表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爆裂‼三国伝(ラフスケッチ版)  作者: 縦河 影曇
23/27

23.世界の全て⁉銭塘江の市

 船はゆっくりと、大きな川を進

む。


 大いなる黄河(こうが)中華(ちゅうか)を流れてい

たが、その南に流れる河川群(かせんぐん)は、

それよりも水を多く(たくわ)えていた(ため)

大型船(おおがたせん)による物資(ぶっし)大量輸送(たいりょうゆそう)

可能としていた。


 (けん)たち親子が待つ(きし)へ向かって

(きら)びやかに装飾(そうしょく)された大きな船が

音楽を(かな)でながら近づいて来た。


 堅が耳を(かたむ)ける。


「これは、太鼓(たいこ)の音だ」


 (ドン)(ドン)(ドン)


 規則(きそく)正しい太鼓の調子(ちょうし)


 次に(ドン)と太鼓の()ると、その合

いの手に、麾威(キー)と、弦楽器(げんがっき)(ゆみ)

()く音が入る。


 堅たち親子は、(ドン)麾威(キー)(ほう)

()()った。


 船は桟橋(さんばし)の方へ、ゆっくりと

近づいて来た。


「お(とっ)つぁん、長江船(ちょうこうせん)が桟橋の方

へ向かってますよ」


 若い堅は、向かってくる大きな

船を(なが)め、心を(おど)らせる。


 船の壁面(へきめん)には大きな(とり)絵画(かいが)

()かれていた。


 大きな鳥は中華の考えに方よる

と、南の守護神(しゅごしん)意味(いみ)していた。


 王莽(おうもう)によって(なか)途絶(とだ)えた

漢王朝(かんおうちょう)


 それを再興(さいこう)した、光武帝(こうぶてい)劉秀(りゅうしゅう)

は南より(おこ)り、”赤伏符(せきふくふ)”と言う

予言書(よげんしょ)にしたがって王朝の火徳(かとく)

(しめ)した。


 赤、火、鳥はすべて南を示す

記号(きごう)である。


「あれっ、あそこいつの間に鈍麾(ドンキ)

になったんだ」


「昔は(ちが)う店だったのに」


 近くにいた二人組の役人(やくにん)は、船

を見てそう言うと、堅たち親子か

らもらった(うり)(かわ)を地面に()て、

その場を()った。


「じゃあな」


「無事に茶を分けてもらえるとい

いな」


 堅の父は、家族で栽培(さいばい)した大量(たいりょう)

の瓜を桟橋の方へ(はこ)()む為、そ

れを()せた荷台(にだい)の持ち手に手をか

ける。


()を運ぶぞ」


「この量で、如何(いか)ほどの(ちゃ)交換(こうかん)

出来ますかね」


 父が答える。


「長江船では、高級品(こうきゅうひん)である茶も

取り扱っていると言うからな」


 堅は脳裏(のうり)に、(せん)じた茶を楽しむ

おっ母さんの顔を思い()かべなが

ら、父を助けて荷台を力いっぱい

に押した。


 岸に着いた船が桟橋に(いた)()

橋を作り、そこを(わた)って様々(さまざま)

商人たちが、(いち)を開くべく長江船

から()りて来た。


 桟橋の辺りには、すでに人が

沢山(たくさん)集まっており、市の設営(せつえい)を今

かと見守(みまも)っている。


「お父つぁん、長江船から高貴(こうき)

うな人が出てきましたよ」


 堅たち親子の荷台が、人だかり

の近くへ到着(とうちゃく)すると、船から支配(しはい)

(にん)であろうか、派手(はで)着飾(きかざ)った(じん)

(ぶつ)がその姿(すがた)を現し、


「いらっしゃいませ、いらっしゃ

いませ。

 ここは世界の全てがそろう殿堂(でんどう)


 と、市の開催(かいさい)()べる。


 その声を皮切(かわき)りとして、戦いは

(まさ)(はじ)まった。


 市へ集まった多くの人々が、

各々(おのおの)目当(めあ)ての物を購入(こうにゅう)するため、

(かく)売り場へ殺到(さっとう)する。


 その姿(すがた)はまるで、()()せる

十万の大軍のよう。

 

「お父つぁん、人の(なみ)に押しつぶ

されそうです」


 あまりの人の多さに、堅が悲鳴(ひめい)

を上げた。


 その時、日の光の具合(ぐあい)であろう

か、父に一瞬(いっしゅん)後光(ごこう)のようなものが

()して、言った。


孫子(そんし)(いわ)く、(いち)ある所に(いくさ)あり、

戦ある所に市あり。

 ご先祖(せんぞ)さまの言葉(どお)り、ここは

戦場(せんじょう)だ」


 父は、孫家(そんけ)に古くから伝わる言

葉を()いて息子を(はげ)ますと、人混(ひとご)

