#7-悪童、王太子の破壊を思い留まる-
8話目を投稿しようと思って準備していると1話飛んでいると気付いて慌てて19時に割り込み投稿しようと思ったけど、できないので編集という形で6話掲載。
5/23以前に読んでくれている人は6話目(投稿数的に7話目)から読み直してください。お願いします。
PV稼ぎじゃないですよ。純粋に抜けていただけですよー。
ベイルがそのダンジョンから戻ってきたのは侵入してから一週間後の事だった。
急遽魔族の少女を育てる事になった事もあり、体調等には気を遣っていたのだ。
「しばらくの間、留守にするけど大人しくしろよ」
「うん! ちゃんと勉強する!」
「よし。それで良い」
自分よりも背が小さく良く懐く少女に心を開いていたベイルはあの施設の前に着いて驚いた。
機械の壁があったところはまるで外から爆発したみたいに吹き飛んでおり、破片が中に転がっているのを見つける。それをもっとよく見ようと近づき、準備されていた柵を越えて中に入ると中にいた作業員が止めに入る。
「ちょっとちょっと! 何入ろうとしているんだ!」
ベイルを止めようとするが、その前に近付いて来た作業員を反射的に殺そうとしたところで真紅の槍が妨害した。
「ロビン兄さん」
「お前、何するつもりだった?」
「邪魔だから消すんだよ」
冷たい眼でそう言い放つベイル。明らかに殺そうとしていた眼であり、兄であるロビンに対しても向けていた。邪魔をすれば殺すと言っているようでロビンは油断できない。
「ガキ、お前自分が何を言っているのかわかっているのか?」
大男がベイルに近付く。彼なりに威圧感を放っているが、ベイルが大男を見た瞬間、大男は怯んだ。
(こ、これが、子どもが出す殺気か……?)
明らかに異常すぎるソレにたじろぐ大男。ベイルはある事を思い出して辺りを見回すが、そこにはあるはずのものが無い。
「兄さん、アルビオンは? 俺が手に入れた魔族のジーマノイドは?」
「……その事なんだが、今王宮にある」
「は?」
ベイルはロビンの襟元を掴み、持ち上げた。
「何で? 何で王宮にあるのさ? 俺のだよ? 俺が先に見つけて研究していたんだよ? ちゃんと馬鹿が運良く見つけても俺が見つけたって表示もしていた。研究中である事も示していた。それなのに、持ち出した? 誰が?」
「ジョセフジジイだよ。アイツが俺たちに黙ってここを爆破して、見つけたって言って王宮から人を派遣させたんだよ」
それを聞いたベイルはすぐさまどこかに行こうとするのでロビンはベイルの左肩を掴んだ。
「おい、どこに行くつもりだ!」
「王宮」
「お前、自分がこれまでした事をわかっているのか? 今度王宮に攻め込んだら無事じゃ済まないぞ!」
ロビンの言葉にベイルは本気で鼻で笑った。
「それがどうしたの?」
「は?」
「俺の愛機を奪っておいて生かす方が問題だ」
そう言い、ベイルは翼を生やして王宮の方へと飛んでいく。おそらくそのままジョセフを殺してくるだろうというのは容易に想像できた。
(………喪服、あったっけ?)
