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第9話 魔物研究家さん、ノリで決めてしまう......



 いやはや、どうすべきか。


 魔王ダリオスは、今のところ悪人には見えない。

 ......いや、悪い人ほどそうは見えないというからまだわからないが。


 いやあ、重大な懸念点が あるんだよなぁ。


 俺が黙っていると、魔王ダリオスは話を始めた。



「悩むのも無理はない。人間の身でありながら、私――魔族の側につくことに戸惑いもあろう」



 うーん、まあそこも多少はあるが。



「ああ、ジンには私の思想について話していなかったな」



 そういえば、『私の思想に共感するものと共に歩みたい』とか言ってたな。


 思想――人類滅亡とか? だったら流石に引くけど......



「私の思想を一言で言うならば――均衡だ」



 均衡?


 とりあえずホッと胸をなでおろす。

 良かった、”破滅”とか”終焉”とかじゃなくて......



「人間と魔族は、相容れないものだ。両者が同じ旗の下に暮らす――それは理想論だ。大半の者は受け入れがたい。人間が魔族の容姿を醜悪に思うことと同様、魔族は人間の無力さを受け入れられない。寿命も違えば文化も違う。考え方も大きく異なるのだ」



 ......人種や宗教の違いによる争いは人間同士でもよくある話だ。


 それの大きい版、のようなものか。



「では、片方がもう片方を滅ぼすべきか? 私はそう思わない。人間は人間の、魔族は魔族の世界や国を作り、交わらず生きて行けばよい。望む者は交流をすればいい。そう思い、私は百五十年前に人間界と魔界を魔族の門(アビス・ゲート)で隔てた」



 随分と平和主義な魔王だが、やってることはとんでもない荒業だな。


 勝手に区切って、「ここから先は俺たち魔族のもの! 入ってくるな!」ってやったわけだから。


 というか、百五十年間ずっとその魔族の門(アビス・ゲート)とやらを使い続けているって、どんだけ魔力量あるんだ......


 ステータス見たいぞ......



「人々は魔族の門(アビス・ゲート)の先を最果ての地トップエンドと呼び、近寄らなかった。取り返しにくると思っていたが、どうやら人間同士の争いでそれどころではなかったようだ」


「かの七国大戦ですな。参加した七つの国全てが滅んだ大戦(おおいくさ)。こうして、今の三国――アルシオン王国、グラムヘイム帝国、シェンダリア共和国の3つとなったのですぞ、よおっと!」



 ――横から、朗らかな男の声が聞こえてくる。


 見ると、大人が肩車しても入れるほど大きな扉を、身体を縮めて潜る巨人の姿があった。


 でえっっけぇ......マンション三階くらいはあるんじゃないか。


 白い口髭を蓄えた巨人は、ロムラスの横に跪く。



「オーギュースト、戻ったか」



 オーギューストと呼ばれた巨人は、ダリオスに頭を下げた。



「ダリオス様、ただいま戻りました。早速報告を――の前に......こちらの男性はどなたですかな?」



 オーギューストは俺に目をやる。



「ちょうどいい。七魘之議(しちうみのぎ)に紹介する手間が省ける。彼はジン・サイア―。魔物を手懐ける能力を持った人間だ」


「な、なんと! よもやそのような人間が現われようとは......。挨拶が遅れましたな。私の名はオーギュースト。ご覧の通り巨人族ですぞ。周りからはオー爺、なんてよばれておりますな。以後、お見知りおきを」


「ど、どうも!! ジン・サイア―です!!」



 あまりに大きいものだから、聞こえているか心配で大声であいさつする。



「はははっ、そんなに声を張り上げなくても大丈夫ですぞ。私の耳は地獄耳ですからな」



 ......まあそれだけ大きな耳なら小さな音も拾える、のか?


 いや、冗談なのか? 魔族の話はどこまでジョークか分からん......



「どうやら邪魔をしてしまったようですな。グリフォンについての報告は後にしますかな?」



 ぐ、グリフォン!?!?


 これまたとんでもない魔物の名前が.......


