第10話 魔物研究家さん、いきなり師団長になってしまう......
「と、いうわけで、だ」
俺は魔王城の一室、所謂応接間にいた。
なにやら、魔王ダリオスに色々説明を受けたり、今後について話し合ったりするらしい。
要するに、入社説明会かつ上長面談みたいなものだ。
......うわっ、そう思ったら気が重くなってきた。
面談って、部下のためにやってくれてるのはわかるんだが、ちょっと苦手なんだよな。
一旦、机の上に用意されたお茶を飲んで心を落ち着ける。
でもダリオスさんもこのために色々都合をつけてくれたみたいだし、まあ素直に感謝しとこう。
「まずは、ようこそ魔王軍へ。一同歓迎する」
「あ、ありがとうございます......」
「まあ、いきなりのことで戸惑いもあるだろうが、ゆっくり慣れて行けばよい。とりあえず、最初に魔王軍の簡単な構成について説明しておこう」
というわけで、魔王様から直々に会社の体制の説明を受けた。
話をまとめると、魔王ダリオスをトップとして、八魔将、七魘之議と役員のような人たちが続くらしい。
さらにその下に、第一から第八師団、そして魔道師団や占星師団といった師団が続くのだとか。
けっこーややこしいが、まあ徐々に覚えて行こう。新人だし。
とりあえず、新人ということでどっかの師団の下につくんだろうな。
あのロムラスって子、ちょっとテキト~なところもありそうだけどイヤミな感じなかったし、あの子の下とかアリだよな。
それに可愛かったし。やっぱかわいい子と働くとモチベーション上がるのが正直なところだな、うん。
「ジンにはずっと空いていた役職――第八師団長をお願いしたい」
ぶふぉっ!!!
「うぉ、どうしたのだ......ルーブル、拭く物を」
「はい」
控えていた付き人っぽい魔族がタオルを持ってきてくれる。
い、いやいや、いきなり重役すぎでしょ!?!?
中途採用でもいきなりそんな役職与えられることないよ!?
「ず、随分と重役ですが......」
「言ったではないか、相応の待遇を与える、と。それに、八魔将の空席も、そろそろ埋めないといけなかったからな」
そ、そうか、第八師団長ということは、俺もロムラスと同じで八魔将の一角に......
い、いやいや流石に荷が重すぎるぞ。
あの化物みたいなロムラスと同じとか......
「そ、それにしてもいきなりすぎでは......」
「どうした、第八師団では不満か?」
「い、いえいえ!!」
だ、だめだ......話がかみ合わない......
これ以上抗議しても無駄だ......
え、なに配属されてすぐ役員みたいな仕事させられるの......
絶対、八魔将の座を狙っていた魔族もいるだろうし、それにいきなり来たステータスALL1の人間の言うことなんか聞くだろうか......
胃が痛くなってきたんだが。
「では、次にジンの第八師団についてだが......現在団員はゼロだ。長い間師団長がいなかったので、別の師団に振り分けたところでな」
「な、なるほど!」
つまり、部下いないってことか!
ならめっちゃやりやすいぞ。
やったぜ。
「すまないな。だが、付き人が1人つく。ルーブル」
「はい」
先ほどタオルを持ってきてくれた少女が一歩前に出る。
「今日からジン様の身の回りの御世話をさせていただきます、ルーブルと申します。よろしくお願いいたします」
金色の髪にヘッドホンという、この世界では見たことない感じのファッションの子だ。
......よく見るとキツネのような耳と尻尾が生えてる。
やっぱり魔族なんだな。
緑の大きな目でジッと見つめられ、つい目をそらしてしまう。
魔族って、みんな顔整いすぎてないか......
「よ、よろしく......」
「ルーブルの付けている耳当てのようなものは、特製の魔術具だ。起動させると魔族に特有な耳や尻尾を認知不可にする効果がある。人間界に行く機会が多くなるであろうジンに適当だと思ってな」
なるほど、確かに耳や尻尾が見えなければ、人間界でもなじめるに違いない。
ただ、容姿端麗すぎて目立つだろうな......
......ん?
人間界に行く機会の多い?
「人間界、ですか?」
あれ、てっきり魔界で仕事する者だと思っていたのだが。
人間界に未練はありますか?とかロムラスにも聞かれたし。
いきなり出向......ですか?
「ああ、最後に説明するつもりだったのだが、先に話しておこう。ジンには、2つの命を与えようと思っている。1つ目は、ジンに与えられた才――『魔物を従える能力』を用いて、魔王軍拡大の一端を担ってもらう。2つ目は、エーテルガイド協会の冒険者として、有望な人間を把握し、可能ならばこちらに引き込んでもらう」
......何故、俺が冒険者になる必要があるんだ?
ステータスALL1なんだから、不適にもほどがある気がするが。
1つ目は、確かに俺でなければ成しえないと思うし、異論はない。
「1つ、いいですか」
「ああ、何でも聞いてくれ」
「どうして俺が2つ目――冒険者に? 戦闘面で言えばさらに適任者がいると思いますが......」
明らかにロムラスの方が強いだろう。
それに八魔将がみんなロムラスと同程度の強さなのだとしたら、その誰かに頼めばいいのでは。
「理由はいくつかある。まず、人間であるジンの方が人間社会に溶け込めるだろう。それに、ジンの魔物を従える能力は、魔物との戦闘がメインである冒険者で活かせる。また、魔族は戦闘時に人間にはない部位――角や尾を出してしまうからな。そして何より......八魔将は変わり者が多くて人間界ではやっていけないのだ」
うん、最後が本音だろうな。
ロムラス見てたら納得できるわ......
苦い顔をしながら、ダリオスは話を進める。
「というわけで、この2つの目的を達成するための援助は惜しまない。まずは、この金でこちらでの生活の基盤を整えるがいい」
そう言うと、ダリオスは何かがパンパンに詰まった袋を机の上に置いた。
「三百万ウェンツ――人間界の通貨で言うと、一千万ルーナだ」
「い、いっせんまん......」
き、気前良すぎるだろ......
家が建つと言われているツノマキガイの紫角が一千万ルーナなわけだぞ。
入社祝いで家建てられるって、どんな企業だよ......
「部屋は魔王城の一室を自由に使っていい。気に入らんなら城下町の部屋を紹介させよう」
しかも寮完備って。
「あ、あの~、寮費はいくらくらいですかね......」
「寮費? そんなものはない」
家賃タダ!?!?
俺が前勤めていた会社なんて家賃補助出なかったぞ......
「あと、食事は魔王城に食堂がある。自由に使ってよい」
まさかの社員食堂まで。
「もちろん、食堂も使用料はない」
食費もタダ!?!?
「一生ここで働かせてください!!!」
こうして、俺は魔王軍第八師団長として2つの命を受けたのだった。