そんな事を考えるロビン。半ば諦めながら山を下りて家族に連絡すると、大半が「やっぱり」と納得していた。していないのはリネットぐらいだが、フェルマンはどこか諦めていた。
「ちょっと、どうにかした方が良いって!」
「あー……もう無理だろ。それに正直、ちょっとあのジジイはやりすぎなところあったし、ちょうど良かったんだよ」
「ちょ、ちょうど良かったって……最悪クリフォード侯爵家と戦争なんて事になったら一家殲滅とかあり得るかもしれない……できるのかしら?」
リネットは前の戦闘を思い出す。両親はもちろん、ベイルやマリアナという主戦力を欠いた状態でも彼らは立派に戦闘を行っていた。それどころか訓練された騎士団相手に圧勝な上、ジーマノイドを強奪するという功績すら見せている。
そのジーマノイドは今の所、ヒドゥーブル家に対する処分の話し合いが難航しているという事もあってか返却は求められていないので簡単な整備をして放置をしていた。
「まぁ、今マリアナやラルド、シルヴィアも向かっているし大丈夫でしょ」
楽観的に言うレイラを見てリネットに不安に感じる。だがレイラは特に気にする事にお気に入りの紅茶を飲むのだった。
サイラス・ホーグラウス。彼はホーグラウス王国の王太子――つまりは次期国王になる事がほぼほぼ確定している。
だが最近彼には思うところがあった。果たしてこのまま、周りが敷くレールに乗ったまま過ごして良いのだろうか。そんな疑問が尽きなかった。
そう思う様になったのは、自分と同じ歳でありながらたった十歳でドラゴンを倒したベイルと会ってしまったからだろう。
そんな折、世界で初めて空中を自在に飛ぶジーマノイドが発見、王家に献上された。それを聞いてサイラスはいてもたってもいられずに乗り込んだのである。
(これを自在に操れるようになれば、私もあの男みたいに……)
誰にもバレないようにアルビオンに乗り、起動させる。既に教えられているジーマノイドの操作方法を行いながら歩き始める。
「あ、アルビオンが動いているだと!?」
「い、一体誰が動かしている!」
「た、退避! 退避ぃ‼」
整備士を殺さないように移動し、格納庫から出る。そして左のペダルでジャンプをすると同時に操縦桿を前に倒すと同時に右のペダルを踏みこむと空を飛んだ。
「これが、空を飛ぶ感覚……」
ベイルを始め、ヒドゥーブル家の人間の半分が行っている飛行。それをジーマノイド越しとはいえ体感していたサイラスは喜んでいた。まるで今が不可思議な、地に足を着いて歩くことが不自然だとすら錯覚する感覚を味わっていた。しかし無情な事に突風が吹き、アルビオンはバランスを崩してそのまま落下をし始めた。
サイラスは急いで体勢を整えようとするが、間に合わずに騎士団の屋外訓練場に突っ込む。
突然見た事が無い機体が降って来た事に驚いた騎士団。しかしアルビオンから爆発が起こり、すぐに消火活動と救助を始める。
騎士たちはコックピットハッチを外部から開き、中にサイラスがいると知って慌てるも可能な限り迅速に救助を進める。コックピット内部も既に火花が散っており、爆発するのは時間の問題だと感じた。
サイラスはなんとか救助され、駆け付けた宮廷医師に容態を確認されていた。
「特に問題は無さそうに見えませんが、念の為数日は安静にさせてください。内部にあるクッションに助けられましたね」
その言葉に周りは安堵する。ちょうど事態を聞き、姿を現したウォーレン。医師に挨拶をして容態を聞くと安堵したが、それでも王として話を聞かなければいけないと思いサイラスの所に来た。
「何故こんな事をした。ヘルメットもつけずに未知の兵器を乗り回すなど」
「………強くなりたかったんです」
その言葉に驚いたのはウォーレンだった。
「何を馬鹿な。お前は自分に付いている師匠に何か不満でもあるというのか?」
