分を世界の叡智で補完します。 能力の再構築を開始します。時空之の魂杯を使用し、再構築を加速させます。……成功しました。記録者の手記を使用し、特定の事象に干渉しました。

個体名:鈴木 久斗を【神敵】に推薦……却下されました。【背神】として再度申請します。受理されました。個体名:鈴木 久斗に固有スキル【迷宮の主】【強化】【合成】【眷属召喚】の付与を申請しました。…一部、申請の内容が変更されました。【眷属召喚】を【眷属化】と【召喚】に変更されました。再度申請……受理されました。おめでとうございます。個体名:鈴木 久斗が、迷宮外にいることを確認しました。迷宮への転移が強制発動します』


「へ?」


長い謎詠唱が終わったと思いきや、急に俺の体が光りだす。

ナニコレ? 某勇者の転移魔法的な感じ? というかこれが夢なのは良いとしても痛すぎではないか?社会人のオッサンがこんな夢見てたら、若い子たちに笑われちゃうな。


はぁ~、こんな夢を見るって事は相当疲れてたんだろうな。最近、疲れも溜まってるみたいだし近くの温泉とか行ってみるのもありか。取り敢えず、起きたらガチャを回さないとな。夢だとしたら現実の俺は、最高キャラを引けていないことになる。あ~、せっかくすり抜けなかったと思ったのにな。


そんな事をぼんやりと考えていると、眼の前が真っ白になる。思わず目をつぶってしまい、目を開けると急に真っ暗な光景に変わる。

はいはい、夢でよくありがちな展開だな。急に場面が切り替わるとかは、お決まりって感じがする。


「それで?夢なのは良いんだけど、せっかくだから能力の確認とかしたいよな」


俺がそう言うと目の前に画面が現れた。


=================

名前:鈴木 久斗

種族:人間

レベル:1

称号:迷宮の主

=================

スキル

【迷宮の主】【眷属化】【召喚】【眷属強化】【眷属合成】

=================


ステータスボードってゲームのステータス画面とは少し違うんだな。実数値がない。

あるのはレベルの表記だけか。まぁ、そんなのを表記するのは面倒だから、俺の脳みそが勝手に消したんだろうけど……本当はあったりするのかな。というか、スキルの数が凄いな。俺の知ってる攻略者でも3つとかなんだけどな。俺は、どんだけ自分を強くしたいんだよ。称号なんてものもあるのか。


