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爆裂‼三国伝(ラフスケッチ版)  作者: 縦河 影曇
22/27

22.船を待つ!!名将の子孫

「こうして、(わし)(ほま)れ高き

帝国騎士団(ていこくきしだん)は、たった一人の男の

手によって全滅(ぜんめつ)してしもたのだ」


 (とこ)()臧旻(ぞうびん)の話が一段落(いちだんらく)する

と、それを静かに聞いていた

筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の男が口を開いた。


「その(よう)な事があったのですね」


(けん)よ、あの戦役(せんえき)にお(ぬし)()れば

この様な無様(ぶざま)結果(けっか)にはならんか

ったのにのう」


 臧旻は天井(てんじょう)を見つめながら、

溜息(ためいき)をつく。


 堅は、窮地(きゅうち)にあった臧旻を片腕(かたうで)

一つで(すく)ったと言う人物(じんぶつ)興味(きょうみ)

()ち、(かれ)にその素性(すじょう)(たず)ねた。


「臧旻さまを救った(ごう)(もの)とは、

一体(いったい)何者(なにもの)だったのですか」


 臧旻は、(ゆめ)に見るくらい屈辱(くつじょく)

(こうむ)った戦場(せんじょう)での記憶(きおく)手繰(たぐ)()せ、

堅への(こた)えを(さが)す。


(たし)かあの力士(りきし)冀州(きしゅう)なまりであ

ったな」


 臧旻がさらに記憶を辿(たど)ろうとす

ると、一人の青年(せいねん)大声(おおごえ)()げて

部屋(へや)()()んで()た。


親父(おやじ)駄目(だめ)だ、(まった)()かってお

らん」


 (とし)(ころ)は堅と近い二十代(にじゅうだい)前半(ぜんはん)

らいであろか、その若々(わかわか)しい声が

父親を(つよ)批判(ひはん)する。


 堅は(した)しく(かれ)(あざな)()び、急な

来訪者(らいほうしゃ)(かる)くたしなめた。


騒々(そうぞう)しいな子源(しげん)手負(てお)いの父上

(いた)わらにゃいかんぞ」


 来訪者と言っても、堅の(ほう)(きゃく)

(じん)ではあるのだが。


作戦(さくせん)(ため)とはいえ、極寒(ごっかん)の北の

大地(だいち)裸同然(はだかどうぜん)軽装備(けいそうび)()ったら、

体を(こわ)すに()まっておるだろ」


 子源と()ばれた青年がそう()

()てると、臧旻はくしゃみをして

(あお)(ぱな)()ばした。


「そんな事より、親父は物の善悪(ぜんあく)

(わか)っておらん」


 子源がそう言い(はな)つと、堅は彼

(たず)ねた。


「それは、どういうことだ」


 子源は(とも)()いに答えるべく、

簡単(かんたん)(えり)(ただ)し、口を開いた。


(いくさ)とは、やみくもにやり合えば

良いというものではない」


「ほう」


 堅が相槌(あいづち)()つ。


(あく)(しめ)すことがもっとも重要(じゅうよう)だ」


 子源はそう言うと、人差(ひとさ)(ゆび)

()てた両手(りょうて)を、自分のこめかみの

少し上あたりにそえ、


「かつてお(ぬし)文台(ぶんだい)がしたように

な」


 と言いながら堅を見て、口の

両側(りょうがわ)を上げた。


 文台とは、堅の字である。


「よしてくれ、またその話か」


 彼はうんざりとした表情(ひょうじょう)で、

右手の手の(ひら)を出し、これから(はじ)

まる長い話を(せい)しようとした。


 そんな堅の意思(いし)とは関係(かんけい)なく、

話は(はじ)まる。


 あれは堅が十七歳(じゅうななさい)(とき)


 河岸(かわぎし)で父と子は、長江(ちょうこう)から海を

つたって銭唐江(せんとうこう)へやって来る

長江船(ちょうこうせん)”を待っていた。


 長江船には、西の異国(いこく)から(はこ)

れた(めずら)しい宝物(たからもの)や、めったとお目

にかかれないような食材(しょくざい)(など)()

れている。


 その中に高級品(こうきゅうひん)である、お茶も

(ふく)まれていた。


「お()つぁん、長江船には本当に

茶があるのですかね」


 父が子の質問を聞くと、(あわ)てて

子の口を(かる)く手で(ふさ)いだ。


「これっ、茶を(もと)めに来たことが

()られると、それを(ねら)った(ぞく)ども

(いのち)(ねら)われるぞ」


 子は父の手をはね退()けて、口を

(とが)らせながら言った。


「なあに、賊が来たら(おれ)(たた)きの

めしてやりますよ。

なんつっても()()は、伝説(でんせつ)

