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爆裂‼三国伝(ラフスケッチ版)  作者: 縦河 影曇
20/27

20.対決!!蒼天と黒龍

 帝国の北に広がる冷たく乾燥し

た草原地帯。


 一日で千里を駆けるであろう大

型馬に(またが)った(あお)と黒の軍団が、(たが)

いに砂埃(すなぼこり)を上げて今まさに激突(げきとつ)

ようとしている。


 蒼色の制服を(まと)った帝国騎士団

は、軍楽隊(ぐんがくたい)合唱(がっしょう)する「()()()

という警報音(けいほうおん)の中、その白い(かぶと)が、

緊急事態(きんきゅうじたい)(しめ)す赤色に変わった。


 赤色は、漢帝国(かんていこく)火徳(かとく)(あらわ)して

いる。


 この戦で負けることは(ゆる)されな

いのだ。


皇国(こうこく)興廃(こうはい)、この一戦にあり」


 騎馬部隊の先頭で馬を()る指揮

官の臧旻(ぞうびん)は、騎士たちを鼓舞(こぶ)する

(ため)に、最近(おぼ)えたての(いさ)ましい

言葉をひけらかした。


 一方、(もう)(しん)してくる蒼の軍勢(ぐんぜい)

目の前に、黒の軍団を率いる()

(がみ)の女性は、背中に芙蓉(ふよう)((はす))と

書かれた黒い羽織(はおり)をひるがえし、

大型の白馬に跨って、黒服の勇者

たちを(ふる)い立たせる言葉を発した。


「ダトゥ、ケンケェ」


 それは、鮮卑族(せんぴぞく)の言葉であった。


 その(うるわ)しの(くちびる)より攻撃的(こうげきてき)な言葉

(はな)たれると、その音が大草原に

(ひび)き渡り、勇者たちはそれを霊歌(ブルース)

のように復唱(ふくしょう)加速(かそく)しだした。


「ダトゥ、ケンケェ」


「ダトゥ、ケンケェ」


 彼らの言葉は、見えない()とな

って、見えない自由のために帝国

騎士団へと()ちまくられる。


 軍団の先鋒(せんぽう)同士がぶつかり合っ

た時、黒い羽織の女性が、軍団の

真ん中を突き抜けるように、(はげ)

一矢(いっし)(はな)った。


(だれ)(のぞ)んでないのに、知識(ちしき)ひけ

らかして、かしこぶってんじゃね

えよ、オッサン」


 その言葉は、初老(しょろう)()()かっ

て、(ちか)ごろ若者(わかもの)への自分語(じぶんかた)りが多

くなった臧旻へと直撃(ちょくげき)する。


 しかし、帝国騎士団の赤い兜が

その言葉を“ほぼ”遮断(しゃだん)した。


 臧旻は、とっさに言い返す言葉

が思いつかなかったが、周囲(しゅうい)(おのれ)

無傷(むきず)を示すため言葉を返した。


「えっ、何だって」


 しかし、その()(なみだ)で赤くなっ

ていた。


 言葉の暴力(ぼうりょく)はいけない。


 だが、臧旻はある事に()()く。


「ちょっとまて。あの女、(われ)らと

同じ漢語(かんご)を話しているではないか」


 確かに、鮮卑族を指揮(しき)する女性

は、流暢(りゅうちょう)な漢語を放って来ていた。


 臧旻の(こころ)に受けた(きず)が、それを

物語(ものがた)っている。


 乱戦(らんせん)の中、臧旻は彼女に力強く

質問(しつもん)した。


小娘(こむすめ)ぇ、お前は何者(なにもの)だぁ」


 その言葉を聞いて彼女はふっと

笑い、名乗(なの)りを上げた。


(どろ)水面(みなも)(はな)()く。

(さん)燕国(えんこく)、名は芙蓉、

(なん)因果(いんが)不良(ふりょう)(ひめ)さ。

蓮の姫君(ひめぎみ)とは、あたいの事さね」


「なんと、(うわさ)に聞く鴻家(こうけ)(むすめ)か」


 臧旻の耳にも彼女の噂は(とど)いて

いた。


 かつて栄華(えいが)(ほこ)った鴻家の娘が

鮮卑へ(くだ)り、復讐(ふくしゅう)の時を(うかが)ってい

ると。


祖国(そこく)()てた裏切(うらぎ)り者めぇ。

(みな)の者、あの女に天罰(てんばつ)をあたえよ」


 臧旻は敵の先制攻撃へ報復(ほうふく)(あた)