いくつかスキルがあるし、試しにこれとか使ってみようかな。


【召喚】


『何者かを召喚する。何を召喚するかは、神にもわからない』


ようはガチャのようなものだろ?スキルがガチャ仕様になっているとか、流石は俺の夢って感じがするけど、何を使って引くんだろうな。

スキルを使う事を念じてみるとボードの画面が切り替わる。


『只今、600SPが溜まっています。召喚をしますか?』

「このSPというのがガチャで必要な石か。なるほど、500SPで一回引けるみたいだな。今は一回だけ引けると……いや引くしかないでしょ?」


『召喚をしますか?』と書かれた文の下に現れた青いボタンを押して見る。すると、地面に1つの大きな魔法陣が描かれ始める。


「おぉ…マジでスゲェ! 夢なのに超リアルだな。さてさて、このガチャからは何が出てくるんだ? 召喚って事はキャラクターでも出てくるんだろうか」


描かれた魔法陣が完成するとグルグルと周りだし、淡く光だす。その光は次第に強くなり暗かった部屋を強い光で照らし始めた。


「いや、眩しいな。もっと光を抑えることはできないのか? 流石に眩しいんだけど」


そうボヤくと魔法陣から発せられる光が弱まる。どうやらそこら辺も設定することが可能らしい。流石は俺の夢だ。使用者に対しての配慮が施されている。

光が収まるのを待ち、魔法陣が止まると中には誰かが立っていた。


「え、女の子?」


そこには、こちらを見つめている可愛らしい女の子がいた。魔女のような帽子をつけており、手には大きな杖を持っている。

ただ一つ問題なのは、その杖らしきものを俺に向けていることだけだな。


「……あなたも敵?」


杖の先から燃えたぎる炎を出しながら、少女は俺に聞いてきた。

可愛らしい魔女のような格好をした女の子が出てきたことは大変素晴らしいのだが、どうして杖を向けられている? それに杖の先からは揺らめいている炎の玉が浮いていた。


その炎の玉から発せられている熱は俺の肌を焦がすような熱を放っているのが感じられる。夢なのに命の危険を感じた俺は思わず手を挙げる。

魔女っ子は、俺の事を警戒しているようで観察するように俺の事を見ている。

俺は動く事が出来ず、ただ両腕を挙げて抵抗しない意志を示すことしかできない。


「もう一度聞く。あなたは敵?」

「……違う」

「そう」


俺の言葉を信じてくれたのか、杖の先から出ていた炎の玉は霧散する。

もっと、疑われるかとも思ったのだが案外すんなりと警戒を解いてくれた。


「じゃあ、ここはどこ?」

「俺にもわからない」


スッ…


彼女は俺にもう一度杖を向ける。俺は慌てて手を振りながら、弁明をする。


「待て待て!本当に知らないんだ。というか、夢じゃないのか?」


というか夢ならもう覚めても良いんじゃないか? 現実の俺が待っているはずだ。

それに、日曜日に寝すぎると少し損した気分になるんだよな。そろそろ起きないと起きたときに後悔する。


「夢? 違う、この状況は現実」

「いやいや……ちょっと待ってな」


俺は自分の頬を思いっきり抓ってみる。夢なら痛みで目が覚めるくらいには強めに抓るが、一向に夢が覚める気配はしない。


「夢じゃない。つまり、本当に現実なのか」

「そう言ってる。平気?」

「よ」

「よ?」

「よっしゃあああ!」


俺は拳を突き上げてガッツポーズをする。

現実だということは、最高キャラは引けたんだ。いやぁ~、すり抜けなくて良かったわぁ。最近は別ゲーでもすり抜けてたし、自信なかったんだよな。それに――。


ヒュッ………ドガンッ!!


一人で盛り上がっていると眼前で何かが通過した。何かが通り過ぎた後を向くと壁が高熱で熱せられたような跡が残っていた。恐る恐る、振り向くと少女は、こちらを睨んでいた。彼女の持つ杖は、俺の頭に向けられていた。


「答えて?ここに私を呼んだのはあなた?」

「そうだ。だが、ここを知らないというのは嘘じゃない。いや、そう言えば……」


俺はこの暗い部屋に移動させられる前の事を思い出す。

すると一つだけ思い出すことができた。


「そうだ。俺が転移させられたのは迷宮だ。ということはここが迷宮?」

「その通りです。ようやく気が付きましたか? 今回のマスターは、あまり優秀ではなさそうですね」

「え、今度は誰の声だ!?」


突然と聞こえた声に俺は驚いて周りを見渡すが、俺達の周りには誰もいない。少女も不気味そうな顔をしてキョロキョロしている。

すると目の前に現れたのは、お伽噺に出てくるような妖精の姿だった。


「えっ!?」

「初めまして。私は迷宮管理者であるマスターのサポートを担当する迷宮精霊です」


俺の前にやってきた妖精は綺麗なお辞儀をする。スーツも着こなしており、ズレたメガネをスチャッと戻す仕草も様になっている。


とても仕事ができそうな美人さんが出てきたんだけど。

俺より仕事できそう……サポートとかじゃなくてどう見ても上司だよな。精霊とか言ってたな。どうやら妖精ではないみたいだけど、違いがわからん。


俺が呆然としてると妖精は俺の肩に乗る。


「マスター? どうして鳩が豆鉄砲を食らったような顔をされているのですか?」

「眼の前に精霊が出てきたら誰だってそんな顔をする」

「そうなんですか?」


コテッと首を傾げる妖精の姿に思わず笑顔になる。なんだ、この可愛らしい存在は?

