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第6話 魔物研究家さん、誘拐されてしまう......


「やべぇ、魔獣種の王――マーナガルム捕まえちまったよ......」



 相変わらずツノマキガイにがっつくマーナガルムの頭を撫でながら、俺はため息をついた。


 どうすんの、これ......


 「捨て猫なんて拾ってきて! うちに飼う余裕はないんだから返して来なさい!」と怒る親の顔がふと思い浮かんだ。


 いや、捨て猫どころか魔獣種の王なんだけどな......



「い、いったんステータス見てみるか?」



 とりあえずステータスを覗いてみると......



 > マーナガルム Lv. 37

 >【 H P 】 850

 >【 M P 】 60

 >【 ATK 】 450

 >【 DEF 】 310

 >【 SPD 】 350

 >【 魔 法 】 

 >【 技 術 】 瞬撃 ぶんまわし なぎはらい

 >【 特 殊 】 



 ......うん、化物だ。


 レベルが37......


 HPが850って、ペエタ何体分だよ......


 唖然としながら、ステータスを閉じる。



「こんな化物、どうすればいいんだ......」



 まず家に置いとけないぞ......


 そもそも物理的に入らないし、街の人に見られた日には討伐隊を組まれるかも分からん......


 それに、エサも用意できないな。


 この巨体だ、エサも相当量必要だろう。


 ......いっそのこと、こいつと冒険者でもやるとか?


 マーナガルムが戦ってくれるなら、簡単に討伐の依頼をこなせそうだが。



「いやいや、エーテルガイド協会が許してくれるとは思えん......」



 エーテルガイド協会とは、いわゆる冒険者ギルドのことだ。


 冒険者として依頼を受けるには、そこに冒険者として登録する必要がある。


 ......マーナガルムを登録してくれるとは思えんな。



「っていうか、冒険者の死体はどうすっか......」



 このままだと、俺が魔物を使って人を殺したみたいになってしまう。


 ......マーナガルムに穴を掘ってもらって埋めるか?


 いやいや、そんなことしたらいよいよ人殺しの証拠隠滅では.......



「やっほ~、人間のおにいさん」


「ひぃっ!?」



 後ろを振り向くと、そこには少女が頭の後ろで手を組みながら立っていた。


 い、いつのまに......



「ど、どちらさまでしょうか......」



 見た顔ではないな。


 というかなんという美少女。


 某アイドルグループ――いや、そんなレベルではないな。


 街の人だろうか?


 いや、街の人なら町中のウワサになるほどの美少女だし、俺でも知ってるか。


 ほんと、誰なんだ......?

 


「わたし? わたしはどこにでもいる可憐な美少女ですよ~っと☆」



 水色のショートカットをわざとらしく棚引かせ、少女はそう答えた。



「は、はあ......」



 いや、実際とんでもなく顔が整ってはいる。


 正直ドキドキしてしまうほどだ。


 だが、そんなことを聞きたいわけではなく、例えば「たまたま通りがかった冒険者です」とか「薬の材料を取りに来た街の薬師です」といった答えを期待していたのだが......


 俺が黙っていると、少女はやれやれといった表情で続けた。



「ノリ悪いなぁ~。まあいいけど。それより、後ろのその子はおともだち?」


 

 少女が後ろのマーナガルムに目を向ける。



「えっ......」



 振り向いて驚いた。


 マーナガルムが俺の後ろに隠れるように縮こまっている。 


 まるで、この少女に怯えているようだった。


 いやいや、レベル37の化物がステータスALL1の後ろに隠れちゃダメでしょ。


 それにしてもこの子は、見た目と違って随分と臆病、人見知りなんだな。



「あー、まあ。最近知り合って仲良くなった......みたいな」



 数分ほど前に。



「へえ~、そうなんだ......」



 何かを企んでいるかのような、俺を見定めているような目つきでこっちを見てくる。



「......な、なにか?」


「いや~、おともだち、ずいぶんと派手に暴れちゃったみたいだけど」



 少女は周囲を見回す。


 俺も続いて周囲を――



 って、そうだった!!


 マーナガルムが血祭りに上げた冒険者3人の死体をどうしようか、って悩んでいたところだった......


 俺が少女に視線を戻すと、少女は意地の悪い笑顔を見せた。



「あ、いや、これは......」



 やばい、何も言い訳が思いつかないぞ......


 というかなんでこの子はこの惨状を見てこんな態度をとれるんだ......



「だいじょーぶだいじょーぶ、別に誰かに言ったりしないから」



 少女はニヤニヤとこちらの顔を覗き込んでくる。



「その代わり、ちょ~っと質問にこたえてほし~んだけど、いいよね?」



 ......ほぼ脅迫だ、これ。


 い、一体何を企んでいるんだこの子は......



「ど、どうぞ......」


「ありがと~☆ じゃあまずは......お兄さんは、人間ですか?」



 おおっと?


 予想外すぎる質問がきて面を喰らってしまう。


 まあ、確かに魔獣種の王と一緒にいるなんて、本当に人間か疑いたくなる......かも。


 えーっと、俺って人間ってことでいいん......だよな?


