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生前の記憶を手に入れた貴族の少年、異端へと至る  作者: トキサロ
第1章 その悪童、転生者につき
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#8-悪童、大会で無双する-

6話目の投稿を忘れて7話目の投稿をしていたので、修正という形で掲載。この話から2話前まで見てくれると助かります。純粋にミスしました。ごめんなさい。

 大会当日。ベイルが会場に着いた時、周囲から注目を浴び始めてしまうが本人は黙々と作業をし始める。今は機体の最終調整を一人で行っているところだ。

 通常、大きさに比例して作業する人間の人数は変わるが、それでも一人で作業をすることはかなり難しい。それを淡々とこなしているベイルは人としての性格も含めどこかおかしいのだろう。実際、エンジンなど含めて大して科学技術が発展していない今、ジーマノイドを箱に入れて空から現れるのはベイルくらいだろうが。


「よぉ、ベイル。まさかお前がこの大会に出るとは思わなかったぞ」


 そう言いながら現れたのはジョセフ・クリフォード。ベイルはちょうど作業を終えてコックピットから降りてきたところで姿を現す。


「何の用?」

「何の用とは連れないだろう。これでもワシはお前の曾祖父なんだ。少しは会話というものをだな」

「別に俺、アンタと会話をする仲でも無いじゃん」


 呆れた様子を見せるベイル。その態度に苛立ちを見せるジョセフだが、ベイルからしてみればもう敵以外の何者でも無かった。


「それにしてもこの施設、どこで手に入れた? また王家に献上しておらんのか?」

「何でもかんでも献上することしか頭にないロートルと一緒にするなよ。物の価値が理解できない馬鹿が派手に壊したけどさ」


 冷たい態度に我慢できなかったのか、ジョセフの近くにいた少年が剣を抜いた。


「貴様! さっきから偉大なるお方に対してなんだその態度は!」

「偉大? 俺からしてみればそのジジイは単なる痛いジジイだけど。現にこいつが献上した機体も、報告したわ良いけど未だにバトルシップって呼称されているアレも動かし方を理解できずに回収できていないんだろ?」