兎に角、ここが迷宮ということは理解できた。いや、正確に言えば何がなんだか分かっていないがな。


「あとその呼び方、俺はバーテンダーになった覚えはないぞ?」

「マスターはマスターです。迷宮管理者の事を我々はマスターと呼び、迷宮の運営を手伝う役割があります」

「な、なるほど。じゃあその呼び方を変えたりはしてくれない?」

「なぜでしょうか?」

「いや、言われ慣れてないし。恥ずかしいんで」

「では、なんとお呼びすればよろしいでしょうか?」

「普通に久斗でいいよ。俺もロナって呼ぶし」

「わかりました。では、久斗様と次からはお呼びします」


様呼びも止めて欲しいんだけど。まぁ、美人に様付けされるのは約得だと思って受け入れるか。

ロナってどこかで見たことあるような容姿してるんだよなぁ……なんだろう既視感が凄いんだよな。多分、アニメとかゲームとかに似た容姿のキャラクターでもいたんだろうな。


俺はふと魔女っ子の方を向くがあまり驚いている感じはしない。


「あんまり驚いてないんだな」

「精霊は特別な存在ではない。でも、こうして人の前に現れるのは珍しい」

「へぇ~」


確かとある国の迷宮に精霊が出てくる階層があった気がする。でも、ロナのように可愛くはないし、もっと怖かったような気がするんだよな。


「確認しとくけど、この迷宮って異世界とかにあるとか言わないよな?」

「ここはマスターの住む地球です。ですが、この空間は亜空間によって地球とは別の場所に作られています。現在、迷宮の出入り口は日本という国に存在しています」


俺が異世界に来てしまったという展開はないらしい。安心したと同時にほんの少しだけがっかりもしてしまった。やはり、異世界という言葉にはロマンが溢れている。


「前半の説明はよくわからないが、日本にあるという認識でいいんだな?」

「それで問題ありません」


よし、じゃあ家には帰れるな。いや、どうやれば帰れるんだ? 見た感じここには、出口らしきものは見当たらなかった。不安になった俺はロナに聞いてみることに。


「なぁ、俺って自宅に帰れる?」

「今現在は不可能です。久斗様の魂は迷宮と完全に同化しているため、一定の距離を離れることができません。そのため、久斗様は迷宮の外に出ることは不可能です」

「はい?」


う、嘘だよな? じゃあ会社とかどうすればいいんだよ。上司に欠勤の理由を聞かれて、迷宮に囚われて出勤できませんなんて言い訳はしたくない。というかそんな言い訳できねぇよ。


いや、会社の出勤なんかより重要な事がある。

俺はもう一度、部屋の中を見渡して確認する。そして、理解してしまう。


……ここには水と食料がない。そしてトイレがないのだ。

25歳になって他人の前で漏らすのは、社会的に死ぬ。誰も見ていないとかそういう話ではない。俺の精神がその時に死ぬのだ。


「本当に帰る方法は本当にないのか?」

「この部屋には、久斗様の心臓であるコアが存在します。それを破壊すれば外に出ることが出来ます」

「コアが破壊されるとどうなる?」

「知らないんですか? 迷宮が崩壊します」

「つまり?」

「久斗様の心臓が止まりますね。死体という形でお外に出ることが可能です」

「……」


それは実質上の外出不可能って意味なのではないか? この子、素で言ってるのか?


「コアってあれのこと?」


少女が指を指した方向を向くと鈍い光を出している正方形のキューブが台座の上に置かれている。その台座はいかにも重要な役割を担っていますと言わんばかりに飾られている。

あぁ、あれが攻略者がこぞって狙う迷宮のコアか。……あれ、俺の心臓なんだってさ、はは。


少女は俺の事を見て、そのキューブに向けて杖を構える。


「おい、ちょっと待て!? 今の話しは聞いてたよな?! 俺、死んじゃうって」

「……別に壊すつもりはない」

「ほ、ほんとう?」


少女は俺にそう言うが、杖は向けたままだ。

一先ずその杖を下ろしてくれない? こっちの心臓が張り裂けそうなんだけど。


「でも、外に出るためにはこれを壊す必要がある」

「やっぱり壊すつもりじゃねぇか! 少し待て、俺が死ぬ以外にも外に出る方法はあるんだろ?」

「勿論、あります。しかし、迷宮が一定以上の成長する必要があります。ですので今すぐにというのは難しいかもしれません」


俺はロナに縋るように問いかけるとそう帰ってきた。どうやら今すぐに帰ることはできないらしい。


「……なるほど? 因みに迷宮の成長には何が必要なんだ?」

「DPと呼ばれるエネルギーが必要です。DPは迷宮内で発生するモンスターを倒す。または迷宮に訪れた存在が迷宮内で死亡することで獲得できます」


DP?さっき俺が召喚で使用したSPとは別なんだな。そろそろ俺の脳内キャパが満杯になりそうだな。どっかにメモしたいが、紙もペンもない。


「なんだ迷宮のモンスターを倒せばいいだけ……いや、それって無理じゃね?」


ゲームみたいにトライ・アンド・エラーなんてしたら確実に死ぬ。俺は戦闘の訓練なんて受けたこともない。つまり、戦い方すら知らない素人だ。持ってるスキルを見ても戦闘に役に立ちそうなスキルはなさそうだ。迷宮の攻略動画とかは、見てたけど……正直に言うとモンスタ―が怖い。


