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爆裂‼三国伝(ラフスケッチ版)  作者: 縦河 影曇
25/27

25.少年の初陣‼銭塘江

「お(たから)は、ここにあるぜ」


 小高(こだか)(おか)の上で(けん)(さけ)ぶと、

かい(ぞく)たちの視線(しせん)はそちらへと集

まった。


 月の(あか)りで()らされた少年の姿(すがた)

はまるで、後光(ごこう)(まと)っているかの

ようだった。


「ほほぅ、面白(おもしれ)え」


 少年の威勢(いせい)のいい声を聞き、

かい賊の統領(とうりょう)不敵(ふてき)(わら)う。


 少年は右と左、両方の手に網目(あみめ)

のかかった緑色の(うり)を持ち、それ

(みな)へ見えやすいように、天へと

かかげて月の光で()らした。


「これが富春(ふしゅん)新名物(しんめいぶつ)(ほたる)(じゅん)だ」


 堅の父親が突如(とつじょ)鼻歌(はなうた)を歌い(はじ)

める。


 どうやら、蛍と純の宣伝(せんでん)のため

に作った(きょく)らしい。


「とくとご賞味(しょうみ)、あぁ、れぇ」


 堅はそう言いながら、右手の瓜

を、かい賊の方へ()りかぶって、

投げた。


 それを見た賊の仲間の、美丈夫(びじょうぶ)

二刀流(にとうりゅう)剣士(けんし)即座(そくざ)反応(はんのう)し、

瓜をその手に()名剣(めいけん)()(ぷた)

()ると、それは(しず)かに地面(じめん)へと

落ちた。


「なるほど、見事なだいだい色だ」


 普段(ふだん)無口(むくち)な剣士は、瓜のその

果実(かじつ)(あざ)やかさに、思わず声を出

した。


 斬った瓜を食べやすいよう、

(さら)に二つに切り、統領に()わって

味見(あじみ)をする。


「どうだ」


 統領が(たず)ねると、剣士は無言(むごん)

瓜の片割(かたわ)れを彼に(わた)し、食べてみ

ろと言わんがばかりの()くばせを

した。


 統領が、だいだい色の果実へ

豪快(ごうかい)にかぶり付く。


 その瞬間(しゅんかん)、堅の父親の鼻歌を

背景(はいけい)に、彼の目の前へ北の大地の

情景(じょうけい)が広がった。


「とっ、父さん」


 統領はそう(つぶや)くと、自分の

少年の(ころ)の事を思い出して、一筋(ひとすじ)

(なみだ)を流す。


子供(こども)がまだ()ってる途中(とちゅう)でしょ

うがっ、とか言って、貧乏(びんぼう)ながら

家族(かぞく)(まも)ってくれてたっけ」


「ぼっ、(ぼく)にもちょうだい」


 賊の仲間の(みどり)の人が瓜を食べよ

うと手を()ばしたが、剣士がそれ

(はら)いのけ、(のこ)りの瓜を二つに切

り、同じく仲間の女盗賊(おんなとうぞく)亡国(ぼうこく)

(ひめ)に渡した。


「なにこれ、超美味(チョーうま)い」


 瓜のあまりの美味さに、思わず

黄色い賞賛(しょうさん)の声が上がる。


 その声を聞いた堅は、得意顔(とくいがお)

かい賊たちを(なが)めて、後ろにいる

瓜の提供者(ていきょうしゃ)に言った。


「おっ()さん、()()自慢(じまん)(しん)

名物(めいぶつ)は、すこぶる好評(こうひょう)のようです」


「あんたら、どこほっつき歩いて

るのかと思って、”(せい)”と一緒(いっしょ)に見

に来てみたら、まさか、こんな事

になっているとはねぇ」


 母親(ははおや)がそう(いきお)いよく言うと、(おとうと)

の静が、瓜を()せた荷台(にだい)から顔を

出した。


(あに)さん、孫家(そんけ)底力(そこぢから)を見せてや

りましょう」


 と言って、堅の両手に”蛍と純”

を渡した。


 父親は相変(あいか)わらず、蛍と純の宣

伝のために作った曲を歌っている。


小僧(こぞ)ぉっ、その瓜豪快(ゴーカイ)に買うぜ」


 賊の統領が堅を指差(ゆびさ)してそう言

いうと、手に持った金銀(きんぎん)を堅の方

へ投げた。


「まいどありっ」


 投げられた金銀と交換(こうかん)する形で、

堅は瓜を投げ(かえ)した。


 瓜が綺麗(きれい)直線(ちょくせん)(えが)きながら、

飛んで行く。


 父親は相変わらず、蛍と純の宣

伝のために作った曲を歌っていた。


 賊が瓜を受け取ると、統領は、

たて(つづ)けに金銀を堅の方へ(ふたた)び投

げた。


「まだまだっ、豪快(ゴーカイ)に買うぜぇっ」


 弟の静が荷台より次の瓜を母親

に渡し、それを堅が受け取って、

瞬時(しゅんじ)に投げ返した。


 それはまるで、火事(かじ)(さい)に水を

(おけ)(はこ)ぶかの(ごと)く。


()ぉ、江州(エス)、嗚ぉ、江州(エス)