「不満はありません。……ですが、このままでは少なくともベイル・ヒドゥーブルを超える事などできません!」
確かにそうかもしれないが、ウォーレンの見解としては別にそこまでする必要はないだろうと思っていた。あの強さは異質、およそ人間と同列に考えて良い類いのものではない。
そう説明しようとした瞬間、ウォーレンは自分の後ろからとんでもない殺気を感じて振り向く。そこには―――あのベイルがいた。
ベイルはアルビオンの惨状を見て顔が無になっている。
「……君、一体どうやって―――」
するとベイルは後ろから蹴られ、倒れてしまう。
「この、クソガキが!」
「お、おい、何をやっている」
ウォーレンが兵士に話しかけると兵士が驚きながらも答える。
「この体勢で失礼します! この者が王城に侵入したので捕縛しました!」
「そ、そうか……」
ウォーレンはある事に引っかかる。そう、それはベイルがあっさりと捕まった事だ。何の抵抗もせずに動こうとすらしない。そして今もだ。
「失礼します。この者を連れて行きますので」
「あ、ああ……」
兵士はベイルを無理矢理立たせてどこかに連れて行こうとしたがベイルはまるで地面に根を張ったかと言わんばかりに動かない。兵士はどうにか動かそうとするが、うんともすんとも言わなかった。
見かねた他の者たちがベイルを動かそうとするがそれでも動かないので殴ると、相手を見ないでベイルは殴った相手を文字通り殴り飛ばして壁にめり込んだ。
「邪魔」
ベイルは目の前にいる、ベイルを捕まえ連れて行こうとした兵士を退かす為に押すとそのまま城壁にぶつかる。ベイルは一切気にせずそのまま入口の方に向かう。
「あのガキを止めろ!」
誰かがそう叫ぶと、騎士たちはベイルを捕まえようとするが、それを上から振って来たバリアが阻んだ。
「お兄様、何をしているの?」
ベイルを「兄」と呼ぶ唯一の存在―――シルヴィアが到着したのだ。ベイルは一度シルヴィアを見た後、少ししてまた歩き始める。そんなベイルを追うためかシルヴィアは降り、付いて行った。
「お、おい、待ちやがれ―――」
シルヴィアを捕まえようとした兵士だが、シルヴィアは地面から蔦を生やしてその兵士を捕まえ、動けなくした。
「放っておきなよ、そんなの。相手にするだけ時間の無駄だ」
ベイルの言葉に反応したのは騎士たちだ。彼らは剣を抜き、二人に襲い掛かる。その時ベイルは背中から翼を生やしてその翼から高威力の風魔法を放って吹き飛ばした。
「これは何の騒ぎですか!」
ちょうど翼を閉じたタイミングでアイリーンが姿を現す。ベイルは目的を達成したので興味を無くしてそのまま去ろうとする。
「待ちなさい。あなた、ベイル・ヒドゥーブルですね?」
しかしベイルは足を止めない。シルヴィアは内心驚きながらもベイルに付いて行く。
「ま、待てと言っているのです! 聞こえないのですか!」
だがベイルは一切足を止めなかった。普通ならば足を止めるというのにベイルはそんな事をしない。すると業を煮やしたのかアイリーンが騎士たちに命令する。
「あの子どもを捕まえて私の前に連れてきなさい!」
騎士たちはベイルを捕まえようとして迫るが、シルヴィアの近くにいたベイルは小さく呟いた。
「フレイムピラー」
騎士たちの足元から火柱が噴き出す。騎士たちは足止めをされてしまいベイルたちはその間に姿を消していた。
「な、何をやっているか! 今すぐあの少年を―――」
「もう良い」
アイリーンをウォーレンが止める。
「ですが陛下! あの子どもは私の命を無視して―――」
「落ち着けアイリーン。他の者たちも通常の作業に戻るといい。決してあの少年を追おうとするな」
ウォーレンの言葉に返事をした騎士たちはそのまま作業に戻る。アイリーンは不服そうだったが何も言わない。
その様子をウォーレンの娘であるシャロンが見ていたが、ため息を吐いていた。