「そうじゃ。その事で話があったんじゃ」


 ジョセフはベイルに顔を近づけようとしたのでベイルは反射的にジョセフの首に踵落としをかまそうとしていたのでジョセフは慌てて回避した。


「な、何をするつもりじゃ!」

「ん? 邪魔だから死んでもらおうかなって」


 軽く答えたベイルに対して少年が叫ぶ。


「いい加減にしろ貴様ァ!!」


 サーベルでベイルを斬ろうとしたが、その前に地面から生えた鎖で拘束される。


「祭り気分で浮かれるのは良いけど、決着は試合で決めような。って言うかさっきから目障りなんだけどお前、誰?」

「貴様、私の事を知らないというのか!?」

「そりゃあ強くもない奴の名前なんて知られるわけないじゃん。頭、大丈夫?」


 断言したベイルにさらに怒りを露わにする少年。


「黙れ! 私はニコラス・クリフォード! 偉大なる騎士にして侯爵家を導いたジョセフ・クリフォードの曾孫にして私たちの世代における後継者だ!」

「ふーん」

「まるで興味が無いと言わんばかりだな!」


 ふと、ベイルはある事を思い出してポケットの忍ばせていたトーナメントの組み合わせを確認する。そこには「ニコラス・クリフォード」と記載されていた。


「なんだ。一回戦の相手か」

「いや、他にも表現するところはたくさんあるだろ!」

「ただ侯爵家に生まれたってだけだろ。それがどうしたの? それとも他の貴族たちと無駄に舐めあいする必要がある事に対して哀れみを向けた方が良い?」


 顔を引き攣らせるどころか平然ととんでもない事を言い切った。


「だ、黙れ! 貴様は我々でなく貴族社会すべてに対して喧嘩を売るつもりか!?」

「……ちょっと待てニコラス。それは間違ってるぞ」

「何だ。あとお前は男爵だろう。侯爵の令息である私には敬語を―――」

「そもそも俺と対等に戦える奴がヒドゥーブル家以外には貴族社会にいないから喧嘩にならない」

「そういう問題では無いわ!!」


 根本的にベイルと他の令息たちでは考え方が違い過ぎた。


「いい加減にしろ貴様! 家族が大事じゃないのか?!」

「そんなことよりもちゃんと遺書を書いておけよニコラス。あとお前の死因はそこにいるお前が無駄に尊敬しているハイエナジジイだから」

「貴様、いい加減にしろ! 一体ここがどういう場所かわかっているのか!?」


 それを聞いてベイルはニコラスの胸元を掴む。


「テメェこそ、ここがどういうことかわかってるのか? 下らねえ権力な口喧嘩をする為じゃない。自分の技能、想像、ロマンを命をかけて競いに来てんだよ。何しに来たのか知らんがとっとと失せろ。俺がこの会場にいるすべてを破壊する衝動に駆られる前にな」


 ニコラスはそれを聞いて怯む。ベイルは乱暴にニコラスを離し、そのまま踵を返して数歩歩いた後、ジョセフに言った。


「テメェが何を企んでいるのか知らねえが、俺はまだ五百年もジーマノイド技術を発展させなかった奴らにアルビオンを渡した事を許しちゃいない。精々そのカスが死なねえように祈っておけ」

「お前こそ、そんなことしたらどうなるのかわかっておらんようじゃな」

「知った事か。どうせこの大会、俺の優勝は決まっている」


 そう宣言したベイル。他の者はベイルの言葉を聞いてムッとしたが―――その言葉の意味をその後に知る事になる。





 時間になり、ベイルとニコラスがそれぞれのジーマノイドで入場する。

 ジーマノイドが活動できるように大きめに設定された闘技場。そこには細身でブースターを取り付けただけのニコラスの機体に対して、両肩にそれぞれ四門の砲台を付けた砲撃型の機体が立っている。


「試合、開始!」


 ニコラスの機体が仕掛けようとした瞬間、ベイルは両肩の砲門でニコラスの機体に発射。すると操縦者の魔力によって放たれる魔砲が機体をかすめた。かすめたのだが、そのかすめただけの威力でニコラスの機体の一部が吹き飛んだのだ。

 それによってニコラスの機体はバランスを崩して倒れる。


『お、おい、動け! 動いてくれ!』


 ちょうど右腕、左足が吹き飛んだ事でバランスを取れないニコラス。そこにベイルは自分の機体を近付かせる。背部から二本の大型ブレードがアームで持ちやすい場所に移動してベイルの機体はそれぞれ一本ずつ持った。


『お、おい! ちょっと待て! 何をするつもりだ! 私は侯爵家の人間なんだぞ! そんな人間に危害を加えればどうなるのかわかっているのか!?』

『さぁ?』

『さ、さぁって……』

『だってどうでもいいもの』


 ハッキリと言ったベイル。


『そもそも何でこの程度の事で怯えているのさ。その程度の実力しか持っていない雑魚がここにいるのさ。さっきも言ったと思うけど、ここは自分の技能と想像、そして命を賭ける場所だ。そして何より、俺に爵位が通じると思うなよ』


 ベイルは再び両肩の砲門をニコラスの機体に向ける。誰もが戦慄する中、アナウンスが響いた。


『ニコラス・クリフォード、棄権信号を確認しました。よって勝者、ベイル・ヒドゥーブル!』


 そう高らかに宣言されることでベイルは舌打ちした。ニコラスも驚いている様子でスピーカーから『え……え……』と戸惑った声が聞こえてくる。

 ベイルは機体を振り返らせてそのままピットへと戻して降りた。近くにある端末を操作してスキャンさせ、異常が無いかを確かめさせる。そんな時、ジョセフがベイルの前に姿を現した。