 少し高鳴る胸をそっと抑える。



「そうだな。少し待っていてくれ、オーギュースト。話を続けよう。そんな魔族の門(アビス・ゲート)だが、少々問題が生じていてな......」


「少々どころか、大問題! 魔王様の膨大な魔力が尽きかけてて、魔族の門(アビス・ゲート)を維持できなくなりそうなんだよね~」


「尽きかける、というよりも、回復が追いつかない、という表現が正しいですかな。ダリオス様は魔族の門(アビス・ゲート)以外にも、魔界の環境維持など様々なところに魔力を使っておられるのです......」



 オーギューストは無念の表情を浮かべている。


 力及ばず魔王の助けにならない自分が不甲斐ないのだろうか。


 ......確かに、話を聞いている限り、魔王ダリオスの力が凄すぎて、「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」状態だ。


 俺が働いても力になれるだろうか、なんて思ってしまう。


 なんてったってステータスALL1なわけだからな!



「ああ。このままでは、魔族の門(アビス・ゲート)を解除せざるを得ない。となると......」


「ヒマな人間たちがちょっかいかけてくるだろうね~。魔界は魔王様の魔力のおかげで人間界にはない資源や魔物がいるし。冒険者とかいうやつらががわんさか押し寄せてくるんじゃないかな~」



 確かに、”新マップ:魔界”とか解放されたら、喜んでいくわな。


 しかもロムラスの言う通りならレアアイテムや魔物がいるわけだし。


 ......俺がもしめっちゃ強い冒険者なら行くわ絶対。



「その場合、魔力の尽きた私では相手取ることが出来ぬやもしれぬ」



 いや、ロムラスがいれば大丈夫だろ......


 随分と心配性な魔王だな......



「それに備えて、ダリオス様は兵力増強を目指し、五つの目標と、それに伴う五つの難題を設定したのですぞ」



 なんだそれ、なんか会社員時代を思い出して頭が痛くなってきたぞ。


 ダリオス、ロムラス、オーギューストに五つの目標と五つの難題の説明を受ける。


 要約すると......



 一.ゴーレム召喚による兵力増強

   【難題Ⅰ】召喚に伴う消費魔力の捻出


 二.アンデッドによる兵力増強

   【難題Ⅱ】百年間アンデッドが出現していない理由の解明


 三.魔人化による兵力増強

   【難題Ⅲ】魔人化対象となる有望な人間の確保


 四.装備品強化による兵力増強

   【難題Ⅳ】失われし鍛冶道具の修復


 五.魔物による兵力増強

   【難題Ⅴ】魔物の支配方法の確立


 

 このうちの【難題Ⅴ】は、確かに俺の能力が活躍できそうだな......



「どうだろう。私の思想に共感してくれるだろうか」



 ダリオスは俺の目をジッと見つめる。


 やっぱ上に立つ人って目力エグいな、惹きこまれそうだ。



「人間界じゃ、その能力は活かせないと思うけどな~」



 それはそう。



「その素晴らしき能力を隠して生きていく道もありますが......もったいないと思いますな」



 オーギューストが付け加える。



「ただ、私も本気だ。一度入るからには、簡単には抜けられない。分かるな?」



 八〇三かな?


 まあ、待遇も良さそうだし、別に人間を滅ぼすつもりないならいいんだが......



 うーん、さっきから渋っているのは、


 俺の重大な懸念点――魔王軍に参加してTポイントが貯まるのかどうか、だ。


 ......天界って、魔王と勇者なら絶対勇者側の存在だよな?


 魔王軍に加担して問題ないんだろうか......



(あ、問題ないですよ)


「え、エマ!?!?」



 ......あ。



 頭の中に響いたエマの声に思わず叫んでしまった......


 ってか聞いとるんかい。



「......」



 ダリオスは驚き、固まってしまった。


 や、やばい......



「な、なります! 是非御社で働かせてください!!」



 ――勢いで言ってしまった。



 こうして、俺はジン・サイア―として、魔王軍で働くこととなってしまった......




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