(残念。あのまま暴れてくれたなら良かったのに……彼も期待外れという事かしら)
ベイルに対する評価を下げるシャロン。これ以上は関わる事は無いと判断して内心切り捨て、他の有力の存在を見つけようとする。だが彼女は知らないのだ。この時ベイルもまた、王家を見限ったのだと。
ベイルが門前にシルヴィアと共に出て来た。ちょうどその時、ラルドとマリアナ、ベイルが暴れる事を見越して止める為に先に来ていたアメリア、ジェシカ、グレンが到着する。
「ベイル君、まさかもう―――」
グレンに声をかけられたというのにベイルは一切反応しない。普段ならグレンに対しても笑顔を向けるのに今のベイルはそれすらしなかった。
そのままどこかに行こうとするとラルドがベイルの肩を掴んだ。
「いい加減にしろ、馬鹿息子が。相手が誰かわかっているのか?」
「………」
しかしベイルは答えない。ラルドが一発殴ろうとした時にラルドは動けなくなった。
「だったら俺の事なんて追放でもなんでもすれば良いだろ」
そう言ったベイルに驚いたのは周りだった。十歳の少年が追放を口にしたのだ。
「高が十歳の子どもが親の援助なしに生きていけると本気で思ってるのか?」
「別に俺は生きられるさ。そんじょそこらにいるガキと一緒にするなよ」
明らかな挑発。今にも一触即発な雰囲気になっているがそれを止めたのは意外にもグレンだった。
「そこまでですよ、お二人とも。それにベイル君、君にどこかに消えられては困ります」
「別に困りはしないでしょ」
「君もわかっているでしょう? 近々、魔族と衝突する気配があります。そこに君がいなければ―――」
「自分よりも遥かに年下のガキに頼らないと戦えない家や国家なんざ滅べばいいさ。元から大した存在価値なんて無いんだから」
そう言ったベイルはどこかに行こうとするが、グレンが先に肩を掴んだ。
「何故君はそうまで悲観的になれるのです? 正直、私は君の事を尊敬していましたよ。人間で、あそこまで戦える者はそういません。だからこそ君はアメリアと共にいるのが正しいと―――」
そこまで聞いたベイルは噴き出した。グレンは驚いているがベイルは話を始めた。
「時代遅れの馬鹿共と心中する趣味は無い。俺なんかを止めている暇があるならさっさとジーマノイドについて研究したら?」
「……どういうことだい?」
「魔族のジーマノイド技術は今のこの国を遥かに凌いでいる。今のままじゃ間違いなく俺たちは一方的にやられるだろうね。でも五百年も技術を発展させてこなかったこの国じゃ技術発展の望みもない。だから俺はあれを見つけた時に誰にも公表せずに自分で研究していたんだよ。すべての開発が一通りできる環境の提示までできるようになったら公表するつもりだったのに、あのジジイはすべてふいにしやがった。おまけにあの馬鹿がクソつまらない理由でアルビオンを破壊しやがった」
グレンは思わず自分の目をこする。それほどまでにベイルの周囲が歪み始めていたのだ。
「だから俺はもうこんな下らない慣れあいに関わる気は無い。どうせ俺一人が強くても意味が無いしな」
そう言ったベイルはそのまま影に呑まれて消えてしまう。同時にグレンはもちろん、ジェシカやアメリアはその場で座り込んでしまう。もっともそれは彼らだけじゃない。周りにいる者たちは誰一人として動けなかったのだ。それほどまでにベイルから発せられる闘気はすさまじいものだった。
シルヴィアは周りを見て鼻で笑った。
「シルヴィア、止めてあげなさい」
マリアナに言われてもシルヴィアは笑うことを止めない。
「はーい。じゃあ私も帰るから」
「ちょっ、今度はシルヴィアがお父さんを運んでよ」
「えー。どうせ道中こんこんと説教するよ、この人」
娘二人が自分を運ぶのも拒むのを聞いて涙を流すラルド。呟くように「酷いぞお前ら」と言っているが娘二人。その近くでベイルの殺気を受けても平然としているシルヴィアに目が入る。