「お前は一体何がしたいんだ?」

「別にアンタが知る必要はないさ」


 ベイルがそう言うとジョセフはベイルに掴みかかった。


「そんな事を続けて見ろ。いずれお前の家族が狙われる。そんなこともわからんのか、お前は!」


 その言葉にベイルは鼻で笑う。


「ウチの面子でそんなことができる奴が何人いるか。精々大量投入してようやくポーラやシルヴィア辺りが落ちるぐらいだろ」

「ジーマノイド相手だとどうするつもりだ?」

「俺がすべて落とせば良い。それだけだ。それにそもそも、貴族なんざ最初から物の数じゃない。そうじゃなければあのパーティ会場でたかが魔族が攻めてきただけで我先に逃げ出そうとする奴はいないからな。これで満足か負け犬」

「どういうことだ?」

「お前だろ、あのカスが殺されそうになって棄権したのは。まぁ、お前じゃなくても結局クリフォード侯爵家は男爵家に降伏するような腰抜け一家だと露見させて良しとしてやるよ。とっとと帰れ、腰抜け」


 明らかに大人に対する物言いじゃない。まさかと思って駆け付けたラルドたちの目の前でジョセフはベイルを殴ろうとしたが、それを察知していたベイルは攻撃を回避した後にジョセフの胴体を自分の全身をバリアで覆った状態で右腕で貫いた。

 ベイルの腕が身体を貫通し、背中から飛び出す。ジョセフは口から血を吐いてベイルの顔にかかるがバリアが阻止する。


「く……クソが……」


 倒れようとするジョセフから腕を抜いたベイルはマジックバックからポーションを五本出してジョセフに流す。するとジョセフの傷が回復していった。

 騒ぎを聞きつけたのか騎士やウォーレンが駆けつけて来る。ベイルは用は終わったと言わんばかりその場から離れようとするがラルドがベイルの腕を掴んだ。


「お前はどこまでやらかせば気が済むんだ!」

「やらかす? キッチリ命まで繋ぎ止めてやったんだから文句ないだろ。もっとも文句を言われる筋合いも無いけどな」

「そういう問題じゃないだろ!」

「そういう問題だよ。どっちにしろ最初からウザかったんだからいずれこうなっていたさ。ミンチより酷い状態で殺してやらないだけ温情ものだろうよ」


 会話内容に戦慄する周囲。ラルドもまだ十歳の息子から出て来る言葉に驚きを隠せなかった。


「いい加減にしろ、この馬鹿息子が!」


 そう言ってラルドはベイルを殴ろうとするもベイルはいなした。


「もう良いかな? そもそも向こうから仕掛けた事でこっちはむしろ正当防衛なんだし、次に向けて偵察もしたいんだよ」

「て、偵察って、お前は一体何を―――」

「俺は優勝する為にここにいる。そしてこの大会の優勝はあくまで今のこの国のジーマノイド技術がどれだけ遅れているのかの証明させるため。このままだと俺たち、魔族に襲撃されて終わるよ」


 ベイルの言葉に驚きを隠せなかったラルドはその場で立ち尽くす。その後ろからウォーレンがベイルに声をかけた。


「待ちなさい、ベイル君」

「……何です? さっきも言いましたけど忙しいんですよ」

「君は本当に勝てると思っているのか?」


 その問いを聞いてベイルは思わず笑った。その対応を不快に感じたのだろうか、ウォーレンを少し苛立ちを見せる。それを感じていたのかベイルは相手が王であるにも関わらずハッキリと言った。


「逆に教えてくれ。こんなにも使えない無能共を抱える王の気持ちをさ」

「……何?」


 ベイルの言葉に反応したのはウォーレンだけじゃない。他の貴族たちも反応した。


「それとも何? 他の奴らだって随分と頑張ってくれている? だからそんな事を言うな―――なんて興ざめな事は言わないよな?」

「……だが貴族となる者は王国に対して益をもたらしている。その者たちを無下には―――」

「九割だ」

「……何がだ」

「今後魔族の襲撃が続いたとして死亡する王国民の割合」


 その言葉にその場にいる全員が笑いそうになったが、ベイルから放たれた殺気で全員が黙った。中にはその殺気で漏らした者、気を失った者と様々である。


「お前だって見ただろ。魔族が来たからと言って逃げる貴族たちの哀れな姿を。むしろあの程度の数で逃げるなど弱者の証。性別を、権力を、爵位を言い訳にして鍛えて来なかったゴミたちの末路。祖先が優秀だとしても、その末裔がゴミじゃ同じ。それでもお前はまだ、周りを庇うのか?」