えるべく、言葉をつっかえながら、

騎士たちに攻撃の指示(しじ)を出した。


 しかし、蓮の姫君が名乗りを終

えたくらいから、帝国の騎士たち

が、ざわつき始めた。


 帝国の騎士の一人が、興奮(こうふん)して

大きな声を上げる。


「蓮の姫君ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


 臧旻は目を(ほそ)めて、その耳を(うたが)

った。


「えっ、なになに」


 一人が声を上げると(せき)を切った

ように騎士たちから歓声(かんせい)が上がる。


可愛(かわい)いぃぃ、こっち()いてぇぇ」


 騎士たちは、噂に聞く蓮の姫君

直接(ちょくせつ)見て、その偶像(アイドル)的な美貌(びぼう)

心を(うば)われてしまったようだ。


 すっかり戦意(せんい)が低下した騎士た

ちに、鮮卑族は彼らの伝統的(でんとうてき)攻撃

である”メンチ()り”を容赦(ようしゃ)なく()

り出した。


 メンチとは(おそ)らく”()いた肉の

ように”と言う意味だと推測(すいそく)される。


「チッチッチッチ」


 ()()み頭の鮮卑族の勇者たち

威圧的(いあつてき)舌打(したう)ちをしながら、

帝国の騎士たちにメンチ斬りをく

り出す。


「いかん、こちらが押されている」


 騎士たちが次々とメンチ斬られ、

戦闘力(せんとうりょく)()がれていく。


 統率(とうそつ)を失い、不利(ふり)になって行く

戦況(せんきょう)を見て臧旻は(あせ)った。


「ぐぬぬぬ、かくなる上は」


 臧旻は何やら覚悟(かくご)を決め、(よろい)

脱ぎはじめる。


 彼は上半身(はだか)になり、その老体

を寒空の(もと)(さら)し、右の(てのひら)を前に

出して大声で(さけ)んだ。


弩守来(どすこ)ぉぉぉい」


 どうやら、作戦の号令(ごうれい)のようだ。


 号令を聞いた帝国の騎士たちも

臧旻に(なら)って鎧を脱ぎ捨て、同じ

ように復唱した。


「弩守来ぉぉぉい」


 騎士たちは、一糸(いっし)(みだ)れぬ作戦行

動で、鮮卑族のメンチ斬りに対し

て、()()攻撃をお見舞(みま)いする。


「弩守来ぉぉぉい」


 騎士たちの張り手によって、

鮮卑族は馬上(ばじょう)から張り(たお)されて

いった。


「弩守来ぉぉぉい」


 騎士たちは、この日の(ため)に、

毎日、()(しょ)(はしら)()かって、

張り手を(てつ)(たま)のごとく稽古(けいこ)して

いたのである。


「弩守来ぉぉぉい」


 裸で指揮をする臧旻は、身震(みぶる)

をしながら、思わず会心(かいしん)の言葉を

発した。


「かっ、勝てるぞぉ。

やっぱりツッパリには突っ張りだ」


 鮮卑族も反撃(はんげき)のツッパリを返す

が、日々の稽古で(きた)えられた騎士

たちの四股(しこ)は、それを()(かえ)すほ

頑丈(がんじょう)仕上(しあが)がっていた。


「アッ、アネゴォ」


 たまらず鮮卑族の勇者たちは

蓮の姫君の方を()(かえ)って(たす)けを

求める。


 しかし、そこは年頃(としごろ)のうら(わか)

乙女(おとめ)、大量の男性の裸を目の前に、

彼女はその不快感(ふかいかん)から、手で顔を

(おお)っていた。


 性的(せいてき)(いや)がらせはいけない。


「弩守来ぉぉぉい」


 (いきお)いに乗った騎士たちは、鮮卑

族を次から次へと馬から(たた)き落と

して行った。


 落馬して行く鮮卑族の勇者たち。


 彼らは、うめくように民族の

霊歌(ブルース)(とな)えた。


「ダッ、ダトゥ、ケンケェ」


 しかし、その断末魔(だんまつま)のような声

は、帝国騎士団の勝利を(あらわ)したか

のようだった。


「ダトゥ、ケンケェ」


「ダトゥ、ケンケェ」


「ダトゥ、ケンケェ」


 民族の(くる)しみの声が重なる。


 鮮卑族のブルースが頂点(ちょうてん)(たっ)

た時、


 両手を(うし)()()んだ黒い

長袖(ながそで)の男が、鮮卑族の(あいだ)天高(てんたか)

きりもみ回転(かいてん)しながら(あらわ)れた。


次回へ続く。

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