「……君たちは何にも感じなかったのか?」
「急にどうしたんです?」
「いや、君たちは彼の殺気は大丈夫だったかと」
それを聞いてシルヴィアはケロッとしている。
「そりゃあお兄様の殺気ですから感じるぐらいはありますけど、だからって流石にそこまで大げさに倒れる程、私たちはやわな鍛え方をしていませんよ。むしろそちらが弱すぎるんです。ちゃんとトレーニング、してます?」
明らかに舐めた態度だが今のグレンは何もできない。今の彼にはシルヴィアすらも強大な何かに見えて仕方ないのだ。彼は改めてヒドゥーブル家の異常さを体感し、危険だと判断する。
しかしもうほとんど手遅れだろう。それほどまでに貴族たちはヒドゥーブルを軽視しているのだから。
ベイルが基地に戻ってくると魔族の少女―――フィアが食事を準備をしていた。
格納庫近くにある休憩所にベイルが入ってきた時、一目で様子がおかしいと察したフィアはベイルに近付いて抱き着く。
「ただいま」
「お帰りなさい。何かありましたか?」
「……大丈夫」
ベイルの手にはある紙が握られていた。
紙には「第五十七回ジーマノイドトーナメント」と書かれており、毎年技術者を発掘する為に開催されている。しかし実際のところジーマノイドを使える者―――その資金を準備できるのは貴族だけであり、平民にとっては見世物でしかない。ベイルはそれに触れる機会があるという点で貴族に生まれた事に関しては心から感謝していた。
しかし今となっては施設を手に入れた今、それに関してもどうでもいいと思っている程だ。
期間は今日から一週間。それまでにベイルは一機完成させるつもりなのだ。
「食事をしたらまた作業をするよ。まだまだアイディアはあるしね」
「わかりました。またお手伝いさせてもらっていいですか?」
「うん、お願い」
ベイルの気がかなり緩む。
今となってはベイルはフィアぐらいにしか気持ちを許していない。それほどまでにベイルは周りに裏切られ続けた。もっとも彼とて見つけた時に何もしなかったわけじゃない。とっくの昔にデータや設計図、拾えるものはすべて拾っていた。
今更周りがどうしようが知った事では無いが、だからと言ってこれまで自分を蔑ろにしてきた奴らに対して何もしない程大人になったつもりは無かった。
「あ、あの、ベイル様……」
「どうしたの?」
「実は仲間と連絡がつきまして、一週間後になんとかここに接続して回収してもらえるようになりました」
それを聞いたベイルは呆然としたが、よくよく考えれば別におかしい話じゃないと思い直して笑顔になる。
「……そっか。それは良かった」
「つきまして、向こうから私の面倒を見てくれたお礼として資源を提供しておきたいと申し出があったのですが」
「それは……してくれると嬉しいけど」
ベイルとしてはどこか引っかかる。
彼にしてみればここの使い方から魔族のジーマノイドの知識、挙句には自分がジーマノイドを作成している間のサポートはフィアが面倒を見てくれたのだ。それで物資の提供を受けるのはどうなのだろうと考える。
「嫌、でしたか?」
「ちょっと引っかかってさ。俺は別にフィアの面倒を見ていたわけじゃない。むしろこっちが助けてもらったから君の面倒を見たからもらうってのは色々と違う気がしてさ」
「向こうにとってはあなたたちの敵である私が一方的に虐められるわけではなく、一人の相手として接してくれた事にホッとしているんです。今では私たちは敵対関係なのにあなたは私を捕虜にせず、サポートさせてくれることを許可してくれましたし」
「えっと、窮屈じゃなかった?」
「全然! 普段しないことをさせてもらえて楽しかったですよ!」
と目を輝かせながら答えるフィア。それを本気で言っていると感じたベイルは笑みを浮かべる。