「………」


 沈黙し、答えないウォーレン。ベイルもすぐに答えを要求するつもりは無いのかそのまま踵を返した。


「返事は不要だ。元より俺はもう、お前ら王侯貴族に大した期待はしていない。別に俺だけなら魔族を相手などどうとでもなるからな」


 それだけ言ったベイルはそのまま自分の格納庫に向けてリモコンを操作し、シャッターを下ろして外に出て行った。





 少し離れた場所で相手を観察するベイル。


「随分とつまらなそうに見ているわね」


 ベイルに近付いて行くアメリア。そんな彼女にベイルは本性を隠さずに話しかける。


「何の用?」

「……もう偽るつもりは無いのね」

「ああ。偽る必要もない。いくら権力が何だと言っても所詮お前が俺を捕まえるわけじゃない。違うか?」

「……そうね。私があなたを殺そうとしても返り討ちに合うだけだもの」


 それを聞いたベイルは妙な反応を見せる。


「それにしてもどうしてあんなことを言ったのよ。それも相手は―――」

「人手不足なんだよ」

「人手不足?」

「この国は……いやおそらく、ジーマノイドの自爆特攻で得た五百年の平和でこの国以外の人間国家はすべて衰退している。このままでは九割の人類は殺されるだろうな。下手すれば王侯貴族はすべて」


 どこか確信を持っている風にベイルは言うと、アメリアは驚きを隠せない。


「この前、あの馬鹿王子がアルビオンを壊した時に俺に襲って来た奴らがいたが、アイツらでは全く話にならない。正直シルヴィアの方が強いくらいだ。こっそり王宮内を探ったが宮廷魔導士だったか? アイツらは話にならない」

「どうかしら? 宮廷魔導士は魔法使いたちの中でも選りすぐりの存在しかなれないのよ? もしかしたら実戦では―――」

「でもあれくらいだったら王宮ごと消し飛ばせれるよ」


 そう言ったベイルにアメリアは顔を引き攣らせる。


「最高でも精々多く見積もって俺の四分の一程度の魔力しかない奴なんて基本的に相手にならないし。全く。野蛮だなんだとほざく位なら少しは強くなる事に力を入れてもらいたいものだ。どうせ貴族なんて無駄に奸計巡らせるぐらいしかやる事ないんだから、午前中ぐらい全力で身体を動かせばいいのに」

「他にもやる事あるわよ。あなたは軽視しているけど当主は領民の事とかも考えなくちゃいけないんだから」

「でも大概の災害は同様の力をぶつければどうにかなるし、豪雨や雷雨とかはそれこそちょうどいいトレーニングに―――」

「普通の人間は豪雨や雷雨でちょうどいいトレーニングならないのよ」


 呆れを見せるアメリア。


「それは諦めが早いだけだよ。雷が降った時にはそれをぶつければ良いし、風が邪魔なら同じ力をぶつければ良い。簡単だし、それができない癖に魔法使い名乗っている奴は頭がおかしい」

「それができる方が頭がおかしいから。宮廷魔導士からしてみればあなたなんて災害よ、災害」

「でもそれくらいしないと……いや、それくらいしても魔王を倒せなかったんだよね。改めて考えれば軽くへこむよ」

「……はい?」


 驚いてベイルを見たアメリア。ベイルはベイルは他人事のように話をする。


「しかも最終形態でも生きてるんだよ、魔王。公爵とか言ってた奴はヌルゲーだったわけだ」

「ちょっと待ってよ。魔王と戦った? 本当に?」

「そうじゃなかったら俺がこんな俺らしくない事ばかりするはずない。何で俺が周りの意識を変えないといけないんだよ。あの時十分に貴族も騎士団も醜態晒しているんだから意識変わってくれれば良かったのに。ただでさえ雑兵現れた程度で慌てふためいて邪魔ばっかりして、何でああいう奴らは自分の存在を恥じてくれないのかね。おかげであの子を助けるのがギリギリになったんだから。いっそ間引くか」

