表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
爆裂‼三国伝(ラフスケッチ版)  作者: 縦河 影曇
18/27

18.黄土被覆

(なん)なんですか、あなたたちは」


 頭に黄色い(ぬの)()きつけた男が

もの(すご)い顔つきで、まくし立てる。


「いやいや、こっちが聞きたいわ」


 俺は(つか)れもあってか、目の前に

立つ男に半分(あき)れた()調(ちょう)(かえ)した。


「僕の名は()(さい)黄帝(こうてい)さまの名の

もと、()(じゅつ)(しゅう)(がく)する者だ」


 男は()(しん)満々(まんまん)に答えた。


「ほほう、それで黄色の」


 黄帝さまとは、この国で初めて

()(がく)(しょ)を書き記した人物で、だい

たいの医学書には”黄帝”の名前が

(かん)されている。


「では、こちらも名乗らなければ

()(れい)だな」


 俺は緑色の仮面を外し、自分の

名を、


 男の後ろ側にあった岩の(とう)が、

光と共に(くず)()った。


「だからぁ、(こわ)すなってぇ」


 俺に同行している曹洪(そうこう)が、退屈(たいくつ)

まぎれに右手を発光(はっこう)させて岩を崩

してしまったようだ。


 彼は(わる)びれる(よう)()もなく、と言

うか、顔が見えない(かぶと)(かぶ)ってい

るので、そもそも今の表情(ひょうじょう)がわか

らない。


「これは、そんなに大切なものな

のか」


 二つ目の岩の塔を(こわ)され、半分

泣きそうな波才くんに俺は(たず)ねた。


「だぁめだぁよぉ、人が壊すなっ

て言ってる物壊しちゃあ」


 波才くんは顔を引きつらせて

()(だん)()()んでいる。


「この岩が(どう)(ちゅう)(あら)れてから、ここ

三日間くらい同じ道を歩いてる気

がするのでな」


「そっ、それは気のせいですよ。

ここは普通の潁川郡(えいせんぐん)ですよぉ」


 と言うと、彼は俺から目をそら

した。


「今なんと言った、潁川郡だとぉ、

沛国(はいこく)とは正反対ではないか」


 沛国という言葉を聞いた波才が

先ほどの涙目の表情から打って変

わって、体を(ふる)わせて笑い出した。


「いやあ、さすがに(われ)らが石兵(せきへい)

も、()(しゅう)(すべ)ては(まど)わせられません

よ」


「なにっ、石兵とな」


 波才が思わずこぼした”石兵”と

いう言葉を、俺は聞き逃さなかっ

た。


 そうこう言っている間に、また

(ひと)つ、岩の塔が崩れる音が聞こえ

た。


「なんだお前っ、さっきから無言

で石兵壊してぇ、(つら)みせろやぁ」


 波才が顔を真っ赤にして、(ぼう)()