「わかった。こっちとしても物資を貰えるのはありがたいから受けるとするよ」
「はい!」
笑顔を見せるフィアにベイルは癒される。出された食事もとても美味しくてベイルは襲いそうになる上に正直ずっといてほしいと思うくらいにフィアの事を好いており、一緒に寝る事も多かった。もっとも、ベイルのプライドもあって流石に手は出していない。
魔族たちが開いたゲート、そこから大量の荷物が運ばれてくる。
ベイルはその隣で護衛が控えた前でフィアの頭を撫でていた。
「ありがとうございました」
「……こっちこそありがとう」
相手は魔族。少し前に殺し合いに興じていた事もあってベイルに対する視線は厳しいものだが、それでもベイルのフィアの見る目はとても穏やかだった。
フィアが護衛付きで連れて行かれるのを見送った後、一時間程してからベイルはその異空間を繋ぐゲートに干渉して今後はお互いに干渉できないようにする。
(……ちょっと、勿体なかったかもしれない)
物凄く懐いていたこともあってかベイルは本気で残念そうに思っていた。
その頃、フィアはゲートを抜けて護衛に案内されて暗い雰囲気が漂う大きな広場のような場所に移動する。そこには黒い甲冑に身を包んだ者たちが一列に並んでいた。
フィアはベイルと一緒にいた時よりも優雅に移動し、一人の男性の前に現れた。
「ただいま戻りました、お父様」
そう言った相手は―――魔王ヴァイザー・シュヴァルツ。ヴァイザーも笑顔を作り娘を迎える。
「おかえり、フィア。ベイル・ヒドゥーブルはどうだった?」
「とても良くしてくれたわ。私の事を迷い込んだ子どもだって思っていたみたいで甲斐甲斐しく世話をしてくれたし。あ、一緒にお風呂も入ってくれたわよ」
「……ほう」
ヴァイザーから殺気が漏れ始める。周りは狼狽えるがその様子を見てフィアが笑った。
「もう、その程度の事で怒らないでよ。向こうは私の髪を丁寧に洗っていたし」
「どういうことだ!」
「そもそも向こうは私たち魔族にとっても超常的な力を持つ存在とはいえ、人間の子どもよ? そんな邪な考え持つわけないじゃない」
「いや、わからんぞ。ああいう奴はいずれ複数の女を使い捨てるようにとっかえひっかえするに決まっている」
そう断言するヴァイザーに笑みを向けるフィア。
「ねぇお父様、今のベイルは人間たちに対して良い感情を抱いていないわ。攻めるなら今じゃない?」
「いや、ベイルの感情が中途半端すぎる。ああいう地雷は徹底的に取り除いた方が良い」
「随分と慎重ね」
「当然だ。他の人間はおそらくそこまで問題にならない。だがあの少年は別だ。よほど魔力が有り余っているのだろう。あの少年が純度の高い魔石が搭載されたジーマノイドに乗ってみろ。我々の居城がどれだけ落とされるかわかったものじゃない」
悲観的に話すヴァイザー。そんな自分の父親に対してフィアはとんでもない事を言った。
「ねぇお父様、お願いがあるの」
「何だ?」
「私、ベイルが欲しい」
そんな爆弾発言をしたフィアに対してヴァイザーは口をあんぐりと開けた。
「何か問題ある?」
「いや、いやいやいや、何故だ? 他にもいい男は―――」
「でも今の私たちを脅かすのはベイルだけ。違って? そんな人間なら私のパートナーに相応しいじゃない?」
確かにそうかもしれないと、ヴァイザーの脳裏に過った。しかしそれは下手すれば魔族の中に不和が生じるものでもある。安易に頷く事は出来ない。
「大丈夫よ。今のベイルはもうほとんど人間じゃない」
「それに関しては否定しないが……まぁいい。宛てはある。少しは大人しくしていろ」
「わかったわ」
フィアは大人しく下がる。そんな自分の娘の姿を見てヴァイザーはかなりベイルに対して同情した。
ちなみに普通、王族に対してこんな事をしたら即処刑レベル。許されているのはあくまで人ではどうにもできないレベルのバケモノだからです。