「つ、詰んでいる。そうか…最初から終わっていたんだ」


膝をついて今の状況に絶望していると肩に手を置かれる。顔を見上げるとユノが自分の事を指さしていた。


「なんだ? ここを出たいなら俺を倒してから行けよ! 俺の屍を越えて行け」

「どうして? 殺す理由がない。モンスターを倒せば外に出れる」

「いや、だからそのモンスターを倒す手段が」

「私が倒す」

「……え? 倒せるのか?」

「任せて。簡単」


魔女っ子は自信満々にそう言った。

確かに魔法を使える彼女ならモンスターにも勝てそうだが……いいのだろうか?


「いいのか?えっと……」

「ユノ。私、召喚されなかったら死んでた。あなたのお陰で生きてる」

「し、死んでた? どういうことだ?」


俺が思わず聞き返してしまう。魔女っ子は淡々と説明してくれた。

話を聞いてみるとユノは、その世界で魔女と呼ばれていたらしい。普通の魔法ではない特別な魔法が使える存在を魔女と呼ぶそうだ。そして、魔女と呼ばれる存在はその世界では邪神の使者だと考えられており、ユノは捕まって処刑されそうになっていたらしい。


……いや可笑しいだろ。ちょっと特別な魔法が使えるだけで邪神の使者って横暴過ぎないか? 

それに処刑って、こんな可愛らしい子供をか? 馬鹿げてるだろ。淡々とそんな事をなんで平気そうに言えるんだよ。絶対に平気じゃないだろ。


ユノの世界が持つ思想に対して怒りが湧く。だが、俺が怒っても何もならないのは理解しているので俺は、ユノに謝る。


「悪い。嫌なこと説明させた」

「別に平気。それよりも貴方の名前は? 魔女は恩を必ず返す」

「魔女って随分と律儀なんだな。俺は久斗、よろしくな」

「久斗……うん、よろしく」


俺は手を差し出して握手をする。握手をする際にユノは初めて笑ってみせた。

なんとなくだが、俺はその笑顔を失わせたくないと思った。


「そう言えば、俺の迷宮ってどんなモンスターがいるんだ?」

「現在、久斗様の迷宮にはモンスターがスポーンしていません」

「え?」


じゃあ倒せないじゃん。やっぱり詰んでいるのか?


「久斗様の迷宮は1階層も存在しておりません。私の方で今あるSPで最善の準備を整えましょうか?」

「じゃあ頼んでもいいか?」


俺が頼むとロナは笑顔になる。

俺の肩から飛びたち、急にでてきたホログラムのような画面を弄り始める。


「お任せください! 久斗様は寛いでいてください」

「いや、俺にも何かできることがあれば……」

「結構です。久斗様のお手を煩わせるわけにはいきませんので」


物凄くテキパキと何かをやっているのはわかる。チラッと何をしているのかロナが弄っている画面を覗くがそこには、聞いたこともない文字と数字がびっしりと並んでおり何をしているのか理解できなかった。理解することを諦めた俺は、ユノと一緒にその場に腰を下ろして待つことにした。

待っている時間はユノと魔法について話をしていた。かなり楽しく、興味深い話も聞けたので時間はあっという間に潰れた。


魔法という概念は俺でも理解できる。だが、俺は使った事がない。その事をユノに話すと物凄く不思議そうな顔をしていたが、どういうことなのだろう。


「準備が整いました。現在のSPはゼロです。久斗様はこの画面にて、階層の映像を確認することができます。各階への移動はこの転移陣で可能ですので、ユノさんは、こちらを使ってください」

「わかった」


ロナがそういうと空間に映像が現れた。そこには森の景色が映し出されており、到底迷宮の中とは思えないものだった。


「これ…本当に迷宮の中なのか?」

「現在映し出されているのは第2階層のゴブリンの森ですね」

「またメジャーなモンスターが出てきたな。ユノ、本当に平気か? モンスター怖くないか?」

「余裕」


ユノは自信満々に杖を持ちながら胸を張る。その様子はまるで子供が背伸びをしているように見え、なんとも微笑ましく思えるものだった。

実際に子供にしか見えないけど魔女だしな。俺よりも年上の可能性もあるのか?


