第4話 魔物研究家さん、激レアな魔物を発見してしまう......
「よし、行ってくる。留守番頼んだぞ、チャミ! ペエタ!」
「ガウゥッ!」
二匹の頭をなで、おやつを置いておく。
ちゃんと三時になったら食べるんだぞー。
「これと、これと――よし、大丈夫そう」
紙とペン、そしてなけなしの金で買った魔物図鑑を持ったことを確認すると、俺は森に繰り出した。
目的はもちろん、魔物観察だ。
別に≪窺知従魔≫で魔物を仲間にしようというわけではなく、ただ純粋に野生の魔物を観察する目的の外出。
まあ、ただの趣味だな。
魔物とか図鑑とかが元々大好物で、やったことのないゲームの魔物図鑑とかも買ってたなぁ。
――なんてことを考えながら森を歩くのは危ない。
しっかりと周囲を見回し、魔物がいないかを確認して進んでいく。
この森にはスライム系のスライムや、魔獣系のガルムといった比較的ポピュラーな魔物が生息している。
鳥獣系のカムビや、スライム系のちょっと強いやつであるキロスライムとかも見たことある。
だがこの魔物図鑑によると、どうやらグラニルという馬系の魔物も生息しているらしい。
もともと馬が好きだったので、ぜひ一目見てみたい。できれば触ってみたいぞ。
ごはん代とかを考えると、仲間にはできないが。
「......おっと」
何かいる。
木々の影を音もなく移動する巨大な影。
2メートルはあるだろうか。
......こんな大きな魔物、見たことないぞ。
高鳴る胸を抑え、忍び足で近づいていく。
「こ、これは......でっっけえぇー......」
螺旋状の巨大な双角が背中から突き出た、巨大な貝のような魔物。
――覚えがあるぞ。
急いで魔物図鑑をめくる。
すると、とある魔物と特徴が合致した。
......これだ。
「ツノマキガイか......」
魔殻類系の魔物だ。
「まじか、この森にもこんなにでかい魔物いるのか」
しかもこのツノマキガイ、角が紫がかっているぞ?
俺は魔物図鑑に目を落とす。
......このツノマキガイ、老齢の固体なんだな。
角の色で年齢が分かるらしい。年を取るにつれて、青、緑、紫の順に色が変わっていくそうだ。
『ツノマキガイの角は装飾品や武器に利用され、非常に高い価値がある。実際、老齢のツノマキガイの角一本で家が建った例が存在する。』
そんな一文に目が止まる。
......やばい、この角一本で家が建つらしいぞ。
「い、いやいや。金に目がくらんじゃダメだろ」
ツノマキガイは、絶滅の危機に瀕しているらしい。
そもそも肉が美味いから天敵も多いし、角目当ての人間に乱獲されたからだそうだ。
今では数年に一回目撃例がある程度。
そんななか、人里近くでひっそりとここまで長生きしてきたわけだし、そっとしておいてやろう。
......そもそもステータスALL1の俺に倒せるわけないがな、はっはっは。
「ちょっと生態を観察させてな」
俺は逃げられないように距離を保ったまま、ツノマキガイの一挙手一投足を観察する。
移動は――身体を引きずるようにゆっくりと。
頭部には目のようなものが無い代わりに、大きな触覚が二本生えている。
ずっとピクピク動いてることからも、アレで周囲を把握しているんだろう。
俺には気付いているのか分からないが、少なくとも気に留めていなさそうだ。
俺は紙とペンを取り出すと、急いでスケッチを開始する。
絵は上手くないが、スマホとかカメラがなくて写真が撮れないので仕方がない。
うーん、こんなことなら『絵が上手くなる能力』もエマにもらっとくんだったな.......
「おいおい、ツノマキガイじゃねえか!!」
俺がコソコソとスケッチをしていると、森の奥から人間の声がする。
俺が慌てて身を隠すと、奥から冒険者のような男たちが姿を現した。
「やっべぇ、でかいぞ......」
警戒した様子で近づく3人組。
恐らく冒険者パーティだな。
彼らがそろって首からぶら下げている木製の札は『木札』と呼ばれ、最低ランクの冒険者であることを示している。
「な、なあ。ツノマキガイって強いのか?」
「し、知らんが......確か角が高いんだったよな」
3人のうち2人はしり込みしているようだが、オールバックの男はギラギラとした様子だ。
こいつがリーダーだろうか。
「ああ、一本で金貨数枚の価値はある。しかも、確かツノマキガイは雑魚いはずだぜ......!」
その通り。ツノマキガイは弱い。
一つ訂正するとすれば、紫の角は金貨じゃなく大金貨――つまり一千万ルーナの価値がある代物だ。
......こいつら、やる気か。
「お前ら、囲め......」
リーダーのような男が言うと、三人はツノマキガイを取り囲むように移動を開始する。
ツノマキガイは特に気にしていない様子だ。
もしかしたら、人間を敵と認識していないのかもしれない。
俺のことも気にしている様子がなかったし。
「......可哀そうだが、しゃーないな」
この世界は弱肉強食――ツノマキガイが不幸にも冒険者に出会って倒されたのだとしたら、それも運命。
そもそもステータスALL1の俺には助ける力もないしな。
南無阿弥陀仏。
せめて、ツノマキガイの戦いぶりでも見させてもらおう。
「よし......いくぞぉ!!」
リーダーのような男が、斧を振り上げツノマキガイに飛び掛かる。
『ザシュッ』という音とともに、斧がツノマキガイの頭部に突き刺さり、体液がまき散った。
やっと敵だと認識したツノマキガイは、翻って逃げ出すが、後ろにも剣を持った男が。
背中は殻のおかげで頑丈だが、前からの攻撃にはめっぽう弱いようだ。
既に包囲されていたツノマキガイは袋叩きにあい、そのままあっけなく倒されてしまった。
「っっしゃあぁ!!」
勝利の雄叫びを上げる男たち。
「俺たち、これで億万長者だぜ!」
「あ、ああ!」
「おい! ちゃんと山分けだよな?」
「は? リーダーの俺が五、残りをお前たちで山分けだろ」
「ふざけんな!」「な、何言ってんだ!」
お、おいおい、揉めだしたぞ......
ここは素直に三等分しとけって、仲間は金じゃ買えないぞ......
それに、この図鑑によるとツノマキガイ自体は弱いが、ツノマキガイ狩りには大きなリスクもあるらしいぞ。
『ツノマキガイは美味いらしく、天敵が多い』
――ツノマキガイの体液の臭いを嗅ぎつけて、『天敵』が来るかもしれないのだ。




