表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爆裂‼三国伝  作者: 縦河 影曇
7/27

7.天馬の拳

 その男は胸の前で手を組み、軽くお辞儀(じぎ)をしました。

白髪(はくはつ)白髭(しろひげ)と、その見た目からして、かなりの高齢(こうれい)だと

思われます。


 老人は(りゅう)()が引いている「(てき)」を見て言いました。


「なかなかの駿(しゅん)()をお持ちのようですな」


(もと)の持ち主からは駄馬(だば)だと聞いていますが」


 劉備はこの男が明らかに自分より()(うえ)そうなので、

一応(いちおう)(けい)()で答えます。


「駄馬だなんてとんでもない。

この子はおそらく西域(さいいき)(てん)()血統(けっとう)じゃよ」


 西域とは、漢帝国の西側にある外国の事で、

そこに生息(せいそく)する(すぐ)れた馬を「西域天馬」と呼びました。


「だからあの時、幻想(げんそう)のような走りをしたわけだ、です」


 劉備は老人に(せん)()(ぞく)との勝負で的が見せた

(きょう)()(てき)な走りの事を話しました。


「その(わざ)は『天馬幻想』の動きではないか。」


 老人は、とてもおどろきました。


「それにしても、鮮卑族がそんな所まで来ておるのか」


 老人が少し思いを(めぐ)らせます。


 鮮卑族と言えば、劉備は「(はす)姫君(ひめぎみ)」の事を

思い出しました。


「蓮の姫君、かわいかったなぁ」


 耿雍(こうよう)が劉備の耳元でつぶやきました。


「おっ、おう」


 耿雍の言葉に劉備は(いっ)(しゅん)ドキッとしました。


「また会いたいなぁ。今どこにいるんだろぉ」


 耿雍が気持ちを(たかぶ)らせながら、ブツブツ言っています。


 ()(あん)を終えた老人が口を開きました。


「よし、()殿(でん)ら、わしと(しょう)()せんか」


「はあっ。勝負ぅ」


 二人とも、いきなりの事で(わけ)が分かりません。


「ワシに勝ったら、貴殿らに千金(せんきん)(あた)えよう」


「せっ、千金ん」


 ちょうど、的を(やしな)うための()(きん)(こま)っていた所

だったので、劉備にとってこの話はとても()(りょく)(てき)

でした。


「よし、()った。」


 劉備は即答(そくとう)します。


「よろしい。では、このお(わん)を取ることができれば

貴殿らの勝ちじゃ。

ただし、日没(にちぼつ)までにお(わん)を取れなければ、

ワシの所でしばらく働いてもらうぞ」


 と言って、老人は自分の頭に、持っていたお椀を

乗せました。


「ケガしても知らないぜ」


 二人は勢いよく、老人に()かって飛びかかりました。


 しかし、老人はそれを(かろ)やかにかわし、お椀を

()(だま)の様にして(ちょう)(はつ)します。


「よっ、ほっ。ほれほれ、こっちじゃ」


「なっ、やるな、(じい)さん」


 劉備たちは()(せん)をお椀に集中します。

しかし、お椀へ(くぎ)()けになった目の動きも、

お手玉の様に(あやつ)られていました。


馬鹿(ばか)っ、椀ばっか見てんじゃねえよ」


 劉備が耿雍を(しっ)()します。


「おっと、いけねえ。つい」


 二人はお椀から視線を外して、老人を再び

押さえにかかりました。


「おのれぇ、ちょこまかとぉ」


「劉さん、それ負けるやつが言う台詞(せりふ)


 耿雍が()っ込みを入れます。


 老人はその見た目からは思いもつかない

ような身体(しんたい)(のう)(りょく)で二人の追撃(ついげき)を次々と

かわして行きました。


「その(どう)()(りゅう)(せい)(ごと)く」


 だんだんと体力を(しょう)(もう)していく二人に対して、

老人の動きはキレを増して行きます。


 まるで(さん)()の音が聞こえるかのように。


「この動き、どこかで見た事あるな」


 劉備が()(おく)辿(たど)りよせます。


 その時、ずっと(つな)いだままで(ほう)()された

的の事が目に入りました。


「まさか、あれは」


 老人の動きは、彼の言う『天馬幻想』の動きに

そっくりでした。


「ほれほれ、もう終わりかのぅ」


 息を切らす二人を、再びお椀をお手玉の

ようにして挑発します。


 その動きはまさに、十三の星の()(せき)

(えが)いているかのようでした。


「おっと」


 老人は、わざと手を(すべ)らせて皿を落としました。


 それを()(のが)さなかった劉備たちは

力を()(しぼ)ってお椀に飛びつきます。


()(しょう)せし事、天馬のように」


 落ちたお椀を老人が軽く上へ()り上げると、

老人はあり得ないくらいの(ちょう)(やく)を見せ、

上空でお椀をつかみました。


「あっ、ありえねぇ」


 二人が声をそろえます。


 そうこうしている内に日が(しず)んでしまいました。


「まいった、降参(こうさん)


 二人は、ぜえぜえと息を切らしてその場に

座り込みました。


「では、約束(やくそく)どおり明日からワシの所で働いて

もらうかのう」


「あんた、一体(いったい)(なに)もんだ」


 劉備が老人に(たず)ねます。


 老人は触っていた白髭をから手を放して、

顔の前で手を組み。


「ワシは、(うま)(しょう)(にん)(せい)()、名を(そう)(もう)す。

(みな)からは『蘇家師(そかし)』と呼ばれておる」


 と、名乗りました。


「馬商人が何でそんな動きができんだよ」


 耿雍が訊ねると。


「ワシら商人は、貴殿らとちがって『(じゅ)(きょう)』に

保護(ほご)されておらん。だから、取引を反故(ほご)

されんよう、力を(たん)()としておる」


 蘇双がそう言って、細い(うで)の小さな力こぶを

みせます。


「すまん、意味がわからねえ。分かりやすく」


(よう)するに、力は金、金は力じゃ」


 劉備は的のため、蘇双に提案(ていあん)します。


「馬商人か、そいつはちょうどよかった。

(はたら)く対価と言っちゃあ(なん)ですが、

的の(えさ)を分けてもらえないですかねえ」


「お(やす)()(よう)じゃ」


 こうして、劉備と耿雍は馬商人の蘇双のもとで

働くことになりました。


 場所は変わって。


「本日(づけ)(かん)に就くことになりました」


 漢帝国の首都「(らく)(よう)」にある謁見(えっけん)の間で、

一人の若い男が皇帝(こうてい)さまの前に(ひざまず)いています。


(うわさ)に聞く、()(せい)能臣(のうしん)(らん)()奸雄(かんゆう)とは

()(こう)の事か」


 皇帝さまが若い男に訊ねます。


「貴公、歳はいくつじゃ」


「今年で二十歳になりました」


 皇帝さまは嬉々(きき)として、


「おおっ、(ちん)と一つしか変わらんではないか」


 と、手を(たた)きました。


次回に続く。

「面白かったらブックマーク、

広告の下にある評価をよろしくお願いします!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