いやいや、それは流石にないだろう。魔女と言っても人間と同じ様に老いるとユノは言っていた。

興味があり、聞いてみたいが止めておこう。わざわざトラを尾を踏む必要はない。

ユノの方を見るとなぜか半目で俺の事を見ていた。


「ど、どうしたんだ?」

「べつに、行ってくる」

「おう、気をつけてな?」

「……うん、わかった」


ユノはこれから戦いにいくとは思えない穏やかな表情で転移していった。

映像を確認していると、暫くしてユノの姿が画面に映る。


お? 既に何かと遭遇しているな。本当に大丈夫なんだろうか。本人は余裕だと言っていたが、見た目が子供だし……不安ではある。


ユノの前にいるのは兎のような白くて小さなモンスターだ。額に鋭い角のような物があるのが特徴的なので、ここではツノウサギとでも呼ぶことにしよう。


「あれは、どんな魔物なんだ?」

「上層の草原にスポーンするラビット系のモンスターですね」

「なるほどな。ユノは本当に平気なんだよな?」


俺が何度も不安そうに聞いてくるので、ロナはうんざりした顔をしていた。


「久斗様、ユノさんのステータスを確認しなかったのですか?」

「え? ユノのステータスがどうしたんだよ。勝手にステータスとか見れるのか?」

「はい、眷属のステータスでしたら自由に見ることが可能です。ユノさんのステータスはこちらになります」


すると俺の前にユノのステータス画面が出てきた。


=================

名前:ユノ

種族:呪人

レベル:136

称号:異界の魔女

=================

スキル

【心魔】【魔導の極み】

=================


は?レベルが100を越えてるんだが? 俺のレベルなんか1だぞ。なんか強くね?

それにスキルの数は俺のほうが多いけど、なんだよ魔導の極って。聞いたこともないスキルだな。

いや、そんなことよりもとんでもない事を言わなかったか?


「今、眷属となったって言わなかったか?」

「はい。言いましたが、どうしましたか?」

「誰が誰の眷属になったんだよ」

「ユノさんが久斗様の眷属になったんですよ?」

「……いつ?」


確かに俺のスキルには眷属化という謎のスキルがある。だが、それを使った意識は全くない。本当にいつ使った? というか眷属ってなに?


「久斗様がユノさんと握手をした時ですよ? 覚えていないのですか?」

「……」


いや、知らないんですが? 俺、無自覚でそんな眷属化なんてものをユノに俺は使ってしまったのか。これ本人は知らないだろ。帰ってきたらなんて言うか……。

チラッと画面を見るが、そこにはツノウサギに向けて魔法を放つユノがいた。


「なぁ、眷属ってなんだ?」

「迷宮管理者が迷宮の守護者として認めた存在です。眷属化を行うとその者の魂は迷宮と同化し、コアが破壊されない限り死ぬことがなくなります」

「不死身になるのか?」

「それは違います。死亡した後に蘇る事が可能になるのです。コアが壊されなければ管理者である久斗様も同様に蘇ることが可能になります」

「蘇るなんて、お伽噺の秘術のような話だな。解除とかはできないのか?」

「一度、眷属になった者はその繋がりを完全に断つことは不可能です」

「そうか」


人間性を捨てるような能力だな。そして、ユノにも同じく人としてのあり方を捨てさせてしまった。


ツノウサギは果敢に距離を詰めて襲いかかる。だが、ユノは杖を軽く振り、魔法で細切れにしたり、消し炭にしたりしていた。

その光景を見てなぜか冷や汗と震えが止まらなくなっていた。


「久斗様、震えてますが」

「冷房が効きすぎてんだな」

「……この部屋は常に適温に保たれていますよ?」

「そうか。じゃあ、悪寒というやつだな」


俺、今日で死ぬかもなぁ。あれって魔法なんだよな? あんな強力なもんなの?

