4.草原の詩
「これでお前も白馬騎士団の一員だぞぉ」
盧植先生の所へ弟子入りしてから数ヶ月が経ちました。
劉備は年上の(公)孫さんに弟のように可愛がられ、
彼から「的」と言う名前の馬を譲ってもらいました。
「的」は体の色が白くなかったので、
白馬に強い拘りがある(公)孫さんに気に入って
もらえず、矢じりのない矢で練習の"的"として
射られていた為、そう呼ばれていました。
劉備たちは「漢民族」の心である儒教の
授業をサボっては、外国人の行為である
乗馬を行い、(公)孫さんたちと北の大地を
暴走していました。
ロバなどの小さい馬が目立つ中、
白馬騎士団総長である(公)孫さんは、なんと
一日400里クラスの『筋斗(トンボ返り)』と言う
白い名馬に乗っていました。
馬を駆る(公)孫さんが男に尋ねます。
「耿"かん"雍、あれは何てぇ河だ」
「総長、あれは蟠桃河という河です。
耿"てき"雍です」
耿と言う姓は、この地方で"かん"と
発音されていました。
皆、漢民族の心である「漢服」を捨て
「胡服」と言う外国の服を着て格好をつけていました。
「よっしゃあ。みんな、あの河まで競走いっちょ
やってみっかぁ」
(公)孫さんの号令一下、
皆、馬の腹をかかとで蹴って馬を加速させます。
一速、二速、三速と足で速度上げていきます。
「破っ!!!」
五回目の腹蹴りの辺りで筋斗の
嘶きが「ブオォォォン」と変化し、
加速が格段に増しました。
「うっひゃあ、気持ちいいぞぉ」
(公)孫さんが気持ちよく爆走する中、
耿雍が河に向かって来るもう一つの集団を
見つけました。
「劉さん、ありゃやべえ、鮮卑族の奴らだ」
耿雍が隣を走っていた劉備に告げます。
鮮卑族とは、北方の騎馬民族の一つで、
上から下まで"本物"の「胡服」を着ており、
髪の毛に剃り込みを入れ、後ろ髪をまとめて
垂らすという、マジで気合の入ったヤバい民族でした。
「そりゃマズい。このままだと総長が
何しでかすか分かったもんじゃないな」
と言うと、劉備は「ハイヨッ」と「的」の
腹に蹴りを入れました。
「すまん俺の『歌舞』では筋斗に追い付けねえ」
耿雍のロバの名は「歌舞」と言うようです。
鮮卑族は皆、一日1,000里クラスの大型馬に
乗っているので、ロバ混じりの「白馬騎士団」には
勝ち目がありません。
劉備が(公)孫さんに追いつくと、
それはすでに始まっていました。
「ンダ、コノシャバゾウガ、シメンゾコラ」
相手は鮮卑語を話しています。何を言っているか全く
理解出来ません。
北方の騎馬民族は独自の文字を持たなかったので、
現在でも漢民族側の記録を頼りにその歴史が研究されて
います。
「お前ら強えんか、オラワクワクすっぞぉ」
(公)孫さんが口と口がふれ合いそうな位
顔を近づけて睨まれています。
「ンダ、ヤンノカコラ、チッチッチ」
相変わらず何を言っているのか理解出来ません。
ただ分かることは、この場が一触即発だと言う事です。
「ヨロシク」
劉備が片言の鮮卑語で仲裁に入りました。
どうやら彼らの「礼(挨拶)」のようです。
「ンダ、テメェハ、ドコチュウダコラ」
鮮卑族は、がに股で劉備に矛先を変えました。
「ジブンは、長沙定王の分かれ、臨邑侯の子孫で
劉備言います、ヨロシク」劉備が名乗りを上げました。
どうやら鮮卑族に片言言葉が通じたようで、
彼らは集まってヒソヒソと何やら言っています。
話しがまとまったようです。
「臨邑侯ぅ、誰それ、分かんねえ」
鮮卑族がはっきりと漢民族の言葉で言いました。
「ンダト、タイマンダコラァァァ」
「ンダト、ジョウトウダコラァァァ」
結局、劉備が喧嘩を売ってしまいました。
決着は馬の競走で付けることになりました。
ルールは簡単で、終着点にいるお互いの
総長と総長の間を先に抜けた方が勝者となります。
両者一斉に出揃い、出走しました。
もちろん鮮卑族は、重賞クラスの馬に乗って
いるので、走り出し順調です。
劉備の乗る「的」は、未勝利の新馬なので、
遅いと、
思いきや、
「的、努力せよ」
劉備の4回目の腹けり辺りで、的が
「ブオォォォォン」と物凄い嘶きを上げました。
的の駆ける速度が上がると同時に、身体中から
血のような汗がキラキラと霧状に吹き出しました。
それは夕日に照らされて、皆が見とれるほどに
美しく輝いていました。
鮮卑族の馬を追い上げる劉備に鮮卑族の仲間が
弓矢を浴びせかけます。
「お前ら卑怯だぞ」
耿雍が不正に野次を飛ばします。
が、彼らには漢民族の言葉が通じません。
迫りくる矢の雨。
劉備は死を覚悟しました。
はじめから鮮卑族に関わっては
いけなかったのです。
しかし、的が霧のような汗で幻影を生み出すかの如く
軽やかな跳躍で矢を全て避け切ってしまいました。
馬はとても臆病な生き物です。
(公)孫さんの家で一本、二本と矢を躱している
内に、この程度の矢衾など軽々と避けられる技術を
習得していたのでしょう。
そのまま的が相手の馬を引き離し、先に終着点へと
たどり着きました。
「ンダ、イカサマシテンジャネエゾコラ」
言葉の意味は分かりませんが、鮮卑族から
野次が飛びます。
「待ちな」
鮮卑族の中から「漢民族」の少女の声がしました。
次回に続く。
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夜露死苦!!!