将軍(しょうぐん)孫子(そんし)子孫(しそん)ですからね」


「あっ、ああ」


 威勢(いせい)(しめ)()が子に、父は頭を

()きながら苦笑(にがわら)いをした。


 (いにしえ)名将(めいしょう)"孫子”の子孫。


 それは、自分がかつて(さけ)()

(いきお)いで言った言葉(ことば)である。


「堅よ、お前は()(かく)声がでかい。

船を待ってる間、(うり)でも()ってな

さい」


 父は、一家(いっか)商売道具(しょうばいどうぐ)である、

丸い瓜を子に(わた)した。


 その瓜は緑色(みどりいろ)をしていて、表面(ひょうめん)

にはびっしりと白い網目(あみめ)がはって

いる。


 伝説の将軍の子孫は、今ではな

ぜか、立派(りっぱ)瓜農家(うりのうか)(いとな)んでいた。


「お父つぁん、もう瓜は()()

ました」


 そう言いながらも、堅は差し出

された瓜を(ざつ)()って、黄緑色(きみどりいろ)

した果実(かじつ)にかじり()く。


相変(あいか)わらず、くそ()っめえなぁ」


 文句(もんく)を言いながらも彼は、瓜を

あっという間に食べてしまった。


「お前なあ、もっと(あじ)わって食え

よ。

長江船が来る前に瓜を食べつくし

てしまったら、交換(こうかん)する(もの)()

なってしまうではないか」


 荷台(にだい)には親と子で(はこ)んだ瓜が、

五百個(ごひゃっこ)ほど()んであった。


「これだけあっても、どれほどの

茶と交換してもらえるか」


 父が、感嘆(かんたん)溜息(ためいき)をつく。


 そんな事を話していると、()

うの(ほう)から鎧兜(よろいかぶと)()二人組(ふたりぐみ)がや

って来た。


「おいおい、お前ら。

こんなところで何をしておる」


 どうやら、この(あた)りを見回(みまわ)(した)

()役人(やくにん)のようだ。


「へえっ、あっしらは(となり)富春県(ふしゅんけん)

で瓜農家を営んでおる者です」


 父が(こし)(ひく)くして役人に答えた。


 (わか)い堅が、それを不満(ふまん)そうにな

がめている。


「瓜農家ぁ、身分(みぶん)(いつわ)った賊では

あるまいなぁ」


 役人がうすら(わら)いを()かべなが

ら、右手を()し出す。


「とんでもございません。

ここで長江船を待っておるのです」


 そう言いながら、父は彼らに瓜

を差し出した。


 彼らはめいめい瓜を手に取って

雑に割ると、そのまま果実にかじ

り付く。


「甘っめぇなあ。

お前、(しお)持ってないか」


「ほらよっ」


 役人がもう一人の役人に(たず)ねる

と、塩が入れてある小袋(こぶくろ)相方(あいかた)

差し出す。


 彼はもらった塩を果実へかけて

から、食べ直してみた。


「うわっ、甘さが()しちまった」


 瓜の甘さにのけぞっている相方

尻目(しりめ)に、もう一人の役人が(たず)ねて

きた。


「そういや、長江船を待っている

と言ったが、だれか知人(ちじん)でも乗っ

ているのか」


「いえ、おっ()さんに()ませてあ

げるお茶と瓜を交換(こうかん)してもらいに

来たのです」


 その質問に、堅が(ほこ)らしげに答

えた。


 それを聞いた役人がお(たが)いの顔

見合(みあ)わせると、


「いやいや、こんな不細工(ぶさいく)な網目

のついた瓜では、いくつあっても

無理(むり)ってなもんよ」


 と言って笑い出した。


 (たし)かに、茶は重病人(じゅうびょうにん)か、高貴(こうき)

身分(みぶん)の者しか口にできないほど、

高価(こうか)代物(しろもの)であった。


 だが、笑い声を聞いた堅の頭へ

一気(いっき)()がのぼる。


 一家の家業を馬鹿(ばか)にされたよう

な気がしたのだ。


 この無礼者(ぶれいもの)たちを(たた)きのめそう

と、堅が瓜を両手に持った時、

遠くの方から派手(はで)(ふえ)弦楽器(げんがっき)

音が聞こえて来た。


 (きら)びやかに装飾(そうしょく)された大きな船

がゆっくりと、こちらへ向かって

航行(こうこう)していたのである。


次回に続く。

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