 異世界転生者は人間じゃねえ! とかないよね。


 ≪能力確認≫で見たときに人間ってあったしな。



「に、人間です」



 俺は正直に答える。


 ここで嘘つくメリットもないし。



「ふ~ん、だよね。......じゃあ、次の質問だけど......おにいさんの周りでは魔物を従属させてる人、他に見たことある? パッと見た感じ、『恐怖』以外の感情で魔物を従えてる様子だけど、私が知る限りそんなことができる人間は聞いたことが無いんだよね~......おにいさんも聞いたことあるんじゃない? 魔物は決して懐かない、って」



 ”魔物は決して懐かない”――俺もこの世界に来て何度も聞いた。


 『魔物の調教は幾度も試みられたが、全て失敗に終わった』――俺の持つ魔物図鑑の冒頭にも書かれている通り、この世界の魔物はどうやっても人間に懐かないみたいだ。


 だからこそ、魔物と共生する俺は忌避されたんだ。



「いや、ないですね......」

 

「ですよね~。......それでは、最後の質問です! ――人間界に未練はありますか?」



 ......えっ、俺殺されるの!?



「あっ、いや命を奪おうってわけじゃないから安心してっ」



 じゃあどういう意図の質問なんだ......


 まあ意図は置いといて、素直に答えるとすると......


 今朝の出来事が脳裏をよぎる。


 『どんな魔物とでも仲良くなれる能力』――魔物が決して懐かないこの世界において、この能力はあまりにも異端すぎた。


 それを踏まえて、俺の答えは――



「ない、とは言い切れない、かな」



 街から追い出され、訪れる度に後ろ指差される始末。


 とはいえ、転生したての俺を暖かく迎えてくれた人たちもいる。


 やっぱり人は人と触れ合わないとおかしくなってしまう、と思う。


 未練がないとは言い切れない。


 俺がそう答えると、少女はニッコリと笑った。



「なるほど、未練はないってことね~☆」


「いやそうはいってないけど!?」



 思わずツッコんでしまった......


 少女は頭の後ろで手を組んで笑っている。



「でも、ある! って言わないのはさ、やっぱり人間界にイヤ~なイメージがあるってことでしょ? おにいさんの『その能力』、人間界じゃあんまり馴染まないだろうし」


「まあ、それは......」



 うむ、何も言い返せないぞ。



「まあとりあえず分かったよ~☆ じゃあ、最後に追加の質問です!―――この人間の死体、消しちゃうけどいいよね?」


「えっ」



 俺が返事をする前に、少女は地面に右手をかざす。


 同時に、少女の頭部から二本の角が姿を現した。


 

 ――刹那、地面が大きくえぐり取られる。


 瞬く間に、3、4メートルの穴が完成した。



「な、な......」


「ん、魔法、みたことない?」



 いやあるわ!


 『魔法という概念が存在するゲームのような異世界』であるこの世界において、魔法は人々の生活に密接に関わっているのだ。


 けどこんな魔法、これほどの魔法は初めて見た......


 まるでマジックだわ。


 いや、マジックみたいにタネがあるわけじゃないから、こっちの方が凄いんだが。


 というか、今ツノ生えてたよな?


 話の流れから何となく察するところはあったが、やはり人間じゃないんだろうか、この子......



「じゃあ、死体をここに集めてくれる? マナちゃんも手伝って~」



 マナちゃんって......マーナガルムのことか。


 見ると、マーナガルム――マナは早速近くにあった冒険者の死体を口にくわえ、穴に放り込む。


 おいおい、俺を差し置いて他の人の言うことを聞くとは。


 とは思いつつ、俺も素直に少女の言うことに従う。


 俺はリーダー格の男の死体を担ぐと、穴の中に放り込んだ。


 ふう、とマナの方を見ると、マナが残りの一人を穴に放り込むところだった。


 ......マナ、いい名前だしもらっちゃおう。



「これで全部だよね。それじゃあ、燃やしちゃうね~」



 俺とマナを下がらせ、少女は手を穴に向けると、また角がぴょこっと生えてくる。



「じゃあ、点火~☆」


「うおぉっ!?」


 な、なんだ!?

 凄まじい熱気に思わず腕で顔を隠す。


 両手の隙間から目を細めて状況を確認すると、少女が手のひらからとんでもない火力の炎を噴き出していた。


 こ、この世界は火葬なのか。


 なんてのんきに考えている間に、火の気が止む。



「うんうん、これでよしっと」



 少女はパンパンッと手を叩く。


 おそるおそる穴を覗き込んでみると。


 うお、死体が跡形もないぞ......


 消し炭を呆然と眺めていると、少女に後ろに下がるように促される。


 少女は「仕上げに~」なんて言いながら、穴に再度手を向けると、さっきまであったはずの穴がキレイに埋まった。


 な、なんなんだこいつ。


 魔獣種の王なんかよりよっぽど化物じゃないか......!


 

 少女は一仕事終わったと言わんばかりに大きく息を吐きながら額をぬぐうと、こっちに向き直った。



「それじゃ、行こっか」


「えっ? どこに?」


「魔界に☆」


「えっ!? いででっ!!」



 少女は俺の手を掴むと、ものすごい力で引っ張る。


 この華奢な身体のどこにそんな力が......



「マナちゃんも行くよ~!」



 少女がマナに触れた瞬間、視界が暗転する。



 ―――こうして、俺は魔界に連れ去られたのであった。


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