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爆裂‼三国伝(ラフスケッチ版)  作者: 縦河 影曇
24/27

24.襲撃⁉長江船

 中華帝国(ちゅうかていこく)の南を流れる銭塘江(せんとうこう)


 その日は夜空の下、その流れへ

長江(ちょうこう)より来た船を静かに()かべて

いた。


 闇夜(やみよ)にも(かか)わらず、長江船(ちょうこうせん)が開

く市の所々には煌々(こうこう)と明かりが(とも)

されて、まるで眠る事を知らない

かのように(にぎ)わっている。


 (けん)ら親子は、そんな賑わう市を

ゆっくりと散策(さんさく)しながら、一夜を

明かすための場所を探していた。


「お()っつぁん。

目当ての(ちゃ)も手に入れた事ですし、

これで大手を振って地元(じもと)富春(ふしゅん)

帰れますね」


 (ほが)らかに話す息子の言葉を聞い

た父親は、(あわ)てて右手の人差し指

を立て、それを自分の口に当てて、

息子の言葉を(せい)する。


(われ)らが茶を持つことが(まわ)りに知

れたら、それを(ねら)って(ぞく)(おそ)われ

るやもしれぬぞ」


 茶は高級品(こうきゅうひん)ゆえに、それを(かす)

取る事を狙う者が多いと聞く。


 父親の注意に堅は鼻息を(あら)げて、


「なあに、われら親子はかつての

名将(めいしょう)孫武(そんぶ)”の子孫ですからね。

そんな(やつ)らは返り()ちにしてやり

ますよ」


 と、息巻(いきま)いた。


 とは言え、親子は(うり)五百個(ごひゃっこ)

()()えに交換した、茶の入った

(うつわ)をその(ふところ)(いだ)いている。


 おのれの出自(しゅつじ)と、大枚をはたい

て手に入れた茶の事を、意気揚々(いきようよう)

と話す息子を見て、父は苦笑(にがわら)いを

していた。


 そんな、その辺にありふれた親

子の会話をよそに、多くの(ひづめ)の音

は、夜に賑わう長江船の市へ(こく)(いっ)

刻と近づく。


「何だか、辺りが(さわ)がしくなって

来たな」


 堅の父は市の商人たちが(あわ)ただ

しく右往左往(うおうさおう)しだしたのを見て、

市の異変(いへん)に気が付いた。


 その直後(ちょくご)、一大事を大声で()

(もの)が市の中を()けた。


「か、い、ぞ、くが、来たぁぁっ」


 その声を聞いて、市へ来ていた

人々(ひとびと)動揺(どうよう)が走る。


(おそ)らく(ねら)いは、大量(たいりょう)物資(ぶっし)(あきな)

う長江船であろう」


 堅の父が言った。


 ただ、それらを(あつか)手前(てまえ)商人(しょうにん)

たちはそれらの事態(じたい)をすでに想定(そうてい)

していた(よう)で、かねてからの()

場でこれを(むか)()態勢(たいせい)(ととの)えて

いた。


 髑髏(どくろ)(はた)(ひるがえ)し、蹄の(おと)(たか)らか

にして、この世のありとあらゆる

宝を豪快(ゴーカイ)に狙う者たち。


 先頭(せんとう)で馬に(またが)()ける真っ赤な

長い(たけ)上着(うわぎ)を着た男は、その(こし)

には色とりどりの(かぎ)をぶら下げ、

その鍵がこすり合わさると、軽快(けいかい)

金属音(きんぞくおん)()っていた。


 彼はその後ろに、美丈夫(びじょうぶ)

二刀流(にとうりゅう)剣士(けんし)女盗賊(おんなとうぞく)亡国(ぼうこく)(ひめ)

(みどり)の人などを()()れている。


 それら人物(じんぶつ)の名はわからないが、

その集団(しゅうだん)の中に、堅は見知(みし)った顔

を見つけた。


「あれはっ、昼間に会った役人(やくにん)