 その()け声も(かろ)やかに、孫家は

独自(どくじ)連帯感(れんたいかん)をみせた。


 なお、父親は相変わらず、蛍と

純の宣伝のために作った曲を歌っ

ている。


 賊と孫家との応酬(おうしゅう)が今、

(はじ)まった。


 この(たたか)いの勝敗(しょうはい)至極単純(しごくたんじゅん)で、

それは、お(たが)いの物量(ぶつりょう)にかかって

いた。


 (よう)するに、交換する物が無くな

った方が、この戦いの敗者(はいしゃ)となる。


「ほらほら、ぼやぼやしてないで、

ちゃっちゃとやりなっ」


 堅たちの母親は、そのきっぷの

()い言い(まわ)しで調子(ちょうし)(ととの)える。


「この初陣(ういじん)()けるわけにはいか

ねぇ」


 堅はそう言って、(おのれ)気合(きあ)を入

れた。


 この瓜には故郷(こきょう)富春(ふしゅん)、ひいては

中華帝国(ちゅうかていこく)南部(なんぶ)意地(いじ)がかかってい

るのだ。


「南の大地の(めぐ)み、豪快に買いつ

くしてやるぜ」


 賊の統領は、この戦いを(たの)しむ

かの如く、その表情(ひょうじょう)を不敵な笑み

から、会心(かいしん)の笑みへと変化(へんか)させて

いた。


 思った以上の瓜の大盛況(だいせいきょう)に、

堅の父親の鼻歌が、益々(ますます)その

調子を上げていく。


「やばいよぅ、金銀がまるで湯水(ゆみず)

の如く無くなっていってるよぉ」


 賊が(たくわ)えている金銀の残量(ざんりょう)を見

て、緑の人が(おび)え始めた。


「だめだ。

ああなったら、あいつは止められ

ない」


 美丈夫な剣士が、そう言って緑

の人の(かた)を軽く(たた)く。


 だが、事情(じじょう)は孫家側も(おな)じの様

で、こちらも物凄(ものすご)(はや)さで瓜の

在庫(ざいこ)を消費していた。


「兄さん、取る物も()()えず()

け付けたので、もう瓜が尽きそう

ですよ」


()いなら無いなりに工夫(くふう)するん

だよぉ」


 静の(うった)えに母親の叱咤(しった)が飛ぶと、

堅は何かを理解(りかい)して、その答えを

(ひね)り出した。


「おっ母さん、商品に付加価値(ふかかち)

付けるのですね」


 彼はそう言うと、瓜の(にぎ)り方や

投球(とうきゅう)姿勢(しせい)を変えて、瓜の飛ばし

方に工夫を加えた。


「なにぃ、(たま)()がるだとぉ」


 賊たちは、その自在(じざい)に変化する

投球に意表(いひょう)を突かれたようである。


「堅よ、やるじゃないかぃ」


「おっ母さんの助言のおかげです」


 商品にひと工夫を加える事に

成功(せいこう)した事で、堅は母親からお()

めの言葉(ことば)(たまわ)った。


「いや、瓜の数への解決(かいけつ)にはなっ

てないのですが」


 そんな兄たちのやり取りを見て、

静が(つぶや)く。


 (はげ)しい攻防戦(こうぼうせん)が続く中、お(たが)

物資(ぶっし)を決して出し(しぶ)ることなく、

全力(ぜんりょく)でその工夫の数々を見せ合う。


 父親の鼻歌も、もう何週目であ

ろうか。


 その声は終焉(しゅうえん)催促(さいそく)するかの如

く、次第(しだい)にその音量(おんりょう)が大きくなっ

ていった。


「もう駄目(だめ)だ、在庫(ざいこ)が切れる」


 堅が最後の一個を投げた時、母

親と静は、落胆(らくたん)疲労(ひろう)でその場に

(すわ)()んでしまった。


「もう、おしまいだよぉ」


 父親もその様子(ようす)を見て、鼻歌を

歌うのを止めてしまった。


「俺たちの勝利(しょうり)だな」


 それらの様子を遠くから見た賊

の統領は、勝利を確信(かくしん)して、その

顔に不敵な笑みを()かべた。


 労力(ろうりょく)と工夫、その全てを出し切

って、堅はもう抜け(がら)の状態であ

る。


 その時、放心状態(ほうしんじょうたい)の彼の口から

無意識(むいしき)に言葉が出た。


(いくさ)とは詭道(きどう)(騙し合い)なり」


 堅の父親は、その言葉を聞き、

体を(ふる)わせて言った。


「あっ、あれは”孫子(そんし)真言(しんごん)”だ」


 次回に続く。

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