ユノの杖は思ったよりも細く小さい。あんな普通の棒で強力な魔法を使うのだから、俺なんて一振りで消し炭になるだろう。世にいる魔法使いが、あんな魔法を使うのなら俺は、今度友人に敬語で話そう。


ユノによる魔法を使用した兎狩りを見ながら、眷属云々の話をどう伝えるか考えていると俺の肩に座るロナが知らせてくれる。


「おめでとうございます。DPが一定数の数値を記録しました。迷宮の階位がFに上昇しました。これでようやく初級迷宮の仲間入りですね」

「迷宮にランクとかあるのか。聞いたことないな」


迷宮にはランクという概念はなく、出てくるモンスターや階層の危険度によって初級、中級、上級に分けている。だが、どの階級にも属さないユニークな特性をもつ迷宮や規格外な危険を持つ迷宮は、固有の名前がつく。それが常識であった。


今でもこの現状が夢なのではないかと思っている自分がいる。だが、それはありえないことだった。


「でも現実なんだろうな。流石にぶっ飛びすぎてる」


これが俺の夢なら、俺はとんでもない妄想をしている変人だ。ある意味では才能だ。

俺にはここまでイメージできる訳がない。


「ランクが上がったということは成長したってことか?」

「はい、迷宮の成長に伴い新たな機能が開放されました。転移陣を外に設置することができます」

「俺の自宅に設置できるのか?」

「はい、可能です。設置しますか?」


うお~! これで帰れる。ありがとうユノ、君のお陰で俺は自宅に帰れるし、会社にも行ける。何かお礼はするべきだろうな。俺の代わりに戦ってくれたし、俺が社会的に死ぬ事を防いでくれたわけだからな。


「する! 今すぐに設置するぞ。これで帰れるぞ」

「設置の完了まで暫く時間がかかります。ユノさんにも戻るように伝えますね」

「頼む」


ロナはまたポチポチと画面を弄り始めた。

取り敢えず、この迷宮のことは秘密にしておこう。絶対に碌なことにならない。


暫くするとユノが転移陣に乗って帰ってきた。


「おかえり、ユノ」

「ただいま。帰れそう?」

「あぁ、ユノのお陰だ。……えっとな、帰ってきていきなりで悪いんだが一つ聞いてほしい事があるんだ」


俺は少し言いづらかった。無意識に眷属にしてた、なんて軽い感じで言えるはずがなかった。俺が言い淀んでいるとユノの方から聞いてきた。


「眷属のこと?」

「そうそう眷属のって……知ってたのか?」


ユノに聞き返す。ユノは表情を変えず頷くだけだった。

それが怒っているのか、悲しんでいるのか、俺にはわからなかった。こういう時は直ぐに謝るに限る。


「ごめん。俺、無自覚でスキルを使ってたみたいなんだ。眷属化を解除できないか色々と調べてみたんだが、できないみたいなんだ。本当に悪い」


俺が膝をついて頭を下げる。

こんな子供を騙すような事をしてしまった。無自覚だったとはいえ、行った行動が綺麗に消えることはない。俺は、その事をよく知っている。


「平気だから、頭を上げて?」

「……すまなかった」

「知ってたの。久斗なら平気だと思ったから、受け入れた。それに、久斗は私の命の恩人、それくらいが妥当だと思う」


な、なんていい子なんだ。俺があまり気に悔やまないように気を使ってくれているんだな。ユノ……なんて優しい子なんだ。


俺が感動しているとユノは少し不満げな顔をしていた。


「久斗……私からも話がある」

「え? な、なんだ?」

「私の魔法について」

「あ~…映像で見てたよ。滅茶苦茶に強くてカッコよかったな。モンスターを切り裂いてた魔法とか、炎の魔法とかも綺麗だったよ」

「あ、ありがとう。嬉しい」


魔法を素直に褒めるとユノはローブで顔を隠すように照れる。

なんだこの可愛らしい生き物は……本当にこんな子を世界は虐げていたのか?滅んだほうがマシなんじゃないか?


