第7話 魔物研究家さん、偽名を名乗ってしまう......
「は~い、到着ですよ~」
少女が、俺の腕を離す。
「――っっ!?」
気付くと、見知らぬ部屋に立っていた。
瞬間移動か何かで連れ去られたらしい。急展開すぎて頭がついていけないぞ......
魔物観察に出掛けたら、ツノマキガイを見つけて、マーナガルムを見つけて、化物みたいな少女に誘拐されて......
で、どこなんだ、ここは......
少しでも情報を得ようと周囲を見回し、思わず息を吞む。
なんて見事な部屋、まるでモデルルーム.....いや、どちらかというとコンセプトルームに近いか?
石造りと思われる広大な空間の至る所に、神秘的な紋様が描かれた異様な空間。
足元には、磨き上げられた大理石の床に、巨大な魔法陣が描かれている。
何より目を引くのは、金細工の施された見事な調度品の数々だ。
ほんとドコなんだ、随分と豪華な部屋だが......
「戻ったか、ロムラス」
おわっ!?
突如、背後から低い男の声。
驚いて振り向くと、そこには二メートルはある大男が、これまた驚くほど見事な椅子に座っていた。
「戻りました~。セツナとオーギューストはまだ外ですか?」
大男は鷹揚にうなずくと、俺の背後に目をやった。
「その魔物は――魔獣種の王マーナガルムか」
見ると、マナが俺の後ろで怯えている。
ちょ、ちょっとちょっと。魔獣種の王が縮こまっちゃってるよ。
さっきは謎の少女にビビってたと思えば、次はこの大男か......
一体なんなんだ、コイツらは。
「そ~です! ご注文のマーナガルムですよ~!」
ご注文?
ということは、この少女の狙いはマナだったのか?
「素晴らしい。流石の速さだな」
「褒めるなら、言葉じゃなく形に残るものでおねがいしま~す☆」
そう言って、少女が目の横でピースを作る。
この子、動作がいちいちあざといな......
そしてそれはいつものことのようで、大男はため息まじりに答えた。
「分かっている。それにしても、どういうことだ? まるで手懐けられたかのように大人しいが」
「そ~なんですよ!! な~んと驚くべきことに、魔物を懐柔する人間を見つけまして......つい誘拐してきちゃいました☆」
やっぱり誘拐されたのね、オレ。
「何と......!! ま、まさかこの人間が......!?」
大男が俺に目を向ける。
「そ~です! このヒトこそ、まさに求めていた人材なんですよ~!」
少女が俺の背中をバンバン叩く。痛い痛い。
「素晴らしい......!!」
大男は立ち上がり、早足に歩み寄ってくる。
「まさに我らが求めていたモノ......!! 五つの難題を解決する者が、まさか人間から現われようとは......!!」
大男は興奮した面持ちで俺の前に立った。
で、デカいな......
「人間よ、名前を聞かせてくれ......!!」
え、名前?
えーっと、俺は元々、斎藤拓海と名付けられ、そして死んだ。
転生先のこの世界でも、名前を考えるのが面倒で、タクミ・サイトウと名乗っている。
「は、はあ。名前は、サイ――」
――途中で、思った。
誘拐された相手に、本名を名乗っていいのか......?
なんか明らかにヤバい感じの部屋だし、もしかしたら何かの宗教の勧誘かもしれない。
やっぱり、本名を名乗るべきではないのでは?
で、でも、もう苗字はほぼ言いかけてしまったぞ......
せめて名前だけは......
「――ア、ジン......ジン・サイア―です」
ジン・サイア―......
咄嗟に超国民的なアレが頭をよぎり、この名前になってしまった。
こ、これはセーフか......?
「ジン・サイア―......良い名だ! 素晴らしいぞ!」
「ほんとうに!?」
し、しまった......ついツッコんでしまった。
「? ああ、良い名だ。凄まじい戦闘力が伝わってくるぞ」
「魔人化させて、超人サイアーになってもらいましょ~☆」
「わざとやってる!?」
い、いや、落ち着け、俺......
ここは異世界なんだ、彼らが知っているはずが無い。
それに、ジンなんてべつに、ありふれた名前だし?
サイアーは......まあ、言い逃れできないわ。
......って、今はどうでもいい!
さっきこの少女、俺を魔人化させるとかなんとか言ってたな!?