みをかわしながら、瓜を乗せた車

を引いた。


 ちなみに、一般的に広まってい

る孫子の兵法(へいほう)の言葉の数々は、

すでに散逸(さんいつ)してしまった物を集め

たものであり、孫家にはその(うし)

れた言葉が口伝(くでん)にて伝えられてい

るのだとか。


 父は時折(ときおり)、息子にそれらの言葉

を語っていた。


 押し()せる客を次から次へと

さばいて行く商人の姿は、若い堅

一騎当千(いっきとうせん)猛将(もうしょう)彷彿(ほうふつ)とさせた。


「俺もいつかはあんな猛将を(したが)

るんだ」


 北平(ほくへい)(もも)零陵(れいりょう)茘枝(ライチ)遼西(りょうせい)

林檎(りんご)、そして()蜜柑(みかん)


 堅は将来(しょうらい)、家業の瓜だけでなく、

世界中の果物(くだもの)()(あつか)(おとこ)になる

野望(やぼう)を心に()めていた。


「おぉぉい、お茶はどこですかぁ」


 堅が市を見渡(みわた)しながら、お茶を

商う商人を探して声を上げた。


 その声に応えるように、真緑(まみどり)

()まった服を着たどじょう(ひげ)の商

人が、こちらを見て手を()げてい

る。


 その前垂(まえだ)れには、商人の(せい)であ

ろうか、”()”と大きく書かれてい

る。


当園(とうえん)栽培(さいばい)してるお茶、ここあ

るよ」


 彼は外国(がいこく)西域(さいいき)の者であろうか、

その言葉は少しぎこちない。


「お茶を()めば元気いぱい。

 疫病(えきびょう)、男女、はたまた死にそう

(あお)い天、何でもぎぐよ」


 少々(しょうしょう)大袈裟(おおげさ)にお茶の効能(こうのう)()

る商人のもとへ、堅たち親子は力

一杯(いっぱい)に車を()せた。


「お(ねが)いです、お茶を買いたいん

です。

 お茶を売ってください」


 ()き出る、そのはやる気持ちで、

堅は商人に声をかけた。


「お客さん、お茶の味を知ってる

か。

 (ほか)、売ってるやつ、お茶じゃな

いよ」


 商人はそう言うと、深緑(ふかみどり)の色を

した茶葉(ちゃば)が入った容器(ようき)を出して見

せた。


 その(ふた)を開けると、大草原(だいそうげん)を思

わせる(かお)りが(あた)りに(ひろ)がる。


 感動(かんどう)のあまり、堅が商人へ素直(すなお)

感想(かんそう)をのべた。


「俺が(もと)めているのは本物(ほんもの)のお茶

なんです」


「はあっ、本物のお茶なんですけ

ど」


 ()気味(ぎみ)に堅の言葉へ被せる様

に、商人が言葉を放つ。


「しゃべり方、変わってる」


「あっ」


 一瞬、()沈黙(ちんもく)(おそ)った。


 茶の(みち)とは、時によってその心

(あらわ)す物であると言う。


 この会話(かいわ)がまさに二人の心を表

していた。


 それはともかく。


 堅の父親が商人に(たず)ねた。


「こちらにわが家自慢(じまん)の瓜が五百

個ほどあるが、これ(すべ)てで如何(いか)

どの茶と交換してもらえるのだ」


 網目(あみめ)のかかった緑色の瓜を見て、

商人は二度見(にどみ)をする。


「こっ、こんな気持ちの(わる)い網目

のかかった瓜では、この容器一つ

分くらいしか交換出来ないあるよ」


 商人はそう言うと、瓜をちらち

ら見ながら、大きいお茶碗(ちゃわん)ほどの

茶葉が入った容器を、両手で差し

出して来た。


()かった、それで手を()とう」


 堅の父親がお茶の入った容器を

受け取ると、商人が瓜を一つ()

(ため)しに(しょく)した。


(うま)っ。

いやいやこんな甘い瓜、ご飯のお

かずにならないね」


 そう言いながら、使用人(しようにん)目配(めくば)

せをすると、瓜が()んである台車

(うら)(はこ)ばせた。


 そうこうしているうちに、日は

すっかり落ちて、堅ら親子は自宅

のある富春(ふしゅん)への帰路(きろ)へ着こうとし

ていた。


 その時、東側から(かわ)沿()いに大量

(ひづめ)の音が()っていた。


次回に続く。

「面白かったらブックマーク、

広告の下にある評価をよろしくお願いします!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