「ああ、あれって演出でもなんでもなかったのね」

「当たり前だろ? あんなに可愛いのに見捨てる方がどうかしている」

「え……?」


 アメリアはベイルの顔を見た。その言葉を真意を測るためであるのだが、ベイルは感想を述べているだけで真意は大したものではない。


「も、もしかして、カリンの事が好きなの?」


 そこで自分がどんな発言をしたのか理解したベイルは顔を赤くした。


「いや、愛しているとかそういう意味じゃねえよ? 勘違いするなよ?」

「じゃあどういう意味があるのよ?」

「そ、それはその……」


 慌てふためくベイルに対してアメリアは何故か胸が締め付けられる感覚に陥る。

 ベイルは絶対にこれ以上口に出すわけにはいかない。甘えてくれたら最高なのではないか、などと思っていたと。


「もしかしてカリンに対して不潔な想いを抱いているとか?」

「それは無い」


 真顔で答えたベイル。何故かアメリアには「むしろそれを抱くクズを殲滅するが?」と聞こえて来たのでこの件はこれ以上踏み込むのは止めたが、ベイルはその少し後に顔を赤くした。





 あの後、プログラムは予定通りに進んでいった。ベイルは敵対する貴族に一切臆さずに彼らの努力の結晶とも言うべきジーマノイドたちを破壊していったのだ。彼らにもなんらかの思いはあっただろうが、ベイルはわかった上で破壊していった。彼らや周りはベイルに憎しみの視線を向けるが、直接攻撃をしない。したところで物理的に潰されているのは目に見えているのでやれないのだ。

 そんなベイルの決勝の相手は意外な人物だった。


『………何でいるんだ?』


 騎士のようなジーマノイドにはグレン・バルバッサが乗っていた。


『君がこの大会で出場すると聞いてね。私も参加する事にした』

『あんた、長男だろ』

『公爵家の跡取りだからと敬遠させられるけど、ジーマノイドは好きでね。君が機体を奪って騎士団とやりあったと聞いた時は羨ましく思ったよ』

『………いや、羨ましく思うなよ!?』


 とんでもない事を口にしたグレンに思わずベイルは突っ込んでしまった。


『君の言動はともかく、これでも私は君は感謝しているよ。だから今度は君の期待に応えるとしようとしよう!』


 試合開始と共にグレンは自分の機体をブレードを抜きながら突っ込ませる。ベイルは敢えてそれをブレードで受け止めた。


『その砲台は使わないのかい?』

『好きだと言えるぐらいには動けるようだから使う必要性が無いと思っていただけだ!』


 そう言いながらもベイルはブレードで相手を使用とするが、内心困っていた。

 そもそもグレンはいずれ公爵を継ぐ立場にあり、この前の態度はともかく今後は指揮していく立場にある。こうまで気概がある者を簡単に失わせるつもりは無かったベイルは対応に困っていた。


(どうせ大した奴は出ないと思っていたからチェックを怠っていたな)


 というよりもこの大会の特性上、まずその家の長男は出てこないと踏んでいたのでグレンの登場は完全に予想外だったのである。


(……まぁいい。次期後継者を倒したとなれば流石に面倒な事になるだろうが、意識を変えさせる為ならば)


