Note2 新入生
天下の名門校である四大名高が一つ、武玄高校の前に立つ。
「なんで校門がこんな高いんだよ、象でも入るのかよ」
おおよそ三メートルはくだらない大きな門を前に口が開いていた。
「すごいですよね、いつ見ても大きく雄大です」
「え? あ、そうですね俺は見るの初めてだったので正直圧巻です」
「少なからずあと二年はこの校門を見ていくこととなると思いますので、次第に慣れていくと思います。私にとってはあと少しになりますが……」
にこっと小さく笑顔を浮かべる。
その姿がやけにこの世界観にあっていて自分とは別世界の住人のようにすら感じられる。
「すみません、先に聞けばよかったのですが先輩で間違い無いですか?」
「それはそれは! 私は今年で三年生になりますのでぜひお見知り置きを」
「それは失礼しました先輩」
「いいえ! また別に自己紹介の機会はあると思いますので自己紹介はその時にでも」
「わかりました」
「それでは! "此ノ島裕"くん!」
「え、ちょ! 何で俺の名前?!」
「うふふ。なんででしょう! 急がないとホームルームに遅れてしまいますよ!」
それ以上は今は何も答えませんよといったような笑顔の圧をもらった俺は渋々歩みを再開させる。
先輩はまるで風のように突如現れ、俺に疑問ときれいな笑顔を植え付けていった。
去り際まで感じられた彼女の纏う残り香、フローラルのその匂いがやけに記憶に残った。
校門から伸びる道を五分ほど歩く。
向こうからも見えていた校舎も近くから見ればより大きく見える。
それもそのはずで、俺がこれまで通っていた中学校の優に二倍はありそうな高さだけでなく、敷地的な大きさも東京ドームが軽く五個分は入りそうな敷地面積だった。
圧を感じるような校舎のその前では、俺と同じ新入生らしき装いの生徒が一つの掲示板を囲っており、一人、また一人と掲示板を見終え校舎の中に入っていく。
俺の番へと回って来たのはそれからしばらくたってからだった。
外側からみても綺麗な作りな校舎だったが、内側の方もそれはそれは綺麗で、白を基調としながらも要所要所にシャンデリアのような照明、中央のエリアは吹き抜けとなっており全フロアが見渡せ、上級生と思われるような生徒がこちらを見ている。
品定めするような視線というわけでもなくどちらかというと新入生に対する温かい視線、もしくは自らの回顧のような視線だと思われる暖かみのある視線だった。
自分のクラスは一年の五組、全十クラスのうち五番目のクラスだ。
この膨大な敷地面積な理由としてこの学校の校舎の他に生徒の住む寮が校門近くに併設されており基本的に在校生はなにかしらの問題がない限りは寮に住むことになる。
俺の場合地元からは通えない距離ということもあって、むしろありがたいお話だった。
ちなみにこれは余談だが、例年四名高はその高校の所属する近辺の生徒を集めて来るわけだが、俺が住んでいた地元から出てきた生徒というのが三名だった。
三名と聞くと少なく感じるかもしれないが、むしろこれは例外的と言えるほどの量で、むしろ俺らの地元から二年ほど前に入学者が出た際はとんでもない出来事なレベルで話が飛び交っていたのを覚えている。
今年に関していえば地元の伝書鳩等で特に盛大に扱われたのを覚えている。
そういうこともあり、地元からも入学者がいるわけであるがなにせ一学年に四百人近く在籍しているわけで、その中のどのクラスに、しかも知っているやつかも俺は知らないこともあって見つけ出せる自信がない。
特に気にしてはいなかったものの、クラスの戸を開く。何となくガラガラ音を立てて開くことを想像していたがそんなこともなくドアの下にローラーがあるせいか、サーと静かに戸が開く。
皆一斉にこちらを見るが小さく一礼をして、黒板前へと向かう。
「えーとえーと」
黒板に貼られた座席表で自分の席を探している女子を横目に見ながら自分の席を探すと俺の人差し指と彼女の人差し指が不意に交差する。
「「あっ!」」
俺の指は一番右から二列目、教室の後方入り口のすぐ近くの席。続く彼女はその右手側、教室最後方で一番右の列、つまり俺の右隣の席。
お互いの目線が重なる。
「……」
「……」
三秒ほどしっかり目があった後小さく彼女は頷く。
「よろしくね、此ノ島裕くん!」
「ああ、よろしく尾道遥さん」
教室後方にある席まで俺と尾道さんは移動する。
ホームルームまでのしばしの間歓談に興じる。
こんばんは音の葉です。本日二話目の更新となります。
あと数話に関しては学園チックなお話が続きますが、もう少し続きますと本格的に此学園の中身に関わってくるお話となりますので是非お楽しみに。