(ふく)二号を身に(まと)った曹洪に()っか

かった。


 波才が(つば)を飛ばしながら曹洪に

怒鳴(どな)()らしていると、どこから

か声が聞こえて来た。


「波才せんせぇい」


 石兵を崩したせいなのか、うっ

すらと、人が住む(しゅう)(らく)(よう)なもの

(あらわ)れ、そちらの方向(ほうこう)から少年が

こちらへと()けて来た。


「妹が歩いたよぉ」


「そうかぁ、歩いたかぁ」


 先ほどまで(おに)(ぎょう)(そう)だった波才

の顔が、(やわ)らかな表情になった。


 泣いたり笑ったり、(まった)(いそが)しい

(やつ)だ。


「波才先生たちのおかげだよ」


「いやいや、これは医学を修学す

る者としての使命だ」


 少年は先生”たち”と、言った。


 規模(きぼ)はわからないが、波才のよ

うな医学に(くわ)しい者たちの集団が

あるのだろう。


「この子の妹は、我々の(たす)けがも

う少し遅ければ、今こうして歩い

ていなかったでしょう」


 波才が、少年の頭をなでて俺に

そう話した。


 またまた岩の崩れる音がした。


 一体、岩の塔はいくつ()んであ

るのだろう。


「くらぁぁぁ」


 波才がまたまた激怒した。


 何なんだ、この流れは。


「おまえ、(すで)に死す、(わたし)、まさに

立つべし」


 波才が(じゅ)()のような言葉を発し

曹洪に()()る。


「こっ、ここは潁川だと言ったな。

ありがとう、なんとか帰れそうだ」


 このままでは、(ひま)を持て(あま)した

曹洪がすべてを壊しかねない。


 進む方向がわかった俺は、曹洪

を引っ張って、この場から()る事

にした。


「おじさんたち、気をつけてね」


 少年がこちらへ礼をしている。


 その身なりから、おそらく農民

の子供であろう。


 それにしては、しっかりとした

礼である。


 あの集落には、波才の教育が行

き届いていおり、波才もまた、

俺たちのように儒教を修めたもの

なのであろう。


 しかし、医学は新たな発見によ

り日々更新していく学問であるの

に、それを学ぶものが、(いにしえ)のしき

たりを学ぶ儒教を修めているのは、

滑稽(こっけい)な話である。


 儒教と黄帝さまの黄色。


 まるで漢帝国を一時乗っ取った

王莽(おうもう)”のようだ。


 王莽の一派は、こう主張したそ

うだ。


「より古いものが真実である」


 彼らが国を乗っ取る根拠(こんきょ)として

(かか)げたのは、()文学(ぶんがく)と言われる太

古の学問で、書かれた時期(じき)が孔子

さまの(ざい)()されていた時代に近い

きょう(てん)の方が、新しく書かれた物よ

りも孔子さまの肉声(にくせい)に近いはずで

あると言うものだ。


 例えば、同じ”春秋(しゅんじゅう)(きょう)”でも、

左氏(さし)春秋”のほうが”()(よう)春秋”よ

り古いので、左氏のほうが正しい

と言う事になる。


 ちなみに頭についている左氏と

か公羊とかは、人の名前だ。


 王莽は古文学を用いて、皇帝で

ある劉氏より帝位を奪い、帝位を

継いだ(あかし)として黄色い(はた)(かか)げた。


 まあ王莽は、赤色の()(はた)(かか)

英雄(えいゆう)(こう)()(てい)”さまと”二十八人の

()(らい)”たちによって(にせ)皇帝として倒

されたのだが、それはこの国のも

のなら、子供でも知っている英雄

(しん)()である。


 そんな格好(かっこう)良い光武帝さまたち

"劉氏"の神話を心のなかに()め、

この国の民は”漢の民族”として

まとまっている。


 そんな事を考えながら、俺は

旅の途中、蒼天(そうてん)の屋根の下で

寝そべりながら目を閉じ、曹洪

に質問を投げかけた。


「あの子供は、波才たちのもとで

正しく大人になって行くのだろう

か」


 返事がない、彼には(きょう)()のない

話しだったようだ。


・・・・・・・・・・・・・・・


「すまない。

よく来てくれたな」


 床に伏した(しら)()の男が、ひどく

せき込みながらひとりの客人を

(むか)えた。


 筋骨(きんこつ)隆々(りゅうりゅう)、きれいに日焼けした

その客人は、頭に赤色の頭巾を巻

いている。


(ぞう)使()(きょう)()(ちゅう)(ろう)(じょう)さま、()身体(からだ)

調子はいかがでしょうか」


「よしてくれ。

私はもうただの平民だ」


 (かっ)(しょく)の客人に、臧と呼ばれた男

卑下(ひげ)の言葉で返答した。


「あの時我々は、”(はっ)(ぴゃく)()()(しょう)”に

負けたのだ」


 臧は静かに語り出した。


次回に続く。

「面白かったらブックマーク、

広告の下にある評価をよろしくお願いします!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