 実力的にも意外な事にベイルに少し劣る程度。そんな状況ならばとベイルは少し本気を出し始める。

 グレンの方から振り下ろされるブレードを捌き、攻め手を増やしていく。グレンも攻め手を変えようとしたところですかさずベイルは回し蹴りを叩きこんだ。


『そこまで動けるジーマノイドが出て来るとはね』

『そちらのOSと技術が遅れているだけだ』

『はっきりと言ってくれる。今度は是非、ジーマノイドの談義で花を咲かそうではないか!』

『どうせ俺の談義に圧倒させるのがオチだろうよ!』


 周りはベイルの戦い方についていけているグレンに歓声を上げ、盛り上がっているところにアメリアの後ろに急に黒いフード付きのコートを着た誰かが現れた。

 その事に気付いた人間が声をかけようとしたが、先に倒される。


「ついて来てもらうぞ」


 その誰かにアメリアは後ろから抱きしめられ、どこかに連れて行かれる。アーロンが立ち上がって追おうとしたが短剣のようなものを投げられて怯んだ。


「待て! 娘をどこに連れて行く気だ!」

「生憎私はこの辺りの地名に明るくないのでな」


 その時、騎士たちが現れて攻撃しようとするが、相手はアメリアを前に出して盾にする。


「ひ、卑怯だぞ!」

「卑怯? そんなことで攻撃を躊躇うのか。下らないな」

「何?」


 その存在は目の前にいた騎士の前に出ると騎士を胴体を貫いた。


「……え?」


 目の前で行われた事象に理解が追い付かないアメリア。


「随分と柔らかい装甲だな。人間はその程度のものしか持たないのか?」

「き……さま……」


 その時、鎌鼬がアメリアを避けて襲い掛かる。当たったのは当たったが服が破けただけ。そこから彼の正体は明かされる。


「ま、魔族?」

「ふん。バレてしまっては仕方ない。この娘はもらい受ける」

「待て!」


 アーロンが飛び出そうとするが、それよりも魔族は素早く、邪魔する者は容赦なく潰していった。


「や、止めて、もう―――」

「諦めろ」


 そう冷たく言い放った時、彼らの耳にある事が聞こえて来た。


『ベイル・ヒドゥーブル、棄権する』




 その異変はベイルの目にも入っていた。だが位置的に見えていないのかグレンは攻撃を仕掛けて来る。


『どうした? 何故君は攻撃しないんだ?』


 受け身なベイルに疑問を抱くグレン。その時後ろで騎士が一人、相手に突き刺されていた。


『……あの程度、捌けないのか』

『え?』


 ベイルは攻撃をいなし、エネルギーソードを抜いてその場で素早く回転。グレンの機体の四肢が切断されて胴体が地面に落下した。


『くっ……君の勝ちだ』

『ベイル・ヒドゥーブル、棄権する』

『え? ちょっと待って―――』


 ベイルは機体を反転させて両肩部の砲台を上空に展開されるバリアに向けて発砲。ちゃんと障害物が無い事を確認した上で発射しており、穴が開いたところでベイルは機体から外に出た。


『ま、待つんだベイル君!』

「悪いな、それどころじゃないんだよ」


 そう言い残してベイルは背中から翼を生やして穴が開いたバリアから外に出ていく。その姿を見てグレンは少し悔しく思っていた。

 少しした後に周りが騒がしい事に気付いた。そこにカメラアイを確認すると視線に気付いたのか近くにいたマリアナがグレンの機体を見てそっちに杖を向けてアメリアが魔族に誘拐された事を伝える。


「……そういうことか」


 コックピット内で笑うグレン。ベイルがあそこまで慌てた理由がわかったのだ。


『審判、さっきの棄権判定を取り消してくれ』

「で、ですが―――」

『悪いが私ではあの機体を止める事は出来ない。まぁ、四肢を切断された時点で負け判定されていたとでも言えば良いさ』


 グレンは機体をピットに移動させながら少しベイルのことを考えていた。


(………殿下、不憫だな)


 元々親同士が結婚。貴族では別に珍しい事では無いが、下手すればずっと王太子殿下はアメリアにベイルとの差異を比べられてしまう。粗暴ではあるが戦闘力が高く魔法も武闘も自在なベイルでは一人の女としてはそちらの方が目に映るだろう。特にアメリアは公爵家。大きな差はあれど王家とそれほど差が無い教育や立場にいる事になるだろう彼女にとって自分が持てない能力を持つ人間は魅力的でもあった。


(王族はさぞベイル君を囲いたいだろうな)


 結果として自分以外の機体を大破させ続けて来て、挙句に一般的なジーマノイドでは破壊できないはずのバリアを破壊してそこから飛び出た。これを機に宮廷魔導士の選別方法も今後の教育も変わっていく。グレンはそんな予感を抱いていた。

簡潔にまとめると、ベイル君は粋っていたのにアメリアちゃんを助ける為に優勝を捨てました。

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