第8話 魔物研究家さん、魔王軍にヘッドハンティングされてしまう......
「そ、そんなことよりも! さっきから”五つの課題”とか”魔人化”とか、いったい何なんですか!?」
「......まさかとは思うが、何も言わずに連れてきたのか?」
「そのまさかでっす☆」
はい、そのまさかなんです......
大男は呆れたように首を振った。
「......私は、私の思想に共感するものと共に歩みたいと思っている。如何に素晴らしい能力を持っていたとしても、だ。分かるな?」
「分かってますって~! これから説明するところですよ!......って、あれ、そういえば私って自己紹介もまだだっけ?」
俺は無言で頷く。
「あ、あれ」
少女は少し焦った様子で、チラリと大男の様子を伺った。
大男は大きくため息をつくと、少女を睨みつける。
「褒美の話は無しだな」
「ちょ、ちょっと待った! すぐ、すぐ自己紹介するから~!」
狼狽える少女に、大男は再び小さくため息をつくと、「では自己紹介と経緯の説明を頼む。以降の話は私がしよう」と続けた。
......デキる上司すぎる。
「は、はい~! ちゃ、ちゃんとやります!!」
少女は慌てて俺の方を向き直ると、一呼吸おいて、こほんと咳払いを一つした。
「では改めて。私は、ロムラス・エシュタルト。魔王軍第二師団の団長にして、最高幹部”八魔将”の一角を占める者。以後、お見知りおきを」
......??
魔王軍? 八魔将?
ちょっと何言ってるか分からないデスネ。
「私は魔王ダリオスの”魔獣種の王マーナガルムの捕獲”という命を受けていました。魔王軍の兵力増強における”五つの課題”の1つ――魔物の支配の研究材料とするためです」
......ん?
マオウ、だりおす??
魔王って、あの、勇者の対となる、魔族の王、のこと?
え、じゃあもしかしてこのデカいおっさん......
俺の混乱をよそに、ロムラスと名乗る少女は大男に目配せをした。
「そして、私がダリオス・アビサル・アビス・ドゥ・ラ・テネブル。魔界の創造主――百五十年前に人間界と魔界を隔てし、原初の魔王だ」
――空気が引き締まったのを感じる。
魔王ダリオスが何かオーラを出した、というわけではない。
俺が”目の前にいる男が魔王だ”と認識したことで、畏怖や恐怖と言った感情が生まれたのだ。
きっと、今≪能力確認≫を行えば、ステータスに怯え、とか書かれているのではなかろうか。
......おいおい、宗教なんかよりよっぽどヤバい奴らに目を点けられたな、オレ。
「私が魔王の座に就く遥か昔から、魔物を服従させようという営みは幾度となく行われていた。しかし、ただの一度も成功したことは無い。何故だか分かるか?」
ちょっとちょっと、話を続けられても入ってこんわ!!
落ち着け、一旦落ち着こう。
えーっと、何故か、って......
確かに、魔物も動物みたいなものだし、恐怖という感情で支配すれば従わせることができそうなもんだ。
「き、恐怖による支配は試みたのですか?」
「素晴らしい、良い質問だ。まず思いつくのは、恐怖による支配。魔物が恐怖を感じることは明らかだ。であるにも関わらず、彼らが私達に従うことは無かった。恐怖で逃げることはあれど、従うことは無かった。そして同様に、餌付けされ、懐柔されることはなかった。まるで、創造神によってそう設定されているようだった」
......なるほど。
エマの言葉を思い出す。
『魔法という概念が存在するゲームのような異世界』
......きっとこの世界は『魔物は仲間にならない』設定なのだろう。
「だが、もし、もしだ。魔物を支配する者が現れたとすれば。支配する方法が確立されれば。その者は無尽蔵の力を手に入れたも同然だ。魔物は尽きることのない自然現象だ。兵が辺りからいくらでも生えてくるに等しいからだ。無限の兵力を手にしたことになるのだ」
うーん、そんな簡単ではないぞ?
と、現場は思いますが。
まず、エサがいる。朝昼晩、結構な量だ。
そして、空間。魔獣なんて走り回るわけだし、たくさん仲間にするなら結構なスペースが必要だ。
さらには、世話係。風呂に入らせたり、遊んでやったり。
もし戦わせるなら、訓練も必要かもしれない。
――なんてことはもちろん魔王様の前で口にはしません。
「そんななか、ジン。君が現れた。――魔獣種の王を手懐けてな」
......そういやマナはどうしたんだろう。
うわ。ふせして上目遣いで様子を伺ってやがる!
のんきなもんだ......
「と、いうわけで。ジン・サイア―」
魔王ダリオスは一呼吸置くと、両手を広げ、こう続けた。
「どうだ? 私の仲間にならないか? もちろん、それ相応の待遇は約束させてもらおう」
こ、これは......!
まさか......!
魔王に勧誘されて、『はい』を押したらバッドエンドになるやつでは!?