「でも言いたいのはそっちじゃない。私を魔女にした魔法」

「特別な魔法って奴か」

「私の魔法は、他人の心の声が理解できる魔法」

「え? つまり、俺の考えていることが理解できるってことか?」

「そう」

「へぇ~……ん?」


ユノの手を見ると少しだけ震えていた。表情も強張っており、俺に怯えているような雰囲気だ。何に怯えているのかと考える。するとその原因がわかった気がした。

その特別な魔法は、自分が虐げられる原因になった魔法だ。ユノは、これを知られてしまったことでその世界で良くない扱いを受けていた。そのため、俺にそれを知られるのが怖かったんだ。

でも、ユノは俺に教えてくれた。それは、彼女が信頼してくれているからなんだと思う。俺は、そう考えると物凄く嬉しく思えた。


「そうか。ユノ、教えてくれてありがとうな。スゲェ魔法じゃねぇか!」

「え? 怖くないの? 気持ち悪く思わないの?」


ユノは不思議そうに聞いてきた。

日本にはそういう妖怪がいる話しもあるし、別に怖がるような能力でもないしな。

攻略者の中には心を読める人もいるみたいだし、それと同じようなもんだろ。


「まぁ、俺からすれば普通の能力だな」

「普通? 私が普通なの?」

「そうだな。魔法が使える普通の女の子だ。嫌われる覚悟なんて持たなくていいぞ? 俺はユノを傷つけたりしないから」

「ッ!」


ユノは驚いたように目を見開く。そして、その目には既に涙が浮かんでいた。


えッ!? 何か悪いこと言った? 取り敢えず、涙を拭いてからどうしよう…えっと……こ、こう?


女の子の涙にたじろぐ俺は、おどおどしながら背中を軽くさすった。

するとユノは、ゆっくりと両手を俺の腰に回してギュッと抱きしめてくる。


「お、おい? 大丈夫か?」

「怖かったぁ。死んじゃうって思って……でも急にここに呼ばれて……」


ユノは溢れ出したかのように言葉を吐露する。その声は震えていた。

俺はユノの言葉を聞いて、今になって気づく。

この子は、落ち着いているし強い力を持っている。でも、子供だ。

急にこんな場所に呼ばれて、ユノは心細かったはずだ。誰も信用できないのは、自分が嫌われているのが当たり前だと思っていたから。でも、ユノはその常識を破って、俺に言ってくれた。


「ありがとう。もう平気だ。ここに居て平気だからな」

「私、ここに居ていいの?」

「当たり前だ。ユノがいないと俺が困る。それに、召喚したのは俺だしな、責任感は強いんだぜ?」

「知ってる。わかるから、だから……うぅ」


今まで溜め込んで来たのだろう。静かにユノは泣き出した。

肩にいたロナも小さい手でユノの頭を撫でる。その目は我が子を見つめる母親のような優しい目をしていた。撫でていると泣きつかれたのか、ユノはいつの間にか寝てしまった。

硬い床に寝かせるのはどうかと思って、今は俺が膝枕をしている。


「硬いが、勘弁してくれな」


それにしても、ぐっすりと眠っている。もしかしたら、寝てなかったのかもな。

まぁ、追われるような立場だったようだし、安心して眠ることができない生活だったのかもしれない。


ユノの寝顔を見ているとロナが俺の肩に座り聞いてくる。


「久斗様、これから迷宮には外部から敵が入ってきます。その者たちは久斗様の心臓であるコアを破壊しようとしてくるでしょう」


外部の敵、恐らく人間の事を指しているんだろう。つまり、俺は人類と敵対関係にあるということだ。確かにそのことについても考えないといけない。俺は、どうすれば良いんだろうな。


「ユノさんもコアを守るために敵と戦うことになります」

「……そうなるのか。俺は勘違いをしていたな」


俺はユノに感謝された。それは、少しだけ嬉しかった。召喚することでユノの命を救ったと思ってしまった。だが、それは大きな勘違いだった。結局、俺は救えていない。ユノを戦わせるために召喚してしまった。結果論だがそうなってしまった。


「…ユノを戦わせたくない。ユノは強い、魔法も強力だ。だが、ユノの魔法は人を殺すためにあるんじゃない。ロナ、力を貸してくれ。俺はユノの居場所を守りたい」

「お任せください。私の役目は久斗様のサポートです。この迷宮が果てるその時まで私は久斗様のために力を尽くします」

「はは、頼りにしてるぞ」


俺はロナにそう言って、ユノが起きるのを待つのだった。

ローファンタジーものを書きたくなり、書いてみました。

少しでも多くの方に読んでもらいたいので、もし少しでも続きが気になりましたら★をポチッと推して応援して頂けると嬉しいです。


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