 どうやら彼は賊の手先(てさき)だったよ

うで、役人のふりをして賊の手引

きをしていたのである。


「ほっ、本業(ほんぎょう)(もう)かってなかった

んだ」


 言い(わけ)じみた言葉を堅ら親子に

発すると、彼は(うし)ろめたかったの

か、集団へと()()んでしまった。


 堅の父が言う。


「彼は、報酬(ほうしゅう)のいい仕事に()られ、

いつの間にか(やみ)の仕事へ加担(かたん)させ

られていたのだろう」


 それはさておき。


 集団の先頭にいる、真っ赤な長

い丈の上着を着た男が不敵(ふてき)(わら)い、

後ろに(ひか)える部下たちに言った。


派手(はで)に行くぜぇぇぇっ」


 その声と(とも)に、金銀(きんぎん)(ちゅう)()う。


「いっ、いらっしゃいませぇぇぇ」


 (いち)の商人たちの接客(せっきゃく)の声も(むな)

く、その(あつか)品々(しなじな)が大量に金銀へ

と交換されて行った。


「いくぞっ、豪快に交換(チェンジ)だっ」


 かい(ぞく)戦隊(せんたい)たちが、その部下と

手分けして、長江船の商品を大量

に買い付けて行く。


()(いわ)く、品物(しなもの)一部(いちぶ)独占(どくせん)され

ると、()物価(ぶっか)破壊(はかい)される(なり)


「お父っつぁん。

何を言っているのですか」


 堅の父親は、一瞬(いっしゅん)その姿(すがた)後光(ごこう)

宿(やど)し、何かに取り()かれたかの

ように、息子を見て言葉を(はっ)した。


「うす(よご)れちまった銀なんか、

()いて()てるほどあるぞぉっ」


 かい賊はそう言いながら、その

大量に持つ金銀を、豪快に品物へ

交換していった。


「ああっ、欲しかった願富良(ガンプラ)がっ」


 欲しかった品物がいつの間にか

理不尽(りふじん)に買い付けられて行くさま

を見て、多くの(たみ)(なげ)いた。


 ちなみに願富良とは、(わらべ)の心を

持った人間にのみ”()(ねが)いを()

せる”事が出来るという偶像(ぐうぞう)の事ら

しい。


「それだけは勘弁(かんべん)してくだせえ」


「うっさい、ばぁぁぁか」


 女盗賊が嘆く男を罵倒(ばとう)した。


(なん)たる非道(ひどう)


 堅が(いか)りに(ふる)え、(つぶや)く。


 かい賊は他にも、なんだか小さ

くて可愛(かわい)いやつや、小さい神獣(しんじゅう)

(えが)かれた手の(ひら)ほどの大きさの(うす)

(いた)なども、容赦(ようしゃ)なく買い付けて

行く。


 (またた)く間に、売り場の品物はその

姿(すがた)()した。


 ただ、一種類(いっしゅるい)のみ買い付けより

(のが)れた品物があった。


 それは、小さな()っかの(まわ)りに、

同じような輪っかが三つ(つら)なった

道具(どうぐ)である。


「なんだ、これは」


 かい賊は、その道具を人差し指

と親指で(はさ)み、(いきお)いよく回転(かいてん)させ

てみる。


「なんでこんなもんが流行(はや)ったん

だろう」


 そう言うと、その道具を(もと)(もど)

してしまった。


 真っ赤な長い丈の上着を着た男

が、どこからともなく取り出した

真っ赤で大きな(はこ)両手(りょうて)で持ち、

言った。


「安心しな、品物は後で俺たちが

この箱に入れて売ってやるよ」


「あいつら、高額(こうがく)転売(てんばい)する気だ」


 堅の父親がその(たくら)みを喝破(かっぱ)した。


「おっと、こんなところに(かく)し持

ってたかぁ」


 散々(さんざん)に買い付けた挙句(あげく)、ついに

その手は、庶民(しょみん)食料品(しょくりょうひん)である

(こめ)”へと()ばされようとしていた。


 米までも買い()められてしまう

と、長江流域(ちょうこうりゅういき)どころか、中華全土(ちゅうかぜんど)

混乱(こんらん)(おちい)ってしまうであろう。


 そのとき、


「買うなら米より()いものがある

ぜ」


 かい賊が声のする方を見上げる

と、そこには緑で網目(あみめ)のかかった

(うり)を手に持った堅が立っていた。


次回に続く。

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